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彼女の今世
番外編 リーティアの欲しいもの(1)
「おはようリーティア」
「お父様おはようございます」
朝起きて、アナベルと一緒に食堂に降りてくればちょうどお父様が朝餉を食べているところだった。
お父様が座っている椅子に近づいて、チュッとリップ音を響かせながら頬に挨拶のキスをする。
「今日もよく眠れたかい」
「はい。ぐっすり」
ギュッとハグし、お父様の胸元に顔を埋めて私は答えた。
「そうか、それなら良かった。隣に座りなさい」
頷いて、アナベルが引いてくれた椅子に腰掛ける。すると直ぐに端に控えていた給仕のメイドが、コップに並々とジュースを注いでくれる。
コクコクと飲んで、コップを置けばお父様がこちらを見ていることに気が付いた。
「どうしました? お父様、何か変なところでもありますか……」
ネグリジェのまま食堂に来たことがいけなかったのだろうか。でも、いつもこの服装のまま朝餉を食べている。「はしたない」と叱られたことはないはずなのだけど……。
不思議に思って小首を傾げれば、お父様は首を横に振った。
「いいや。そういえばリーティアに尋ねてなかったなと思って。セシルは自分で言ってきたから」
「何がですか?」
運ばれてきた朝餉をちらりと見ながら返す。今日は白パンに炒った卵、カリカリに焼けたベーコンにポタージュ、蜂蜜がたっぷりかかったヨーグルト。
全てアリリエット家に仕えてくれている厨房のシェフ達が、一生懸命作ってくれた料理。出来たてなのか、湯気がほかほかと出ていていい匂いがする。
早く食べたいと思いつつも、お父様の話が終わるまで待とうとフォークを置いた。すると軽くお腹が鳴ってしまって私は慌ててお腹に手を当てた。
「食べながらでいいよ。構わずお食べ」
ふっと吐息をもらすように笑ったお父様は私に促す。
「──じゃあ……いただきます」
手を合わせてから再びフォークを持った。大人用に比べたら小ぶりのカトラリーは、まだ手が小さい私でも使いやすいようにと作られた特注品だ。セシルも模様違いでお揃いの物を所持している。
まず最初にベーコンを口に含んだ。厚みがあるそれに歯を立てれば、ジュワリと特有の肉汁が溢れ出る。
(美味しいなぁ)
もぐもぐと朝餉を口に入れていく私をお父様はずっと見つめている。じっと見られることにあまり慣れていない私は、その視線に少し居心地の悪さを感じる。
「おひょうさま、わたしが尋ねてこなかったとは?」
前半の方はまだ口の中に食べ物があったから上手く話せなかった。追加で注いでくれていたジュースを飲みながらもう一度尋ねた。
「リーティア今の季節は何だ?」
「冬ですね。昨日も雪が降っていましたし」
窓の方を見れば外側の窓枠にまだ雪が残っているし、外は一面銀世界。昨晩は吹雪一歩手前までいっていた。
ここに来るまでにすれ違った庭師達は、手袋にマフラーを首に巻き、体力のある人員とスコップを探していた。
あと、どこから手をつけるか話していた。きっと今日は雪かきをするのだろう。
「そうだよ。そして来週は何の日だ」
珈琲の匂いがして扉の方を見れば、メイドがコップに入った珈琲を運んでいた。お父様と私がまだ話をすると思って、外に控えていた執事あたりが気を利かせたのだろう。
お父様は礼を言って受け取っていたのを見計らい、先程の質問に答える。
「クリスマスですが……」
「クリスマスだ! クリスマスといえば?」
「…………」
何を言いたいのか全く分からない。
(なんだろう。教会への寄付とか?)
貴族として慈善事業には積極的に参加している。クリスマス用に別途で孤児院に届ける物も既にお母様と話し合って決めた。あとは梱包して送るだけだ。
グルグルと考えが煮詰まる。気が付けば険しい顔になっていたようで、アナベルに肩を叩かれた。
「──お嬢様。プレゼントですよプレゼント」
どうやら答えにちっとも近づかず、返答できてなかった私に助け舟を出してくれたらしい。
「クリスマスプレゼントです」
アナベルが教えてくれたことをそのまま言った。
「正解!」
お父様の瞳がいつにも増して輝き始める。そして珈琲を啜って噎せていた。私は無言でそれを眺める。
「りっリーティア」
「はい、お父様」
ようやく復活したお父様は、紙ナプキンで口元を拭きながら私の名前を呼んだ。
「今年こそ何か……欲しいものは無いのか? セシルは今、人気のビスクドールが欲しいと言ってきたよ」
数秒の間思考が止まり、首が大きく横に傾く。
欲しい……もの? 私が……? クリスマスプレゼントに?
去年までの記憶を引っ張り出す。そういえば何故か毎年この時期になると、大人達に好きなものを探られていたような気がする。
クリスマスプレゼントなんて前世で貰ったことがなかった。だから何を頼めばいいのか分からず、自分からは言わなかった。
それに物欲も前世の一件で皮肉なことにあまり無い。自分の手元には何も残らないことが分かっていたから、同じ年齢の淑女達で流行っている物でさえ、欲しいとも思わず生きていた。
今世は幸せなことに、何も言わなくてもお父様達が考えたクリスマスプレゼントを貰えた。
加えて「メリークリスマス」と朝一番に言ってもらえる。
それだけで私の心は暖かい感情で溢れていた。
「お父様おはようございます」
朝起きて、アナベルと一緒に食堂に降りてくればちょうどお父様が朝餉を食べているところだった。
お父様が座っている椅子に近づいて、チュッとリップ音を響かせながら頬に挨拶のキスをする。
「今日もよく眠れたかい」
「はい。ぐっすり」
ギュッとハグし、お父様の胸元に顔を埋めて私は答えた。
「そうか、それなら良かった。隣に座りなさい」
頷いて、アナベルが引いてくれた椅子に腰掛ける。すると直ぐに端に控えていた給仕のメイドが、コップに並々とジュースを注いでくれる。
コクコクと飲んで、コップを置けばお父様がこちらを見ていることに気が付いた。
「どうしました? お父様、何か変なところでもありますか……」
ネグリジェのまま食堂に来たことがいけなかったのだろうか。でも、いつもこの服装のまま朝餉を食べている。「はしたない」と叱られたことはないはずなのだけど……。
不思議に思って小首を傾げれば、お父様は首を横に振った。
「いいや。そういえばリーティアに尋ねてなかったなと思って。セシルは自分で言ってきたから」
「何がですか?」
運ばれてきた朝餉をちらりと見ながら返す。今日は白パンに炒った卵、カリカリに焼けたベーコンにポタージュ、蜂蜜がたっぷりかかったヨーグルト。
全てアリリエット家に仕えてくれている厨房のシェフ達が、一生懸命作ってくれた料理。出来たてなのか、湯気がほかほかと出ていていい匂いがする。
早く食べたいと思いつつも、お父様の話が終わるまで待とうとフォークを置いた。すると軽くお腹が鳴ってしまって私は慌ててお腹に手を当てた。
「食べながらでいいよ。構わずお食べ」
ふっと吐息をもらすように笑ったお父様は私に促す。
「──じゃあ……いただきます」
手を合わせてから再びフォークを持った。大人用に比べたら小ぶりのカトラリーは、まだ手が小さい私でも使いやすいようにと作られた特注品だ。セシルも模様違いでお揃いの物を所持している。
まず最初にベーコンを口に含んだ。厚みがあるそれに歯を立てれば、ジュワリと特有の肉汁が溢れ出る。
(美味しいなぁ)
もぐもぐと朝餉を口に入れていく私をお父様はずっと見つめている。じっと見られることにあまり慣れていない私は、その視線に少し居心地の悪さを感じる。
「おひょうさま、わたしが尋ねてこなかったとは?」
前半の方はまだ口の中に食べ物があったから上手く話せなかった。追加で注いでくれていたジュースを飲みながらもう一度尋ねた。
「リーティア今の季節は何だ?」
「冬ですね。昨日も雪が降っていましたし」
窓の方を見れば外側の窓枠にまだ雪が残っているし、外は一面銀世界。昨晩は吹雪一歩手前までいっていた。
ここに来るまでにすれ違った庭師達は、手袋にマフラーを首に巻き、体力のある人員とスコップを探していた。
あと、どこから手をつけるか話していた。きっと今日は雪かきをするのだろう。
「そうだよ。そして来週は何の日だ」
珈琲の匂いがして扉の方を見れば、メイドがコップに入った珈琲を運んでいた。お父様と私がまだ話をすると思って、外に控えていた執事あたりが気を利かせたのだろう。
お父様は礼を言って受け取っていたのを見計らい、先程の質問に答える。
「クリスマスですが……」
「クリスマスだ! クリスマスといえば?」
「…………」
何を言いたいのか全く分からない。
(なんだろう。教会への寄付とか?)
貴族として慈善事業には積極的に参加している。クリスマス用に別途で孤児院に届ける物も既にお母様と話し合って決めた。あとは梱包して送るだけだ。
グルグルと考えが煮詰まる。気が付けば険しい顔になっていたようで、アナベルに肩を叩かれた。
「──お嬢様。プレゼントですよプレゼント」
どうやら答えにちっとも近づかず、返答できてなかった私に助け舟を出してくれたらしい。
「クリスマスプレゼントです」
アナベルが教えてくれたことをそのまま言った。
「正解!」
お父様の瞳がいつにも増して輝き始める。そして珈琲を啜って噎せていた。私は無言でそれを眺める。
「りっリーティア」
「はい、お父様」
ようやく復活したお父様は、紙ナプキンで口元を拭きながら私の名前を呼んだ。
「今年こそ何か……欲しいものは無いのか? セシルは今、人気のビスクドールが欲しいと言ってきたよ」
数秒の間思考が止まり、首が大きく横に傾く。
欲しい……もの? 私が……? クリスマスプレゼントに?
去年までの記憶を引っ張り出す。そういえば何故か毎年この時期になると、大人達に好きなものを探られていたような気がする。
クリスマスプレゼントなんて前世で貰ったことがなかった。だから何を頼めばいいのか分からず、自分からは言わなかった。
それに物欲も前世の一件で皮肉なことにあまり無い。自分の手元には何も残らないことが分かっていたから、同じ年齢の淑女達で流行っている物でさえ、欲しいとも思わず生きていた。
今世は幸せなことに、何も言わなくてもお父様達が考えたクリスマスプレゼントを貰えた。
加えて「メリークリスマス」と朝一番に言ってもらえる。
それだけで私の心は暖かい感情で溢れていた。
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