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彼女の今世
episode76
エルニカ猊下と転移した先は猊下の執務部屋だった。
「さて、リーティアさんはそのまま帰宅するのかしら」
「いいえ、皆のところに合流しようと思います。それほど時間は経っていないのですよね」
「そうね、三十分くらいだったはず」
エルニカ猊下はスカートのポケットから懐中時計を取りだした。
「全員集まっていると思うから……私と行きましょうか」
「はい」
頷くとエルニカ猊下は指をパチンと弾いた。
猊下の指先から光の粒子が溢れ、するすると私の体を包み込む。
「さすがにノルン様が着せたネグリジェ姿のままでは外に出られないでしょう。元の服に着替えましょう」
光の粒子が輝きを増して目が眩んだかと思いきや、一気に収束する。すると天界に行くまで着ていた装束と髪型に戻った。
私はエルニカ猊下と並んで皆の元へ移動する。その道中、猊下はさらりと告げるのだ。
「すっかり頭から抜け落ちていて伝えるのを忘れていたわ。お手伝いしてくださった方の一人、キャサリンさんなのだけど神官の治療を受けているわ」
「えっ」
(だから執務室にエルニカ様が居なかったのかしら)
ウィオレス様に運んでもらった時、エルニカ猊下が執務部屋にいらっしゃらなかった結果、彼に眠らされたのである。
「だ、大丈夫なのですか? 私に付き添うよりもキャサリン様の元に行かれた方が……」
「大丈夫だいじょうぶ。私がすぐに治癒魔法かけたし、私の部下はひ弱な者が多いけれどこれでも魔法に関しては優秀なのよ。きちんと対応してくれているわ」
「だから私の出番はこれからの事ね」と猊下は続けた。
「とはいえ、リーティアさんも心配でしょう? どうやら皆さんも控え室で待っているよう言付けたのだけれど、キャサリンさんが運ばれた医務室の方に向かったみたい」
猊下が手のひらを上にするとその上に大きな水球が現れた。最初はもやもやと半透明だった水球はすぐに透き通っていき、中に別の景色が浮かび上がってくる。
そこには見知った皆の姿があった。瓶がずらりと並んだ薬品棚が背後に備え付けられ、その手前に設置された白い簡易ベッドには一人の少女が寝かされている。
それを取り囲むように皆それぞれ簡易的な椅子に座っているのだった。
「では私も医務室の方へ行きます」
エルニカ猊下に案内してもらい、医務室に到着する。猊下がコンコンコンとノックしてドアノブを捻ると薬品の独特なツンっとした匂いが鼻についた。
医務室は大きな窓が開いていてふわふわと春の温かな陽気が頬をくすぐる。
「あっリティ!」
駆け寄ってきたのはエレン様だ。
「そこの魔術師様がリティはちょっと別のことで呼ばれていると教えてくれたんですけど、エルニカ猊下と共に来たということは、猊下絡みだったんですか?」
「そうです」
どうやらウィオレス様は私の不在に、それとなくありそうな理由をでっち上げてくれようだった。肝心の彼は窓際で腕を組んで外の景色を眺めていたようだが、自分の名前がエレン様の口から出たことにより、視線をこちらに移していた。
「私のことよりもキャサリン様、体調はいかがですか」
柔らかな枕をクッション代わりにして上半身を起こしていたキャサリン様に声をかける。
彼女は白湯を飲んでいたようで、ふわふわと湯気が立ち上るカップをサイドテーブルに置いた後、申し訳なさそうに眉を下げた。
「リーティア様にもご心配をおかけしてすみません。儀式の終わりかけに体に力が入らなくなってしまって、頑張って意識を持たせようとしたのですが……気づいたら倒れていたみたいなのです」
キャサリン様の顔は未だ少し青白かった。
「緊張で昨日は眠れず、寝不足がたたってしまいました。無事に終えられて緊張が緩んだのも相まって皆様にご迷惑を……私の体調管理不足です」
「いやいや、誰しも緊張しますし、管理不足だと責める必要ありませんよ」
エレン様が慰め言葉を送る。するとエルニカ猊下も彼女に同調する。
「エレンさんの言う通りですよ。それに儀式の最後、私が空から祝福が降り注がせたでしょう? 祝福とは普通の魔法よりも魔力が込められているの。踊り子として私の近くに居たのもあって、強い魔力を近くで浴び続けたからかもしれないわ」
(人に良い作用を齎す魔法、例えば治癒魔法でも自分が負っている怪我の程度より強い治癒を受けると過剰となってしまって、逆に傷口に上手く作用せずに悪化することもあるものね)
魔法も一長一短なのだ。便利ではあるけれど、手放しに利点ばかりではない。
「さあ後は私がキャサリンさんに付き添うので他の方は親御さんの元へ行きなさい。お迎えが来ているそうよ」
エルニカ猊下に促され私たちは一言づつキャサリン様に言葉をかけてから医務室を後にした。
◇◇◇
「もう体調は平気なのか」
成り行きでウィオレス様の隣にいた私はそう彼から尋ねられた。
「元気ですよ。猊下に治癒魔法をかけてもらいました」
実際のところは時間経過の違う天界で眠り、魔力を回復したことで熱も下がったのだが、まあ治癒魔法をかけてもらったのと同類にしてもいいだろう。
「本当か?」
「疑うなら触ってみてください」
私は視界を遮るヴェールをティアラと共に脱ぐと、前髪を上げて額を晒す。すると彼は眉をひそめた。
「…………無防備だな」
「何がですか?」
きょとんと首を傾げるとウィオレス様はなんでもないと首を横に振って、右手の手袋を脱いでからそうっと私の額に触れる。
体温があまり高くないのだろうか。ウィオレス様の手のひらはひんやりとしていて、でもすぐにぬるくなった。
「下がっているな」
「ね? 言った通りでしょう」
「ああ、だがもう無茶するんじゃないぞ。公爵令嬢は人に頼ることを覚えた方がいいのは間違いない」
説教くささを覚えるが、私としても全部自分で解決する思考に軸を置きがちなのは弱い点だと考えているので素直に受け入れておく。
すると彼はふっと表情を緩め、額に置いていた手を少しずらして私の頭に触れた。
私より大きくて固い手がまるで慈しむように動く。それを目で追いながら私は言った。
「…………癖になってませんか」
「何がだ」
「頭を撫でることですよ」
そこでようやくウィオレス様は私の頭に置いていた手を凝視した。
(気づいてなかったのかしら)
事ある毎に髪や頭を撫でられるので、妹がいるらしいウィオレス様は常日頃からそのようなスキンシップを取るお方で、癖で私にもしてしまうのかと思ったのだが。
彼は今初めて知ったかのように固まり、手を引っ込めた。
「…………癖になってるみたいだな。無闇矢鱈に触られるのは嫌だろうから気をつける。すまない」
「別に嫌悪感は抱いてませんから謝らなくて大丈夫です。ただ、人によっては嫌う方も当然いますので気をつけるに越したことはないかと」
「ああ」
たぶん彼にとって私は妹に似た存在なのだと思う。年下だから守らないといけない存在──のような感じで、ついつい小言がうるさくなったり、世話を焼いてくるのだ。
(魔法の面でもお力をお貸し頂いているし、それもあって放っておけない人物に認定されてしまったのかしら)
ならば腑に落ちる。セシルにも髪飾りを与えてくださったし、年下に世話を焼くのが性なのかもしれない。
(案外面倒見がいい方なのよね)
口にしたら否定されそうなので言わないけど。
「リティー!! と魔術師さんっ! 置いていっちゃいますよー!」
エレン様の声が回廊に響き渡る。どうやら立ち止まっていた間に随分とエレン様たちと距離が開いてしまったようだ。
「はーい! すぐ追いつくわ! ウィオレス様行きましょう」
「そうだな」
私は手袋をはめ直したウィオレス様と共にエレン様たちに合流した。
そうして私個人の問題としては結構色々山積みなのだけど、とりあえず表立った問題は全て解決し、無事(?)に大祝祭は成功を収めて幕を閉じた。
その後は短い春休みで、終わると第二学年としての日々が始まる。私の人生にしてはつかの間の──と言いたくはないのだけれど、自分が望んでいたような平穏で平凡な学校生活が数年続くこととなる。
その数年はウィオレス様から魔力制御を学び、努力が身を結んでコントロールできるようになり始めたら下級、中級、魔力の多い者向けの上級魔法について徐々に教えてもらった。
アルバート殿下ともようやく距離感を掴み始め、適度な距離を取って接することが出来ていた。
ノルン様やエルニカ猊下達にもたまにお会いしていたが、神様絡みの問題に巻き込まれることもなく、このまま幸せな時間がずっと続くのではないかと錯覚しそうになったほどだ。
ただ、そんな簡単に私は波乱万丈な人生から抜け出せないらしい。
穏やかな時期の話については機会があればおいおい話すとして、前世で急逝された皇帝陛下に代わってアルバート殿下が即位する年──つまり今世での学校生活においては卒業学年の一つ下、第五学年の時なのだけれど、そこからまた私の人生は「いつになったら平穏な日々が送れるのかしら?」と問いたくなるようなドタバタの嵐なのである。
「さて、リーティアさんはそのまま帰宅するのかしら」
「いいえ、皆のところに合流しようと思います。それほど時間は経っていないのですよね」
「そうね、三十分くらいだったはず」
エルニカ猊下はスカートのポケットから懐中時計を取りだした。
「全員集まっていると思うから……私と行きましょうか」
「はい」
頷くとエルニカ猊下は指をパチンと弾いた。
猊下の指先から光の粒子が溢れ、するすると私の体を包み込む。
「さすがにノルン様が着せたネグリジェ姿のままでは外に出られないでしょう。元の服に着替えましょう」
光の粒子が輝きを増して目が眩んだかと思いきや、一気に収束する。すると天界に行くまで着ていた装束と髪型に戻った。
私はエルニカ猊下と並んで皆の元へ移動する。その道中、猊下はさらりと告げるのだ。
「すっかり頭から抜け落ちていて伝えるのを忘れていたわ。お手伝いしてくださった方の一人、キャサリンさんなのだけど神官の治療を受けているわ」
「えっ」
(だから執務室にエルニカ様が居なかったのかしら)
ウィオレス様に運んでもらった時、エルニカ猊下が執務部屋にいらっしゃらなかった結果、彼に眠らされたのである。
「だ、大丈夫なのですか? 私に付き添うよりもキャサリン様の元に行かれた方が……」
「大丈夫だいじょうぶ。私がすぐに治癒魔法かけたし、私の部下はひ弱な者が多いけれどこれでも魔法に関しては優秀なのよ。きちんと対応してくれているわ」
「だから私の出番はこれからの事ね」と猊下は続けた。
「とはいえ、リーティアさんも心配でしょう? どうやら皆さんも控え室で待っているよう言付けたのだけれど、キャサリンさんが運ばれた医務室の方に向かったみたい」
猊下が手のひらを上にするとその上に大きな水球が現れた。最初はもやもやと半透明だった水球はすぐに透き通っていき、中に別の景色が浮かび上がってくる。
そこには見知った皆の姿があった。瓶がずらりと並んだ薬品棚が背後に備え付けられ、その手前に設置された白い簡易ベッドには一人の少女が寝かされている。
それを取り囲むように皆それぞれ簡易的な椅子に座っているのだった。
「では私も医務室の方へ行きます」
エルニカ猊下に案内してもらい、医務室に到着する。猊下がコンコンコンとノックしてドアノブを捻ると薬品の独特なツンっとした匂いが鼻についた。
医務室は大きな窓が開いていてふわふわと春の温かな陽気が頬をくすぐる。
「あっリティ!」
駆け寄ってきたのはエレン様だ。
「そこの魔術師様がリティはちょっと別のことで呼ばれていると教えてくれたんですけど、エルニカ猊下と共に来たということは、猊下絡みだったんですか?」
「そうです」
どうやらウィオレス様は私の不在に、それとなくありそうな理由をでっち上げてくれようだった。肝心の彼は窓際で腕を組んで外の景色を眺めていたようだが、自分の名前がエレン様の口から出たことにより、視線をこちらに移していた。
「私のことよりもキャサリン様、体調はいかがですか」
柔らかな枕をクッション代わりにして上半身を起こしていたキャサリン様に声をかける。
彼女は白湯を飲んでいたようで、ふわふわと湯気が立ち上るカップをサイドテーブルに置いた後、申し訳なさそうに眉を下げた。
「リーティア様にもご心配をおかけしてすみません。儀式の終わりかけに体に力が入らなくなってしまって、頑張って意識を持たせようとしたのですが……気づいたら倒れていたみたいなのです」
キャサリン様の顔は未だ少し青白かった。
「緊張で昨日は眠れず、寝不足がたたってしまいました。無事に終えられて緊張が緩んだのも相まって皆様にご迷惑を……私の体調管理不足です」
「いやいや、誰しも緊張しますし、管理不足だと責める必要ありませんよ」
エレン様が慰め言葉を送る。するとエルニカ猊下も彼女に同調する。
「エレンさんの言う通りですよ。それに儀式の最後、私が空から祝福が降り注がせたでしょう? 祝福とは普通の魔法よりも魔力が込められているの。踊り子として私の近くに居たのもあって、強い魔力を近くで浴び続けたからかもしれないわ」
(人に良い作用を齎す魔法、例えば治癒魔法でも自分が負っている怪我の程度より強い治癒を受けると過剰となってしまって、逆に傷口に上手く作用せずに悪化することもあるものね)
魔法も一長一短なのだ。便利ではあるけれど、手放しに利点ばかりではない。
「さあ後は私がキャサリンさんに付き添うので他の方は親御さんの元へ行きなさい。お迎えが来ているそうよ」
エルニカ猊下に促され私たちは一言づつキャサリン様に言葉をかけてから医務室を後にした。
◇◇◇
「もう体調は平気なのか」
成り行きでウィオレス様の隣にいた私はそう彼から尋ねられた。
「元気ですよ。猊下に治癒魔法をかけてもらいました」
実際のところは時間経過の違う天界で眠り、魔力を回復したことで熱も下がったのだが、まあ治癒魔法をかけてもらったのと同類にしてもいいだろう。
「本当か?」
「疑うなら触ってみてください」
私は視界を遮るヴェールをティアラと共に脱ぐと、前髪を上げて額を晒す。すると彼は眉をひそめた。
「…………無防備だな」
「何がですか?」
きょとんと首を傾げるとウィオレス様はなんでもないと首を横に振って、右手の手袋を脱いでからそうっと私の額に触れる。
体温があまり高くないのだろうか。ウィオレス様の手のひらはひんやりとしていて、でもすぐにぬるくなった。
「下がっているな」
「ね? 言った通りでしょう」
「ああ、だがもう無茶するんじゃないぞ。公爵令嬢は人に頼ることを覚えた方がいいのは間違いない」
説教くささを覚えるが、私としても全部自分で解決する思考に軸を置きがちなのは弱い点だと考えているので素直に受け入れておく。
すると彼はふっと表情を緩め、額に置いていた手を少しずらして私の頭に触れた。
私より大きくて固い手がまるで慈しむように動く。それを目で追いながら私は言った。
「…………癖になってませんか」
「何がだ」
「頭を撫でることですよ」
そこでようやくウィオレス様は私の頭に置いていた手を凝視した。
(気づいてなかったのかしら)
事ある毎に髪や頭を撫でられるので、妹がいるらしいウィオレス様は常日頃からそのようなスキンシップを取るお方で、癖で私にもしてしまうのかと思ったのだが。
彼は今初めて知ったかのように固まり、手を引っ込めた。
「…………癖になってるみたいだな。無闇矢鱈に触られるのは嫌だろうから気をつける。すまない」
「別に嫌悪感は抱いてませんから謝らなくて大丈夫です。ただ、人によっては嫌う方も当然いますので気をつけるに越したことはないかと」
「ああ」
たぶん彼にとって私は妹に似た存在なのだと思う。年下だから守らないといけない存在──のような感じで、ついつい小言がうるさくなったり、世話を焼いてくるのだ。
(魔法の面でもお力をお貸し頂いているし、それもあって放っておけない人物に認定されてしまったのかしら)
ならば腑に落ちる。セシルにも髪飾りを与えてくださったし、年下に世話を焼くのが性なのかもしれない。
(案外面倒見がいい方なのよね)
口にしたら否定されそうなので言わないけど。
「リティー!! と魔術師さんっ! 置いていっちゃいますよー!」
エレン様の声が回廊に響き渡る。どうやら立ち止まっていた間に随分とエレン様たちと距離が開いてしまったようだ。
「はーい! すぐ追いつくわ! ウィオレス様行きましょう」
「そうだな」
私は手袋をはめ直したウィオレス様と共にエレン様たちに合流した。
そうして私個人の問題としては結構色々山積みなのだけど、とりあえず表立った問題は全て解決し、無事(?)に大祝祭は成功を収めて幕を閉じた。
その後は短い春休みで、終わると第二学年としての日々が始まる。私の人生にしてはつかの間の──と言いたくはないのだけれど、自分が望んでいたような平穏で平凡な学校生活が数年続くこととなる。
その数年はウィオレス様から魔力制御を学び、努力が身を結んでコントロールできるようになり始めたら下級、中級、魔力の多い者向けの上級魔法について徐々に教えてもらった。
アルバート殿下ともようやく距離感を掴み始め、適度な距離を取って接することが出来ていた。
ノルン様やエルニカ猊下達にもたまにお会いしていたが、神様絡みの問題に巻き込まれることもなく、このまま幸せな時間がずっと続くのではないかと錯覚しそうになったほどだ。
ただ、そんな簡単に私は波乱万丈な人生から抜け出せないらしい。
穏やかな時期の話については機会があればおいおい話すとして、前世で急逝された皇帝陛下に代わってアルバート殿下が即位する年──つまり今世での学校生活においては卒業学年の一つ下、第五学年の時なのだけれど、そこからまた私の人生は「いつになったら平穏な日々が送れるのかしら?」と問いたくなるようなドタバタの嵐なのである。
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