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第一章 生まれ変わったみたいです
旅行の始まり
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アレクは私の睨みを無視してヨハネス様に尋ねる。
「ヨハネス、今年の夏は暇?」
「暇だけど……それがどうかした?」
「別荘に遊びに行かないか」
「アレクのかい?」
「そうだよ。レーゼとエステルもいるけどさ」
ヨハネス様はしばらく考え込んでから口を開いた。
「休暇中の旅行に誘われたのは初めてだ。みんな忙しいと思ってるのか、僕を誘ってくれないんだよね」
寂しそうに笑う。
いや、恐れ多いからだと思います……と心の中で私は突っ込んだ。三大公爵家というのは普通の公爵家とも格が違い、建国当初から存在する最古参の貴族家なのだ。皇家とも他の家より婚姻関係を結んでいるし、本当に格が違う。
ちなみに、ランドール公爵家も最古参の公爵家で過去は四大公爵家と括られていた。取り潰しになったけど。
「おふたりが許してくれるなら仲間に入れてもらっていいかな? それとも邪魔になってしまうかな」
「いいえっ! そんなことは決してありません。大歓迎です!」
ぶんぶん首を縦に振る。誰が拒否できるというのだろうか。ヨハネス様はお優しいからありえないが、下手したら私の首だけでなく家族の首も飛ぶ。
「決まりだな。四人でヴィンメールに行こう」
ヨハネス様は用事があるとのことでそこで離席した。アレクが後で日程を伝えておくらしい。
「まさかヨハネス様を連れてくるなんて……貴方の交友関係どうなってるのよ」
「普通だが? ちなみにヨハネスは聖人君子だが、見かけによらず、寂しがり屋だ」
「そんな情報いらない」
ぐでっと私は机に突っ伏す。
(知られたら、私、他の子に殺されるかも。ただでさえ、未だにアレクとのことであることないこと言われるのに)
結局、この四年間新しい恋はしなかった。ありがたいことに男子生徒から告白されたこともあるが、好きでもない人と付き合うのも申し訳なく思い、全部振っている。
それなのにアレクとは距離が近いもんだから。あまり交流のない中位・下位クラスの生徒や他学年に誤解されてしまうのだ。
その度に私は丁寧に訂正しているが、キリがない。
まあ何か言われるのも慣れてしまったし、実害は無いのであまり気にしないようにしているけれど。
「何にせよ、旅行は楽しいものにしたいね。せっかくみんなで行くのだから!」
ヨハネス様がいるという大問題をポイッと捨てて、私は何をしようかだけを考えることにした。
◇◇◇
「わあ……! とっても綺麗!」
柔らかな潮風に下ろしていた髪が流される。新しく今日という日のために仕立てた向日葵を彷彿とさせる淡い黄色のドレスも、窓から入ってきた風をはらんでふわりふわりと裾が靡いた。
緩やかな石畳の街道は、真っ白なビーチとその後ろ広がる広大な青い海へ真っ直ぐに続いていた。外国の国旗を掲げた異国船がゆっくりと港に入港している。
道の両側には純白に塗り揃えられた建物が立ち並び、レストランだと思われる建物のテラス席では、港町ということで魚介類が使われたさっぱりとしたパスタを堪能している観光客が座っていた。
馬車の窓からその光景を眺めていた私は、車内にいたエステルへと視線を戻す。
「晴れてよかったね!」
「そうね~」
さんさんときらめく太陽に雲ひとつない青空。絶好の観光日和である。
「白い建物が現れ始めたってことはヴィンメールには入ってるのよね」
「うん、別荘は市街地の少し外れたところだって言ってたからもうすぐ着くんじゃないかな」
膝に置いていたガイドブックをパラパラめくる。一度訪れたことがあるとはいえ、ヴィンメールの観光スポットなどは知らないので、良い場所はないかなと書店で買ってみたのだ。
行きたいな~という場所は角を折って分かりやすくしている。
「あっ私ここが行きたい」
エステルは載っていたスイーツ店を指した。そこにはイチゴとアイスクリームをたっぷり使ったパフェが有名らしい。
暑い夏にはぴったりのスイーツだ。
「うん、荷物置いたら行こう」
甘いものは私も大好きなのでわくわくする。
(たーっくさん楽しむんだ!)
そのために貯めてたお金も十二分に持ってきている。
──とそこで馬車が止まった。
「着いたぞ」
ガチャリと開いた扉の向こう側からアレクが手を差し出す。
「ありがとう」
白いつばのある帽子をかぶった私は、お礼を言ってその手を借り、ヴィンメールの地を踏んだ。
窓を開けた時よりも潮の香りがする。長時間座って凝り固まった体をほぐすため、んーっと大きく伸びをしていると、頭上に影が作られる。
「テレーゼ嬢、日差しが強いので日傘をどうぞ」
女性ならば一発で恋に落ちてしまいそうな柔らかい微笑とともに、ヨハネス様が私の傘を差してくれたようだ。
「ありがとうございます。持ちますね」
傘の柄を持とうと手を伸ばせば、ひょいっと躱される。
「いえ、僕が差しますよ」
(……紳士だ)
傘を投げて寄越すアレクとは大違いの対応だ。
「坊っちゃま、中に運ぶお荷物はこちらで宜しいでしょうか」
「ああ、手前の馬車に乗っているものと、後ろの馬車の荷物で分けて客室に運んでくれ」
「──かしこまりました」
アレクはこの別荘の使用人と思われる若い男性に命令してから私たちのところに戻ってきた。
「荷解きをしてもいいけど、観光しに行くか?」
「うん。あんなに綺麗な街並みを見たあとでワクワクを抑えて荷解きなんてしていられないわ!」
帝都はどこもなんというか古き良き街並みという感じで、厳かな建物が多い。けれど、ヴィンメールは外国との交流が盛んになったここ二十年ほどで開発が進んだ街であり、帝都とは建物の造りが違う。
それにこんな素敵な街に私は四日間しか滞在できないのだ。日中に荷解きをして時間を浪費するのははっきり言って惜しい。
「そういうことでエステルと街歩きがてらパフェを食べに行くけれど……二人も着いてきてくれますか?」
エステルの腕に私の腕を絡めながら尋ねる。
さすがに初日から別行動はまずいだろうし、私たちは土地勘がない。毎年訪れているというアレクの案内がないと迷子になってしまいそうだ。
男性陣がパフェに興味がなかったら申し訳ないが着いてきてくれるととても助かる。
「僕は構わないよ。甘いものは好きだしね」
「俺も別にいいよ。エステルとレーゼの好きなところに行けばいい」
快く快諾してくれたのでとても嬉しい。
私たちは別荘の使用人に遊びに行くと伝え、再び馬車に乗り込んだのだった。
「ヨハネス、今年の夏は暇?」
「暇だけど……それがどうかした?」
「別荘に遊びに行かないか」
「アレクのかい?」
「そうだよ。レーゼとエステルもいるけどさ」
ヨハネス様はしばらく考え込んでから口を開いた。
「休暇中の旅行に誘われたのは初めてだ。みんな忙しいと思ってるのか、僕を誘ってくれないんだよね」
寂しそうに笑う。
いや、恐れ多いからだと思います……と心の中で私は突っ込んだ。三大公爵家というのは普通の公爵家とも格が違い、建国当初から存在する最古参の貴族家なのだ。皇家とも他の家より婚姻関係を結んでいるし、本当に格が違う。
ちなみに、ランドール公爵家も最古参の公爵家で過去は四大公爵家と括られていた。取り潰しになったけど。
「おふたりが許してくれるなら仲間に入れてもらっていいかな? それとも邪魔になってしまうかな」
「いいえっ! そんなことは決してありません。大歓迎です!」
ぶんぶん首を縦に振る。誰が拒否できるというのだろうか。ヨハネス様はお優しいからありえないが、下手したら私の首だけでなく家族の首も飛ぶ。
「決まりだな。四人でヴィンメールに行こう」
ヨハネス様は用事があるとのことでそこで離席した。アレクが後で日程を伝えておくらしい。
「まさかヨハネス様を連れてくるなんて……貴方の交友関係どうなってるのよ」
「普通だが? ちなみにヨハネスは聖人君子だが、見かけによらず、寂しがり屋だ」
「そんな情報いらない」
ぐでっと私は机に突っ伏す。
(知られたら、私、他の子に殺されるかも。ただでさえ、未だにアレクとのことであることないこと言われるのに)
結局、この四年間新しい恋はしなかった。ありがたいことに男子生徒から告白されたこともあるが、好きでもない人と付き合うのも申し訳なく思い、全部振っている。
それなのにアレクとは距離が近いもんだから。あまり交流のない中位・下位クラスの生徒や他学年に誤解されてしまうのだ。
その度に私は丁寧に訂正しているが、キリがない。
まあ何か言われるのも慣れてしまったし、実害は無いのであまり気にしないようにしているけれど。
「何にせよ、旅行は楽しいものにしたいね。せっかくみんなで行くのだから!」
ヨハネス様がいるという大問題をポイッと捨てて、私は何をしようかだけを考えることにした。
◇◇◇
「わあ……! とっても綺麗!」
柔らかな潮風に下ろしていた髪が流される。新しく今日という日のために仕立てた向日葵を彷彿とさせる淡い黄色のドレスも、窓から入ってきた風をはらんでふわりふわりと裾が靡いた。
緩やかな石畳の街道は、真っ白なビーチとその後ろ広がる広大な青い海へ真っ直ぐに続いていた。外国の国旗を掲げた異国船がゆっくりと港に入港している。
道の両側には純白に塗り揃えられた建物が立ち並び、レストランだと思われる建物のテラス席では、港町ということで魚介類が使われたさっぱりとしたパスタを堪能している観光客が座っていた。
馬車の窓からその光景を眺めていた私は、車内にいたエステルへと視線を戻す。
「晴れてよかったね!」
「そうね~」
さんさんときらめく太陽に雲ひとつない青空。絶好の観光日和である。
「白い建物が現れ始めたってことはヴィンメールには入ってるのよね」
「うん、別荘は市街地の少し外れたところだって言ってたからもうすぐ着くんじゃないかな」
膝に置いていたガイドブックをパラパラめくる。一度訪れたことがあるとはいえ、ヴィンメールの観光スポットなどは知らないので、良い場所はないかなと書店で買ってみたのだ。
行きたいな~という場所は角を折って分かりやすくしている。
「あっ私ここが行きたい」
エステルは載っていたスイーツ店を指した。そこにはイチゴとアイスクリームをたっぷり使ったパフェが有名らしい。
暑い夏にはぴったりのスイーツだ。
「うん、荷物置いたら行こう」
甘いものは私も大好きなのでわくわくする。
(たーっくさん楽しむんだ!)
そのために貯めてたお金も十二分に持ってきている。
──とそこで馬車が止まった。
「着いたぞ」
ガチャリと開いた扉の向こう側からアレクが手を差し出す。
「ありがとう」
白いつばのある帽子をかぶった私は、お礼を言ってその手を借り、ヴィンメールの地を踏んだ。
窓を開けた時よりも潮の香りがする。長時間座って凝り固まった体をほぐすため、んーっと大きく伸びをしていると、頭上に影が作られる。
「テレーゼ嬢、日差しが強いので日傘をどうぞ」
女性ならば一発で恋に落ちてしまいそうな柔らかい微笑とともに、ヨハネス様が私の傘を差してくれたようだ。
「ありがとうございます。持ちますね」
傘の柄を持とうと手を伸ばせば、ひょいっと躱される。
「いえ、僕が差しますよ」
(……紳士だ)
傘を投げて寄越すアレクとは大違いの対応だ。
「坊っちゃま、中に運ぶお荷物はこちらで宜しいでしょうか」
「ああ、手前の馬車に乗っているものと、後ろの馬車の荷物で分けて客室に運んでくれ」
「──かしこまりました」
アレクはこの別荘の使用人と思われる若い男性に命令してから私たちのところに戻ってきた。
「荷解きをしてもいいけど、観光しに行くか?」
「うん。あんなに綺麗な街並みを見たあとでワクワクを抑えて荷解きなんてしていられないわ!」
帝都はどこもなんというか古き良き街並みという感じで、厳かな建物が多い。けれど、ヴィンメールは外国との交流が盛んになったここ二十年ほどで開発が進んだ街であり、帝都とは建物の造りが違う。
それにこんな素敵な街に私は四日間しか滞在できないのだ。日中に荷解きをして時間を浪費するのははっきり言って惜しい。
「そういうことでエステルと街歩きがてらパフェを食べに行くけれど……二人も着いてきてくれますか?」
エステルの腕に私の腕を絡めながら尋ねる。
さすがに初日から別行動はまずいだろうし、私たちは土地勘がない。毎年訪れているというアレクの案内がないと迷子になってしまいそうだ。
男性陣がパフェに興味がなかったら申し訳ないが着いてきてくれるととても助かる。
「僕は構わないよ。甘いものは好きだしね」
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