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第二章 【過去編】イザベル・ランドール
突然の訪問客
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「どうして貴方がここにいるわけ?」
そんな言葉をイザベルが発した理由を知るには、数分前に遡らなければならない。
朝食を終え、侍女であるララと共に朝の庭園を満喫したイザベルが屋敷内に戻ろうとしたところ、エントランスのポーチに一台の馬車が止まっていた。
(まーた予定外のお客様かしら)
執事から何も聞いていない。
(馬車に家紋も印字されてないし怪しいわ)
イザベルは訝しみながら中へ戻った。けれどもエントランスホール内には招かれざる客はおらず、すれ違う使用人達もそれほどざわめいていない。
「ララ」
「はい、お嬢様」
「この扉の先にいるのは誰だと思う?」
応接室のドアノブに手をかけながら尋ねると、ララは苦笑する。
「私に尋ねるまでもなく、お嬢様は薄々勘づいているのではないですか」
「…………たぶん、ね」
わざわざ家紋の付いてない馬車、使用人たちがそれほど驚かず、すんなりと通されている。それでいてこの家と関わりのある人となれば自ずと絞られる。
(──私の予想が正しければ)
ガチャリと扉を開けると正面のソファに座っていた黒髪の青年が顔を上げる。イザベルはちょっと顔を険しくし、腕を組んでから声をかけた。
「どうして貴方がここにいるわけ? ──ユース」
彼はソファから腰をあげようとしたので、それを制する。
イザベルはユリウスの正面に腰を下ろした。
「お父様は今日は皇宮よ。邸にはいらっしゃらないわ」
「イザーク様に用事があって来た訳じゃない。ベルに会いたかったから来たんだ」
「そんな理由で? 忙しいでしょうに」
するとユリウスは笑って首を横に振った。
「死んだと思われていた第三皇子が出戻ったところで忙しくなるはずがないだろう? 仮に忙しくともベルに会うことの方が僕にとって重要なんだ。だってもう一週間も会ってない」
そんな返答にイザベルはぱちぱちと瞬かせる。
「たかが一週間じゃない」
ユリウスは少し唇をとがらせ腰を上げる。まるで自分の居場所はそこであるかのように、ユリウスはイザベルの隣に座り直す。少し傾くソファに、自然とイザベルがユリウスの方に身体を預ける形になった。
「ベルは寂しくないの」
「まさか! 寂しいに決まっているわ。だって何年私がユースにべったりくっ付いていたと思う? 十年はくだらないわ」
行動で示すためイザベルはぎゅっとユリウスに抱きついた。その際、彼からほのかに香る柑橘系の匂いはランドール邸で暮らしていた時よりも抑えられ、新たに森林を思い起こすシダーウッドの匂いが混ざっていることに気づく。
その事に寂寥感が襲ってきそうになり、振り払った。
ユリウスもイザベルの背中に腕を回す。
「その後、調子はどうかな」
「元気いっぱいよ」
「そっか。それならいいんだ」
抱擁を終え、ユリウスを見上げる。
「で、本当の目的は何かしら」
「やっぱりベルには敵わないね」
すっと目を眇められ、纏う雰囲気がガラリと変わる。
あまり謁見を好まない皇帝が小娘と対話したのだ。噂が立ち、ユリウスの耳に入るのも時間の問題。
「皇帝に何をされた?」
「何も無いわ」
にっこりと笑う。
(あれは絶対に一言も漏らしてはいけない。知ったが最後、ユースのことだから首を突っ込んでくるに決まっている)
実際のところ何かをされた訳では無いのだ。イザベルが勝手に恐怖を覚えただけで。
「シラを切るなら聞き方を変えようかな。何を話したか教えてくれる?」
「ユースが心配するようなものは何も。ただの世間話よ」
一歩も譲らないイザベルは、ララが淹れた紅茶に口をつける。
「本当に心配しないで」
「心配……そんなちっぽけな物じゃないんだ」
「ん?」
「僕のせいでベルは」
くしゃりと顔を歪めたユリウスは言葉を紡ごうとして唇を震わすに留める。そうして表情を取り繕うのだ。
「どうしてもと言うなら、これ以上は無理に聞かない。代わりに再来週、皇宮で開かれる舞踏会に参加しないでほしい」
「嫌よ。貴方のお披露目だと皆が噂している舞踏会よ? 参加するに決まっているわ」
事前に皇帝が珍しく参加するという話が出回っているのだ。勘の悪い人間でも何かがあると察知するだろうに。
(否定しないってことはやっぱりお披露目を兼ねているのね)
こくりともう一口、紅茶を飲む。
(そもそも私は呪いが解けて美青年に成長したユリウスを見た他の令嬢たちの様子を、観察することをずっと待ち望んでいたのだから!)
みすみすと絶好の機会を逃すつもりは無い。
もうウキウキで新しいドレスだって注文した。なのに、参加するなだなんて納得しがたい。
「…………説得は難しいだろうなとは来る前から思っていたよ」
「ならさっさと諦めてくださいな。私、意地でも参加するから」
「わかった。全部諦めるからせめて、せめてだよ? 舞踏会中、イザーク様から離れないで」
ユリウスは念押しする。
「お願いだから」
「う、うん」
妙な気迫に圧倒され、こくこく頷いた。
そんな言葉をイザベルが発した理由を知るには、数分前に遡らなければならない。
朝食を終え、侍女であるララと共に朝の庭園を満喫したイザベルが屋敷内に戻ろうとしたところ、エントランスのポーチに一台の馬車が止まっていた。
(まーた予定外のお客様かしら)
執事から何も聞いていない。
(馬車に家紋も印字されてないし怪しいわ)
イザベルは訝しみながら中へ戻った。けれどもエントランスホール内には招かれざる客はおらず、すれ違う使用人達もそれほどざわめいていない。
「ララ」
「はい、お嬢様」
「この扉の先にいるのは誰だと思う?」
応接室のドアノブに手をかけながら尋ねると、ララは苦笑する。
「私に尋ねるまでもなく、お嬢様は薄々勘づいているのではないですか」
「…………たぶん、ね」
わざわざ家紋の付いてない馬車、使用人たちがそれほど驚かず、すんなりと通されている。それでいてこの家と関わりのある人となれば自ずと絞られる。
(──私の予想が正しければ)
ガチャリと扉を開けると正面のソファに座っていた黒髪の青年が顔を上げる。イザベルはちょっと顔を険しくし、腕を組んでから声をかけた。
「どうして貴方がここにいるわけ? ──ユース」
彼はソファから腰をあげようとしたので、それを制する。
イザベルはユリウスの正面に腰を下ろした。
「お父様は今日は皇宮よ。邸にはいらっしゃらないわ」
「イザーク様に用事があって来た訳じゃない。ベルに会いたかったから来たんだ」
「そんな理由で? 忙しいでしょうに」
するとユリウスは笑って首を横に振った。
「死んだと思われていた第三皇子が出戻ったところで忙しくなるはずがないだろう? 仮に忙しくともベルに会うことの方が僕にとって重要なんだ。だってもう一週間も会ってない」
そんな返答にイザベルはぱちぱちと瞬かせる。
「たかが一週間じゃない」
ユリウスは少し唇をとがらせ腰を上げる。まるで自分の居場所はそこであるかのように、ユリウスはイザベルの隣に座り直す。少し傾くソファに、自然とイザベルがユリウスの方に身体を預ける形になった。
「ベルは寂しくないの」
「まさか! 寂しいに決まっているわ。だって何年私がユースにべったりくっ付いていたと思う? 十年はくだらないわ」
行動で示すためイザベルはぎゅっとユリウスに抱きついた。その際、彼からほのかに香る柑橘系の匂いはランドール邸で暮らしていた時よりも抑えられ、新たに森林を思い起こすシダーウッドの匂いが混ざっていることに気づく。
その事に寂寥感が襲ってきそうになり、振り払った。
ユリウスもイザベルの背中に腕を回す。
「その後、調子はどうかな」
「元気いっぱいよ」
「そっか。それならいいんだ」
抱擁を終え、ユリウスを見上げる。
「で、本当の目的は何かしら」
「やっぱりベルには敵わないね」
すっと目を眇められ、纏う雰囲気がガラリと変わる。
あまり謁見を好まない皇帝が小娘と対話したのだ。噂が立ち、ユリウスの耳に入るのも時間の問題。
「皇帝に何をされた?」
「何も無いわ」
にっこりと笑う。
(あれは絶対に一言も漏らしてはいけない。知ったが最後、ユースのことだから首を突っ込んでくるに決まっている)
実際のところ何かをされた訳では無いのだ。イザベルが勝手に恐怖を覚えただけで。
「シラを切るなら聞き方を変えようかな。何を話したか教えてくれる?」
「ユースが心配するようなものは何も。ただの世間話よ」
一歩も譲らないイザベルは、ララが淹れた紅茶に口をつける。
「本当に心配しないで」
「心配……そんなちっぽけな物じゃないんだ」
「ん?」
「僕のせいでベルは」
くしゃりと顔を歪めたユリウスは言葉を紡ごうとして唇を震わすに留める。そうして表情を取り繕うのだ。
「どうしてもと言うなら、これ以上は無理に聞かない。代わりに再来週、皇宮で開かれる舞踏会に参加しないでほしい」
「嫌よ。貴方のお披露目だと皆が噂している舞踏会よ? 参加するに決まっているわ」
事前に皇帝が珍しく参加するという話が出回っているのだ。勘の悪い人間でも何かがあると察知するだろうに。
(否定しないってことはやっぱりお披露目を兼ねているのね)
こくりともう一口、紅茶を飲む。
(そもそも私は呪いが解けて美青年に成長したユリウスを見た他の令嬢たちの様子を、観察することをずっと待ち望んでいたのだから!)
みすみすと絶好の機会を逃すつもりは無い。
もうウキウキで新しいドレスだって注文した。なのに、参加するなだなんて納得しがたい。
「…………説得は難しいだろうなとは来る前から思っていたよ」
「ならさっさと諦めてくださいな。私、意地でも参加するから」
「わかった。全部諦めるからせめて、せめてだよ? 舞踏会中、イザーク様から離れないで」
ユリウスは念押しする。
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