生まれ変わり令嬢は、初恋相手への心残りを晴らします(と意気込んだのはいいものの、何やら先行き不穏です!?)

夕香里

文字の大きさ
89 / 126
第三章 不穏な侍女生活

懐かしいお茶(1)

しおりを挟む
「ごめんなさいテレーゼさん、私もう無理だわ」
「わーちょちょっとまっ!」

 弱々しい声に床を掃いていた私は即座に振り返ったのだが、共に客室の掃除をしていた同僚は限界だったようでそのまま崩れ落ちた。

 慌てて冷たい床と彼女の背中の間に腕を入れ、抱き寄せる。ゴホゴホと咳き込む彼女の顔は熟れた林檎のように赤く、額に手を当てるととても熱い。

(ああ、まただ)

 ここ数日の悪夢を思い出してため息を吐く。

「熱があるなら出仕してはいけないと侍女長に言われたでしょう? 他の人にも移ってしまうからって」
「それでも……人手が……」
「その言い訳はもう通用しないのよ。そうやって無理やり出仕した侍女から発症していなかった者に移されて感染しているもの」

 夏が終わり、秋を迎える祭祀も無事執り行われて窓の外の木々は鮮やかな紅や黄色に色付いていた。

 秋を迎えたヘストリアでは気温が下がったことによって風邪と同類の流行病が巷では流行しているのだ。

 数日前、一人の侍女が仕事中に発熱で倒れたことを皮切りに、流行病でバタバタと順番に倒れているのだ。
 それほどタチの悪い病ではなく、風邪を少し拗らせたような症状が出るだけなので、きちんと薬を飲み、療養すれば後遺症もなく回復する。

 ただ問題なのが熱が中々引かないのだ。そのため倒れていく侍女は日に日に増えているのに、仕事に復帰できる人間がおらず、人手が足らずに無理やり出仕する者が現れ、そこからまた感染────というループに陥っていた。

「私を支えにして立てますか?」
「ええ」

 一時掃除を中断し、ふらりとよろける同僚を支えながら医務室へ運ぶ。
 運び終わったところに今度は侍女長が顔を出した。彼女は大きな籠を抱き抱えていて、その中には汚れたシーツなどが山のように積まれていた。

 本来、侍女長となれば侍女の中でも上に立つ者として書類仕事が多くなるはず。侍女長が下っ端のするような仕事までも抱えているということは、危機的なほど人が足りていないらしい。

「テレーゼさん、今お手隙?」
「申し訳ありません。今朝、割り振られました客室の清掃がまだ済んでいません」
「では、それは後回しにして。貴女には手伝って頂きたいことがあります。着いてきてちょうだい」
「かしこまりました」

 横になった同僚に一言声をかけてから医務室を退出する。
 早足に廊下を進む侍女長──チェルシーさんは歩きながら用件を伝えてくる。

「貴女も知っている通り、万年人手不足の上でこの流行病。感染してしまうのは防ぎようのないことですから致し方ありませんが、中には移されるのが嫌だからと仮病で出仕しない愚か者もいましてね」

(あーなんとなく誰か分かったわ)

 青筋を立てるチェルシーさんは怒りを隠すこともしない。

「本っ当に腹立たしい。のらりくらりと言い訳を並べて……ただでさえ人手が足りないというのに……無能は切り捨てたいわ」

 相当お怒りらしく、鬼の形相だ。すれ違った者がギョッとしている。

「なのでテレーゼさんには陛下付き侍女の代役としてお茶汲みをして頂きたいと思います」
「えっ」

(陛下ってチェルシーさんは仰ったよね!?)

 聞き間違いだろうか。陛下のお茶汲みは陛下付き侍女の特権となっていて、だいたい高位貴族かつ、皇后の座を狙っている令嬢が独占しているのだ。
 
 そして仮病で出仕を拒んでいるのも位の高い令嬢だったりする。
 
「そこまで驚かなくても良いでしょうに。頼まれてくれるかしら?」

 願ってもない仕事だったので即座に元気よく受け入れた。

「はい! お任せ下さい」


 ◇◇◇



 私はチェルシーさんと別れたその足でお茶の準備をするために厨房に向かった。厨房の一角には様々な茶葉が瓶に詰められ棚に収められていた。
 
 私はどの茶葉を使ってユースにお茶を淹れるか考える。

 ずらりと並ぶ瓶の蓋に付けられたタグを見ながらどのような種類があるのかを確認する。

(皇帝や客人用の茶葉だから種類も質も豊富だわ)

 テレーゼとしては飲まなくなったが、イザベル時代によく飲んでいた茶葉もあり懐かしさを覚える。

(寒くなってきたし、多忙なユースのことだもの。流行病も流行しているし、体が温まり、リラックスできるような茶葉を────)

 そんな中、目に止まったのは過去のユースが好んでいた茶葉だった。棚の隅に置かれていたそれをそっと手に取る。

 他の茶葉はかさが減っているのに対し、これは減っていないのであまり飲まれてないか、入れ替えたばかりなのだろう。

(これならユースも好きだろうし、飲んでもらえるはず)

 茶葉を決めた私は夕食の準備を始めていた厨房のシェフに頼み、お湯と紅茶に必要なミルクや蜂蜜を分けていただいた。

 そうしてお茶汲みに必要な道具等をワゴンに載せ、ユースの居る執務室のドアを叩いたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ポンコツ娘は初恋を諦める代わりに彼の子どもを所望する

キムラましゅろう
恋愛
辺境の田舎から聖騎士となった大好きな幼馴染フェイト(20)を追って聖女教会のメイドとして働くルゥカ(20)。 叱られながらもフェイトの側にいられるならとポンコツなりに頑張ってきた。 だけど王都で暮らして四年。そろそろこの先のない初恋にルゥカはケリをつける事にした。 初恋を諦める。諦めるけど彼の子供が欲しい。 そうしたらきっと一生ハッピーに生きてゆけるから。 そう決心したその日から、フェイトの“コダネ”を狙うルゥカだが……。 「でも子供ってどうやって作るのかしら?」 ……果たしてルゥカの願いは叶うのか。 表紙は読者様CさんがAIにて作成してくださいました。 完全ご都合主義、作者独自の世界観、ノーリアリティノークオリティのお話です。 そして作者は元サヤハピエン至上主義者でございます。 ハピエンはともかく元サヤはなぁ…という方は見なかった事にしていただけますと助かります。 不治の誤字脱字病患者が書くお話です。ところどころこうかな?とご自分で脳内変換しながら読むというスキルを必要とします。 そこのところをご了承くださいませ。 性描写はありませんが、それを連想させるワードがいくつか出てまいります。 地雷の方は自衛をお願いいたします。 小説家になろうさんにも時差投稿します。

子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。 そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。 そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。 ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。 突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。 リクハルド様に似ても似つかない子供。 そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

さよなら、私の初恋の人

キムラましゅろう
恋愛
さよなら私のかわいい王子さま。 破天荒で常識外れで魔術バカの、私の優しくて愛しい王子さま。 出会いは10歳。 世話係に任命されたのも10歳。 それから5年間、リリシャは問題行動の多い末っ子王子ハロルドの世話を焼き続けてきた。 そんなリリシャにハロルドも信頼を寄せていて。 だけどいつまでも子供のままではいられない。 ハロルドの婚約者選定の話が上がり出し、リリシャは引き際を悟る。 いつもながらの完全ご都合主義。 作中「GGL」というBL要素のある本に触れる箇所があります。 直接的な描写はありませんが、地雷の方はご自衛をお願いいたします。 ※関連作品『懐妊したポンコツ妻は夫から自立したい』 誤字脱字の宝庫です。温かい目でお読み頂けますと幸いです。 小説家になろうさんでも時差投稿します。

【電子書籍化・1月末削除予定】余命一カ月の魔法使いは我儘に生きる

大森 樹
恋愛
【本編完結、番外編追加しています】 多くの方にお読みいただき感謝申し上げます。 感想たくさんいただき感謝致します。全て大切に読ませていただいております。 残念ですが、この度電子書籍化に伴い規約に基づき2026年1月末削除予定です。 よろしくお願いいたします。 ----------------------------------------------------------- 大魔法使いエルヴィは、最大の敵である魔女を倒した。 「お前は死の恐怖に怯えながら、この一カ月無様に生きるといい」 死に際に魔女から呪いをかけられたエルヴィは、自分の余命が一カ月しかないことを知る。 国王陛下から命を賭して魔女討伐をした褒美に『どんな我儘でも叶える』と言われたが……エルヴィのお願いはとんでもないことだった!? 「ユリウス・ラハティ様と恋人になりたいです!」 エルヴィは二十歳近く年上の騎士団長ユリウスにまさかの公開告白をしたが、彼は亡き妻を想い独身を貫いていた。しかし、王命により二人は強制的に一緒に暮らすことになって…… 常識が通じない真っ直ぐな魔法使いエルヴィ×常識的で大人な騎士団長のユリウスの期間限定(?)のラブストーリーです。 ※どんな形であれハッピーエンドになります。

(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?

水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。 私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。

【完結】何もできない妻が愛する隻眼騎士のためにできること

大森 樹
恋愛
辺境伯の娘であるナディアは、幼い頃ドラゴンに襲われているところを騎士エドムンドに助けられた。 それから十年が経過し、成長したナディアは国王陛下からあるお願いをされる。その願いとは『エドムンドとの結婚』だった。 幼い頃から憧れていたエドムンドとの結婚は、ナディアにとって願ってもいないことだったが、その結婚は妻というよりは『世話係』のようなものだった。 誰よりも強い騎士団長だったエドムンドは、ある事件で左目を失ってから騎士をやめ、酒を浴びるほど飲み、自堕落な生活を送っているため今はもう英雄とは思えない姿になっていた。 貴族令嬢らしいことは何もできない仮の妻が、愛する隻眼騎士のためにできることはあるのか? 前向き一途な辺境伯令嬢×俺様で不器用な最強騎士の物語です。 ※いつもお読みいただきありがとうございます。中途半端なところで長期間投稿止まってしまい申し訳ありません。2025年10月6日〜投稿再開しております。

殿下、毒殺はお断りいたします

石里 唯
恋愛
公爵令嬢エリザベスは、王太子エドワードから幼いころから熱烈に求婚され続けているが、頑なに断り続けている。 彼女には、前世、心から愛した相手と結ばれ、毒殺された記憶があり、今生の目標は、ただ穏やかな結婚と人生を全うすることなのだ。 容姿端麗、文武両道、加えて王太子という立場で国中の令嬢たちの憧れであるエドワードと結婚するなどとんでもない選択なのだ。 彼女の拒絶を全く意に介しない王太子、彼女を溺愛し生涯手元に置くと公言する兄を振り切って彼女は人生の目標を達成できるのだろうか。 「小説家になろう」サイトで完結済みです。大まかな流れに変更はありません。 「小説家になろう」サイトで番外編を投稿しています。

処理中です...