生まれ変わり令嬢は、初恋相手への心残りを晴らします(と意気込んだのはいいものの、何やら先行き不穏です!?)

夕香里

文字の大きさ
109 / 126
第四章 捧げられる愛に手を伸ばして

もう一度、ここから(1)

しおりを挟む
「駄目だ眠れないまま朝になってる」

 寝台の中で丸まっていた私はチュンチュンと小鳥の鳴き声を聞いて眠ることを諦めた。シーツを剥ぎ、緩慢な動作で上半身を起こせばカーテンの隙間から降り注ぐ朝の光がまばゆい。
 私付きの侍女リリィが入室してくるのを待ち、いつもよりゆっくりと朝の支度をしてから欠伸を連発しながら朝食へ足を運ぶ。

「レーゼおはよう」

 食堂に入るとお父様がちょうど食べ終えたところだった。ナプキンで口を軽く拭きながら陽気な笑顔を向けてくれる。

「おはようございます。今日はお仕事ではないのですか?」
「ああ、久しぶりのお休みなんだ。レーゼは昨日アレクセイくんと出掛けてたが、今日も休みなのかい?」

 食後の珈琲を啜るお父様はにこにことしながら的確に今一番深く聞かれたくない部分を突いてくる。ギクッとしながらもごくごく自然に見えるよう微笑を浮かべながらお父様の隣に座った。

「一週間のお休みをいただいたのです」
「そうか、ゆっくり休みなさい。働き詰めはよくないからね。むしろ退職しても構わないんだよ? 私やレイラとずっと一緒に暮らそう」
「ええ、侍女の仕事は私にとって荷が重かったみたいなので辞めようと思います」

 着席して間を置かずに配膳された、じゃがいもをトロトロになるまで煮たスープからは白い湯気が上がっている。ふんわり香る匂いに胃を刺激されてわくわくと匙で掬いながら伝えると、お父様は噎せた。

「尋ねた私が言うのもあれだが、あんなにも努力して掴んだ職を辞めるのかい? もしや嫌がらせでもされたかい? だからなのかい?」 

 途端表情を険しくする。眉をひそめたお父様は私が侯爵家のご息女に閉じ込められて棚の下敷きになったことを知らなかった。対外的には体調を崩してユースの前で倒れたことになっている。
 その後はピタリと嫌がらせも止んだし、主犯のヴェローナ様は私が数日お休みを頂いて復帰した時には忽然と姿を消したのでお父様が察知する余地もないのだ。

「いいえ、心配をかけるようなことは一切ありませんよ。単に家でのんびりする生活が恋しくて。退職にお父様は反対ですか?」
「まさか! レーゼの意思を尊重するよ。本音を言えば辞めるなら辞めるで私は嬉しい。レイラやレーゼには邸で不自由なくのんびりしていてほしいから。そのために私は当主として働いているんだ」
 
 お父様は席を立って私の頭をわしゃわしゃと撫でた。

「ここだけの話、レイラもこの広い屋敷で昼間一人でいるのは寂しいみたいだからレーゼがそばに居てくれるなら喜ぶだろう」
「…………それもあるかと思いますが、お母様が寂しい思いをされているのはお父様の帰宅が遅いからですよ。以前愚痴を零していました」
「うっそれを言われてしまうと反論できないな……し、仕事がな……忙しいんだよ……」
「やらなくて良いような雑用までも、引き受けてしまうからですよ。私も皇宮で何度か見かけましたもの。お父様、きっぱりお断りしてください。そうでなければいつまでもいいように扱われます」
「娘が辛辣だ……」

 お父様はこれ以上の小言は聞きたくないと耳を塞いで逃げるように食堂を去っていく。
 私は食事を再開して完食してから席を立った。

(アレクのことに、ユースのこと。どちらも頭が痛くなるくらい難題だわ)

 とはいえ、ユースの件については辞めてしまえば関わりもなくなるだろうし、さほど問題にならない気がした。彼は社交界にも顔を出さないし、女性である私は男性のように皇帝陛下に謁見するような機会もない。

(問題はアレクよ。結婚なんて考えたことなかった)

 今世では侍女として仕事に邁進するつもりだったのだ。結婚なんて以ての外。ユースへの恋心を燻らせている私は恋愛さえもするつもりがなかった。

(お父様やお兄様はずっとここにいていいと仰ってくれているけれど、お兄様はいずれ結婚されるでしょうし、新しく迎える奥方にとって私は小姑。邪魔よね)

 未婚の小姑がいつまでも屋敷にいるのは居心地が悪いだろう。そんな負担をお兄様の未来の花嫁さんに背負わせたくなかった。

 かと言って貴族の娘が一人で生計を立てていくのは不可能に等しい。家族もこればかりは大反対するだろう。ならば結婚するしか家を出る手段が存在しない。

(…………アレクの提案は私にとってとても都合がいい)

 厚意に甘えたくなるし、絶対に誰かと結婚するならば気心の知れたアレクを選びたい。

 陽光が差し込む廊下をゆっくりと歩きながら私は考える。

(ただ、たとえアレクが良しとしても、彼に対して不誠実なのには変わりない)

 もしかしたらアレクのことを好きになれるかもしれないけれど、だからといってユースへの思いが消えることにはならないと確信していた。

「恋心って厄介だわ。──ヴィスお兄様?」

 エントランスホールに差し掛かった曲がり角で、壁に体を隠しながらエントランスを熱心に見つめるお兄様がいた。奇妙に思い、声をかけるとお兄様は普段とは似つかない物々しい形相で歩み寄ってくる。

「私はいつもレーゼの好きなようにすればいいと思っているし、好きなことをして幸せそうにしているレーゼを見るのが生き甲斐だけれど…………一体なにをしたらあの方が訪問される事態になるんだい?」
「? 仰る意味を理解しかね────ひぇっ」

 説明を省くほど焦るヴィスお兄様。私はお兄様の横にずれ、ホールを覗き込む。

 すると先に食事を終えて食堂を後にしていたお父様と本来ここに居るべきではない人物を認めてしまい、引きつった声が漏れた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ポンコツ娘は初恋を諦める代わりに彼の子どもを所望する

キムラましゅろう
恋愛
辺境の田舎から聖騎士となった大好きな幼馴染フェイト(20)を追って聖女教会のメイドとして働くルゥカ(20)。 叱られながらもフェイトの側にいられるならとポンコツなりに頑張ってきた。 だけど王都で暮らして四年。そろそろこの先のない初恋にルゥカはケリをつける事にした。 初恋を諦める。諦めるけど彼の子供が欲しい。 そうしたらきっと一生ハッピーに生きてゆけるから。 そう決心したその日から、フェイトの“コダネ”を狙うルゥカだが……。 「でも子供ってどうやって作るのかしら?」 ……果たしてルゥカの願いは叶うのか。 表紙は読者様CさんがAIにて作成してくださいました。 完全ご都合主義、作者独自の世界観、ノーリアリティノークオリティのお話です。 そして作者は元サヤハピエン至上主義者でございます。 ハピエンはともかく元サヤはなぁ…という方は見なかった事にしていただけますと助かります。 不治の誤字脱字病患者が書くお話です。ところどころこうかな?とご自分で脳内変換しながら読むというスキルを必要とします。 そこのところをご了承くださいませ。 性描写はありませんが、それを連想させるワードがいくつか出てまいります。 地雷の方は自衛をお願いいたします。 小説家になろうさんにも時差投稿します。

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

【電子書籍化・1月末削除予定】余命一カ月の魔法使いは我儘に生きる

大森 樹
恋愛
【本編完結、番外編追加しています】 多くの方にお読みいただき感謝申し上げます。 感想たくさんいただき感謝致します。全て大切に読ませていただいております。 残念ですが、この度電子書籍化に伴い規約に基づき2026年1月末削除予定です。 よろしくお願いいたします。 ----------------------------------------------------------- 大魔法使いエルヴィは、最大の敵である魔女を倒した。 「お前は死の恐怖に怯えながら、この一カ月無様に生きるといい」 死に際に魔女から呪いをかけられたエルヴィは、自分の余命が一カ月しかないことを知る。 国王陛下から命を賭して魔女討伐をした褒美に『どんな我儘でも叶える』と言われたが……エルヴィのお願いはとんでもないことだった!? 「ユリウス・ラハティ様と恋人になりたいです!」 エルヴィは二十歳近く年上の騎士団長ユリウスにまさかの公開告白をしたが、彼は亡き妻を想い独身を貫いていた。しかし、王命により二人は強制的に一緒に暮らすことになって…… 常識が通じない真っ直ぐな魔法使いエルヴィ×常識的で大人な騎士団長のユリウスの期間限定(?)のラブストーリーです。 ※どんな形であれハッピーエンドになります。

(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?

水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。 私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。

子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。 そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。 そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。 ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。 突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。 リクハルド様に似ても似つかない子供。 そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。

数多の令嬢を弄んだ公爵令息が夫となりましたが、溺愛することにいたしました

鈴元 香奈
恋愛
伯爵家の一人娘エルナは第三王子の婚約者だったが、王子の病気療養を理由に婚約解消となった。そして、次の婚約者に選ばれたのは公爵家長男のリクハルド。何人もの女性を誑かせ弄び、ぼろ布のように捨てた女性の一人に背中を刺され殺されそうになった。そんな醜聞にまみれた男だった。 エルナが最も軽蔑する男。それでも、夫となったリクハルドを妻として支えていく決意をしたエルナだったが。 小説家になろうさんにも投稿しています。

殿下、毒殺はお断りいたします

石里 唯
恋愛
公爵令嬢エリザベスは、王太子エドワードから幼いころから熱烈に求婚され続けているが、頑なに断り続けている。 彼女には、前世、心から愛した相手と結ばれ、毒殺された記憶があり、今生の目標は、ただ穏やかな結婚と人生を全うすることなのだ。 容姿端麗、文武両道、加えて王太子という立場で国中の令嬢たちの憧れであるエドワードと結婚するなどとんでもない選択なのだ。 彼女の拒絶を全く意に介しない王太子、彼女を溺愛し生涯手元に置くと公言する兄を振り切って彼女は人生の目標を達成できるのだろうか。 「小説家になろう」サイトで完結済みです。大まかな流れに変更はありません。 「小説家になろう」サイトで番外編を投稿しています。

【本編完結・番外編追記】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。

As-me.com
恋愛
ある日、偶然に「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言する婚約者を見つけてしまいました。 例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃりますが……そんな婚約者様はとんでもない問題児でした。 愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。 ねぇ、婚約者様。私は他の女性を愛するあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄します! あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 番外編追記しました。 スピンオフ作品「幼なじみの年下王太子は取り扱い注意!」は、番外編のその後の話です。大人になったルゥナの話です。こちらもよろしくお願いします! ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』のリメイク版です。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定などを書き直してあります。 *元作品は都合により削除致しました。

処理中です...