生まれ変わり令嬢は、初恋相手への心残りを晴らします(と意気込んだのはいいものの、何やら先行き不穏です!?)

夕香里

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第四章 捧げられる愛に手を伸ばして

味のしない昼食(2)

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 前世の絞首台へ向かう死刑囚のように──いや、それよりも足取りが重い。昼食会場への道のりは急な角度の坂道を登るような心地だった。

 キリキリする胃を擦りながらこれ以上火に油を注がないでほしいと、リーゼロッテ様から見えない角度でユースの裾を引っ張り訴えた事が功を奏したのだろうか。
 移動中もリーゼロッテ様から投げかけられる言葉をユースはきちんと受け止めて返していた。

 ララが準備してくれていたのか、昼食会場には既に食器がセッティングされていた。ワゴンの近くで彼女は静かに控えている。

「座りましょう!」

 重苦しい空気を吹き飛ばすように明るい声を出す。セッティングの位置から察するに上座はユース、その両隣に私とリーゼロッテ様が座ればいいだろう。
 ささっと窓際の方に座ると、隣にいたユースが何やら物言いたげに見つめてくるが無視だ。無視。

 ユースが座り、リーゼロッテ様も着席する。それを機にララがワゴンの上に乗っていた料理を給仕する。

「まあ! このスープ、とても美味しいですわ」

 リーゼロッテ様はスープを一口飲み、蕩けるような微笑みを見せてくださる。その仕草は優美で完璧すぎて、見ているこちらがかえって緊張してしまうほどだ。

「お気に召していただけて光栄だ。日々研鑽を積むシェフたちも喜ぶことだろう」

 ユースが落ち着いた声で返す。彼の態度はあくまで皇帝としての礼儀を重んじたものだが、そのやりとりの端々にはじわりと緊張感が漂っていた。

「でしたら陛下自らわたくしの言葉を直接シェフの方々に伝えてくださいな。それと少々お話がズレますが……」

 リーゼロッテ様はスプーンを置き、意味ありげにこちらを見た。

「テレーゼさんは入職されてから一年足らずで陛下付きになられたと伺いましたわ。その若さでこれほど重要なお役目を任されるなんて、きっと素晴らしいご才覚がおありなのでしょう」

 突然振られた言葉に、私は一瞬目を見開き、慌てて答える。

「い、いえ、私に才覚などありません。周りの方々に助けていただきながら一つ一つの仕事を精一杯こなしただけです」
「謙虚でいらっしゃるのね」

 リーゼロッテ様は笑顔を浮かべながらも、その目は私の全てを見透かすようだ。その視線に、私は自然と背中を伸ばしてしまう。

「謙遜しなくていい。私の支えとして十分な仕事をしてくれているから取り立てている。テレーゼ以外に私付きに相応しい人間はいない」

 リーゼロッテ様の発言に私よりも気分を害したのか、ユースが割って入るように言葉を発した。その力説はむしろ火に油を注ぐような結果になった。

 彼女は手を打ってにこりと笑う。

「まぁ、陛下にそこまで信頼されるなんて素敵ですわ。──新米のテレーゼさんは陛下とお会いする機会も少ないと愚考いたしますが、どのようにして信頼を勝ち取ったのでしょうか」

 リーゼロッテ様の笑みが深まり、まるでこちらを値踏みするような視線が向けられる。

「……それは……」

 笑っているのに突き刺すような視線が痛い。
 言葉がうまく続かない私を見て、リーゼロッテ様は大袈裟に表情を曇らせた。

「答えにくい質問でごめんなさい。ですが、こうしてお二人が共に行動される様子を拝見すると、何かしら特別な絆があるのではないかとつい考えてしまいまして」

 彼女の言葉が、まるでその縁を暴こうとするように室内に響く。

「絆とは、信頼と努力で作られるものだ。そもそも、貴女には関係ないだろう。私と彼女の話だ」

 ユースが私を庇う。これ以上踏み込むことは許さないと、牽制のようでもあった。

「陛下に言われてしまいますと立つ瀬がありませんわ。ただ、わたくしだって陛下との仲を深めたいと思っていますの。テレーゼ様、わたくしも陛下と絆を築けるように、どのようにして信頼を得られたのか、ぜひご教示いただけません?」

 茶目っ気たっぷりに。けれどもその裏に隠れる圧倒的強者であるが故に、お願いを断られるとは微塵も考えていない威圧。
 私は視線を落としてしまう。心臓は早鐘を打ち、食事どころではなかった。

(リーゼロッテ皇女……とてもとてもお怒りになられている)

 ふわふわと綿菓子のようで可憐な人物像がどんどん塗り替えられていく。ユースに何を言われても気にしてない素振りが板についていたのに、この昼食では私に対して敵対心を露わにしている。

(怖いけれど、処刑されるよりはマシよ。あれより怖いことなんて存在しないもの)

 それに前世は公爵令嬢だ。十年以上前ではあるが、この手のやり口には悲しいことに慣れている。気持ちを奮い立たせて自分の声が震えていないか確かめるように、なるべく穏やかな調子で答える。

「申し訳ないのですが特段何かをした覚えがなく……加えて私と陛下の関係性は君主と臣下であり、それ以上でも以下でもないのです。リーゼロッテ皇女の参考にはならないかと」

 彼女は少し目を細め、唇に柔らかな笑みを浮かべる。

「それはわたくしが決めることであって、貴女が勝手に決めることではないわ。わたくしはご教授いただけるか問うているの。そのご返答は難しいということ?」

 その一言に、冷水を浴びさせられたように寒気がする。まるで薄氷の上を歩いているようだ。

(…………生意気な小娘が口答えしているんだもの。むしろこれだけで済んでいるのがおかしいくらい)

 舌戦で済むならありがたいことだ。

「いいえ、何か皇女殿下のご参考になるのでしたら喜んで全てをお伝えいたします。なんなりとお申し付け下さい」

 深々と頭を下げた私を見て、リーゼロッテ様は満足げに微笑んだ。これで一旦この場は丸く収まった──と一瞬でも気を緩めた私が甘かった。

 彼女はまるで軽いお願いをするかのように明るい声で提案したのだ。

「でしたら陛下、へストリアに滞在している間だけでいいのです。わたくしに彼女をお貸しくださいな」
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