悪役令嬢になったようなので、婚約者の為に身を引きます!!!

夕香里

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第二章 アルメリアでの私の日々

双子の秘密

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マーガレット王女に手を引かれて庭園に着く頃には、私の息が上がってしまっていた。

 普段の私はこんなに走らないから少し走るだけでも体力の消耗が激しい。
 でも、学校には課外授業もあると聞いている。これくらいで息が上がっていたら到底体力が持たない。

(これは……体力をつけないといけないわね)

 私は密かに心に決めたのだった。
 
「アタナシア様大丈夫?」

 うつむき加減に芝生を見ていた私は顔を上げる。そこにはマーガレット王女は少しの呼吸の乱れもないようで、心配げにこちらを見ていた。

 マーガレット王女の体力はどれ程のものなのか。小走りだったとはいえ、謁見の間からここまでは数百メートルあるはず……。

「すみません。少しお待ちいただけますか? 私の体力不足のようで、これ以上今動くのは難しいです」

 深呼吸をしながらマーガレット王女に伝えると、彼女は傍にいつの間にか控えていた侍女に、何かを言付けていた。

「ごめんなさい。お父様にもよく言われるの。私の体力は他の令嬢と違うから同じ基準で行動するなって」

 悲しげに項垂れながらマーガレット王女は傍にあったベンチに私を座らせてくれた。

「妹は生まれつき他の令嬢達より体力が多いんだ。恐らく男性の平均ぐらいは持っているだろうね」

 横からこちらも息一つ乱れていないアレクシス殿下がマーガレット王女の話に補足する。

「それは羨ましいです! 私は屋内で過ごすことが多いので少しだけでも息が上がってしまって……」

 男性の平均ぐらいなら、とても体力があるという事。それくらいあれば学校生活が始まっても疲れることはなさそうだ。

 そんな風に思いながら彼女を見ると、彼女は目を見開いて固まっていた。

「えっと……私、何か無礼を働きました……? 粗相をしてしまったのなら大変申し訳御座いません」

 不安に駆られ、尋ねると彼女はくしゃりと顔を歪めた。

「違う……違うの。アタナシア様は私が普通の令嬢と違うことを変に思わないの? その、女の子らしくないとか……」

「何故です? 体力があるのはある分だけ素晴らしいことです。それに、体力が多いからといって女の子らしくないとは? どちらにせよ、マーガレット王女殿下は可愛らしい方というだけです」

 先程まで初対面であり、上の者に対して言う発言では無いかもしれないが、言わないといけない気がして彼女に伝える。

 すると瞳に溜まっていた大粒の涙がぽろり、ぽろり、と彼女の頬に伝い始めた。

 その様子に今度は私が固まってしまった。

(もしかしてやらかしてしまった? 私のせいでマーガレット王女が泣いてる?)

 慌てて立ち上がり、マーガレット王女に手を差し出そうとしては引っ込める。それを何度か繰り返していると彼女は泣きながらも、声を出して笑い始めた。

「貴方は……他の人と違うのね」

「だから言っただろう? 彼女のほかの令嬢と違う色を持つと」

「そうね、私も見たけどお兄様の言う通りだった」

──色?

 何を話しているのか理解できない中、マーガレット王女とアレクシス殿下は兄弟で言葉を交えていた。

「アタナシア様、急に泣き出してしまってごめんなさい。泣いたのは悲しかったからではないの。アタナシア様の言葉が嬉しかったの」

 兄弟での会話が終わると、涙を拭きながら彼女は私に向けてゆっくり話し始める。

「嬉しかった……ですか?」

 私の言葉の何が嬉しかったのかしら? 特段、マーガレット王女を嬉しくさせる言葉を言った覚えがない。
 それでも彼女は私の言葉に頷いた。

「そう。嬉しかった。他の人だと私の事を奇異な目で見てくるのに、アタナシア様はちゃんと見てくれることが」

 柔らかく笑う王女殿下はまさに天使そのもの。そんな可愛らしい彼女が奇異な目で見られることなんてあるのだろうか。
 天使だと言われるのであれば納得できるけど。

 困惑しつつ、次の言葉を待っていると彼女の代わりにアレクシス殿下が私の疑問に答えるように口を開いた。

「妹は体力だけではなく、他の事情からも令嬢達や貴族からも奇異な目で見られることが多い。そちらの国は分からないけど、この国では令嬢が子息並みに体力を持つのはおかしいという考えが蔓延っている」

 話しながらも殿下は庭園に咲き誇る花を1輪手折り、マーガレット王女の髪にさした。

「それに、私達は双子だ。君も知っているだろう? 双子はあまりよく思われないことを」

 話を振られてどのように答えればいいのか分からず、言葉に詰まってしまう。

 知っていないといえば嘘になる。それはこの大陸に生まれたのならば誰でも小さい頃に一度は聞かされる話。

 だが、双子だとあちら側から紹介があったのでアルメリアでは偏見は無いのだと勘違いしていた。それに私はその話を信じてはいないし、その話によって顔色を変えるのはおかしいと思っている。

 大切なのは相手を自分の目でことであって、勝手に憶測で相手をことでは無いから。

 無言を貫いていると、先程とは打って変わって悲痛さを瞳の奥に隠し、こちらに視線を向けるアレクシス殿下と、悲しげにその後の言葉をマーガレット王女が紡ぐ。


「双子の片方は幸運を呼び、もう片方は────を呼ぶ」


 その言い伝えは双子の片割れは幸運を呼び込み、もう片方は厄災を呼び込む。それによって二つの魂は混ざり合い、平等になる。そして、どちらがどちらなのかはその時が訪れないと分からない。

 だから双子は不吉。

 科学的根拠は何も無いが、古来からの言い伝えであるこの話は今も信じている人が多い。よって、生まれた赤子が双子だった場合、厄災を恐れた親によって殺されることも普通。

「信じていない者も増えてきているが、信じる者も多い。幸いなことに私の瞳は黄金色。だが、妹の瞳は──だ」

 一般的に深紅の瞳は美しいと思われている。でも、深紅は時に血の色として忌み嫌われる。それが双子の瞳に出てしまったら……

 想像するのは容易に出来る。人々はその者を忌まわしく思い、避けるだろう。

 それ故に言い伝えは時に残酷だと思う。確証が無いものであるのに時に人に希望を抱かせ、時に人を傷つけ、そして、恐怖に取り憑かれた人々によって憎悪や排除の対象を作り上げるのだから。

「私の……瞳の色は言い伝えと合わさって厄災を呼び込むのではないかと思われているの。……お母様の瞳の色だって綺麗な深紅なのに」

 何かをこらえるように話す彼女は、儚げで今にも消えそうだ。

「妹も、私と同じ黄金色の瞳を受け継げればよかったのだが……もしくはせめて赤系統の色でなければ」


 交互に、双子の兄弟は語り掛けるように呟く。


「アタナシア様も、言い伝えは知っているでしょう?私を見ると初対面の人は怪訝な顔をするの。例え顔に出さなくても。私達には分かってしまうから……だけど、アタナシア様からは何も感じ取れなかった」

 止まったはずの涙が再びマーガレット王女の瞳に浮かぶ。
 それは先程の朗らかで溌剌とした彼女とは似ても似つかない、傷付き、悲しんでいる普通の令嬢のようだった。

 そっと、アレクシス殿下はハンカチを取りだしてマーガレット王女に差し出す。

「私のパートナーになるから話すけど、私達の使える魔法の中に相手の感情の色が見える感情魔法がある。私達はそれを共有しあっているんだ。君からは幸せとはまた違うけど、そちら系統の色が見えた」

「感情の色……」

 それはきっと私の回復魔法と同じ、特殊魔法の中でも最上位に位置する魔法。
 憶測でしかないが、恐らくアルメリアの貴族に対して秘匿にされているはずだ。パートナーになるとしても、私に教えてしまっていいのだろうか。

「何故自分に? と思っているような顔だね。私達は君に教えておいた方がいいと判断したから話した。それに、魔法の事を外部に話すか話さないかは私達兄妹に一任されているから」

 くすり、と少し笑いながら、アレクシス殿下は視線をマーガレット王女に向ける。

「見たくなくても、見えてしまう。嘘を見抜くには便利だけど忌々しい魔法だよ。真実は残酷なこともあるから。特に周りから忌まわしい者として見られてしまう妹にはね」

 ぎゅっとハンカチを握りしめ、俯いていたマーガレット王女は意を決したかのように顔を上げる。

「だから私は嬉しいの。アタナシア様は本当の友人になってくれるんじゃないかって。私を奇異な目で見ないで一人の人として見てくれるんじゃないかって」

 冷えた手が私の手を絡め取り、祈りを捧げるように彼女の胸の前で組まれた。

「だから……ね、アタナシア様。私のお友達になってくださらない?」

 彼女は拒絶されることを恐れてか、少し怯えながらも尋ねたのだった。
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