悪役令嬢になったようなので、婚約者の為に身を引きます!!!

夕香里

文字の大きさ
21 / 88
第二章 アルメリアでの私の日々

王都(1)

しおりを挟む

 ボスンッという音と圧迫感で目が覚めた私は寝返りを打ちつつ再び夢の中に入ろうと開きかけた瞼を閉じる。

「────きて!起きて!ターシャ!」

「んっ…?まだ………」

 私は無視して夢の中に入ろうとする。それでも声を掛けてくる誰か。

 誰の声だろう。しかも私の周りにターシャ何て呼ぶ人は居ないはずなのに……。そこまで考えて頭が冴えてくる。私、ターシャって呼ばれた?ターシャ…?

 ターシャと私を呼ぶ人は1人しか居ない。ということはマーガレット王女?!

 ガバッとシーツを跳ね除けて、閉じかけていた瞼を開ける。

「あっ起きた?おはようターシャ」

 そこにはにこにこと笑いながら、淡い空色のドレスに身を包み、金糸雀色の柔らかい髪をポニーテールにして私が寝ていたベッドの上にちょこんと座っているマーガレット王女がいらっしゃった。

「マっマーレ…?どうしてここにいるのですか?」

「何故って?ターシャを起こしに来たのよ!」

 エッヘンとしているマーガレット王女。一瞬、自分が寝坊したのかと冷や汗をかきながら窓に視線を向ける。が、外はまだ暁闇(ぎょうあん)で、闇と光が混ざっている最中のようなそんな色だった。

「マーレ、今何時ですか…?」

「今?今は……確か5時半かな?」

「5時……半……マーレは早起きなのですね」

 早い。マーガレット王女はとても朝が早いようだ。私の部屋に来たのが5時半だとして、彼女は既に身支度を終えている。身支度には1時間はかかるはずなのでマーガレット王女は4時半には起きていたことになる。

「いつもは違うわ!今日は……そのっ……ターシャとお兄様と王都に行けるから……楽しみで…」

 私が考えていることが分かったのだろう。マーガレット王女は慌てて弁明するが、声が段々小さくなっていった。
 それが本当に可愛い。

「私も楽しみで昨日は眠れなかったです」

「………本当?」

「本当ですよ」

 嘘をつくつもりもないし、嘘をついたところでマーガレット王女にはバレてしまう。それをマーガレット王女も知っているはずなのに上目遣いに潤んだ瞳を向けられてしまう。

「朝早くから失礼、アタナシア嬢起きている?」

 不意にコンコンとノックがかかり、外から男性の声が聞こえてくる。

「あっお兄……様……だ」

 慌ててベッドから降りたマーガレット王女はワタワタとして、クローゼットの中に隠れようとする。

「アレクシス殿下、私は起きていますけどどうされました?」

「妹のマーガレットはそこにいる?」

「……えっ……と……」

 チラリとクローゼットに隠れているマーガレット王女を見ると、彼女は首を横にフルフルと降った。多分、居ないと言って欲しいのだろう。

「アレクシス殿下、マーガレット王女はいらっしゃいませんわ」

「……そうかい。朝から失礼したね」

 なっ納得したのかしら?少しだけ声のトーンが下がっていたような気がするが、殿下の声には慣れていないのでそう思っただけかもしれない。取り敢えず場を凌ぎきったと思った私は安堵する。

「────アタナシア嬢、迷惑をかけたマーガレットのことを庇わなくていいんだよ。妹がここにいるのは伝えに来てくれた侍女達によって私は知っているから」

 ………前言撤回。アレクシス殿下は知っていらした。これは私がここにマーガレット王女が居ないと言ったのが却って逆効果になった気がする。

「マーガレット、部屋から出てきなさい。出てこないならグレンに言うよ」

 アレクシス殿下が言うと、マーガレット王女は間髪を入れずにクローゼットから飛び出し、ドアに向かって大声で話しかける。

「お兄様待って!グレンにだけは言ったらダメよ!課題が増える!!!ターシャ!ターシャが朝食を食べて支度できたくらいにまた会いに来るわ!!!じゃあね!」

 クローゼットから飛び出し、ガチャリとドアノブを捻ってドアを開けるまで約5秒。その速さと行動力はまるで嵐のようで目を見張ってしまった。

「アタナシア様、姫様がご迷惑をおかけいたしました。後ほどきつく叱っておきますので」

「いえ…私は大丈夫ですよ」

 マーガレット王女と代わるようにシワひとつ無い侍女の服に身を包んだ方が入ってくる。

「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。私はマーガレット王女殿下の侍女長をしています。マリエラと申します。アレクシス殿下と姫様からアタナシア様の身支度を手伝うように言付けられていますので、朝のご支度をお手伝いさせていただきますね」

 そう言いながら丁寧に礼をしてくれるマリエラ様。

「マリエラ様、ありがとうございます」

 ルーナは先に学校の寮に入り、部屋の片付けをしてくれているのでいつもはルーナが手伝ってくれる朝の支度を手伝っていただけるのはとても助かる。

「様は必要ありません。アタナシア様は隣国、ソルリア王太子殿下のでございますから」

「そ…う…ですか」

 婚約者という言葉が重くのしかかる。どう未来が転んでも、殿下の隣には居られない。殿下の好きな人は私ではなくてローズだから。だから、彼の婚約者として見られるのは少し居心地が悪い。
 それに何事も無く留学から帰国し、記憶の通りに日々が進むのならば帰国した時期には殿下とローズは出逢っている。私はそこで殿下に婚約解消を懇願するつもりだ。既に惹かれ始めている最中に私から提案すれば穏便に解消することが出来るだろう。

 そうすれば彼もローズと一緒になれるし、私は身を引けるので牢屋に入れられることはない。

 婚約解消によって私は傷物になってしまい、家には迷惑をかけることになるけど罪を着せられ牢屋の中で死ぬよりも解消の方が公爵家にとっても被害が少ない。

「では、アタナシア様ご支度を」

 マリエラはマーガレット王女様が隠れたクローゼットとは別のところに出しておいた私の服を手に取り、私が着やすいようにしてくれていた。

 彼女の言葉で婚約に関して考えてしまったけど今日は殿下達と王都に行くのだ。

 今日は沢山楽しむと昨日の夜決めたのだからこんなことは考えないようにしよう。考えて気分を落として、本来楽しめる物を楽しめないのはダメだ。

 私はそう考えてドレスの袖に手を通した。




       ◇◇◇◇◇◇




 支度をおえて、マリエラにエントランスホールまで案内してもらうとそこにはアレクシス殿下とマーガレット王女が既に待機していた。

「すみません。お待たせしてしまいましたか?」

「大丈夫だよ。それに朝は妹が迷惑をかけたね」

 眉尻を下げて申し訳なさそうにするアレクシス殿下。朝もそうだったけど、その様子はまるでマーガレット王女の兄と言うよりお目付け役のようだ。

「いえ、迷惑だなんて思ってないので大丈夫です」

「マーガレットはこれからも君に迷惑をかけるかもしれないが、その時は教えてくれると助かるよ」

「本当にお兄様は私のお目付け役みたいよね」

 マーガレット王女は私が思ったことと同じことをアレクシス殿下に言った。

「マーガレットの考えていることは双子の私が1番分かるから必然的に侍女達も私の所に助けを求めに来るんだよ。迷惑だから何か問題を起こすのはやめてくれないか?」

「失礼ね。私は問題を起こしたくて起こしているわけじゃないのよ!それなら侍女達の求めに応じなければいいじゃない」

「それは出来ないだろう」

 ぷんぷん怒っているマーガレット王女と迷惑そうにやれやれとしているアレクシス殿下。何も知らない人が見れば兄が妹に対してとても迷惑を被っていると思うだろう。現にとても迷惑そうだ。 

 でもアレクシス殿下の瞳は恩愛が浮かんでいるしマーガレット王女の瞳には信頼が浮かんでいるので迷惑だと言っていても、そうは思ってないように感じる。

 まあ身内でもない部外者の私がそう感じるだけで、当人同士の気持ちは違うかもしれないが。
 私にもロンお兄様がいるけどこの双子殿下くらいに信頼し合っているかと聞かれたら答えは否。勿論、ロンお兄様とは仲がいいし、大好きだけど。

「それよりもお兄様、を」

「うん分かっているよほら」

 言い合いはいつの間にか終わったようで、アレクシス殿下は手に卵型の何かを出現させ、マーガレット王女はそのの蓋を開けると中から指輪のような物を取り出す。

「はい、ターシャはこれを左手に────って指輪を既に付けてるのね。じゃあ右手につけて」

 そう言って私の右手の人差し指に金色の指輪を取付ける。

「えっと…人差し指なら左手でも宜しいのではないですか?」

「うーんまあいいんだけど、ターシャの指輪とこの指輪は併用不可な気がするから……影響を受けない右手の方がいいわ。これは魔具だから」

 魔具の指輪は普通の指輪と何か反発するのかしら?少し言葉を濁したマーガレット王女の言葉が気にかかるが、ソルリアにはこのタイプの魔具は存在しないのでよく分からない。

「この指輪はつけている者の姿が周りの人から見ると別人に見えるようになるの。同じ魔具の指輪をつけている者同士は姿の見方は変わらないわ。私達はこれを付けて王都に行くの」

「そんな便利な魔具があるのですね」

「とても便利よ。元々この魔具はあったのだけど、お兄様が改良したのがこの卵型なの。従来の型は1つで2人までだったのを、お兄様は5人まで同時に付けられるようにしたの」

 そう言って自慢げに話されるマーガレット王女。魔具に関しては私にはあまり知識がないので何とも言えないけどきっと並大抵の事では改良なんて出来ないだろうし、アレクシス殿下はとても魔法が好きなのだろう。

「アレクシス殿下は魔法に関しては天才だとお聞きしていたのですが本当に凄いですね」

 そう言いながらアレクシス殿下の方に視線を向けるととても嬉しそうに笑っていた。

「ありがとう。魔法は小さい頃から好きでね特に魔法関連の物を改良するのが好きなんだ」

「さあ王都に行きましょう?私、ターシャに案内したい場所沢山あるのよ!」

「それはとても楽しみです。案内、よろしくお願いします」

 そう言ってお2人と共にエントランスホールを抜けるながらまだよく知らないこの国と王都に対して私は胸を弾ませた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

処理中です...