37 / 88
第二章 アルメリアでの私の日々
王女と婚約者(1)
しおりを挟む
魔法薬学の授業の後に歴史の授業を受け、あっという間にお昼休みを迎えた。
「わぁ! 天井が高いですね」
私はマーガレット王女とアレクシス殿下に連れられてカフェテリアに足を踏み入れる。
吹き抜けのカフェテリアは天井がガラス張りで、建物を支えるように数本の加工された大木がそびえ立っていた。外には庭園が広がっているのか、花壇や芝生が見え、生徒の中には外に置かれたベンチでお昼を食べている人もいる。
中はというと、ビュッフェ形式なのか、正面の長机には銀色のスープケトルやチェーフィングディッシュが置かれ、生徒が蓋を開けると白い湯気が立ち上る。漂ってくる匂いは食欲をそそり、気を抜くとお腹が鳴ってしまいそうだ。
奥には飲食スペースがある。軽食ではなく、きちんとした料理を購入できる場所はここだけなので、生徒でごった返している。
ワイワイガヤガヤと話し声も四方八方から聞こえてきて賑やか。
「皆早いわね。座る場所あるかしら……」
マーガレット王女はそう言って辺りを見渡す。私も席を探すが、カウンター席はまばらに空いているだけで、テーブル席に至っては全て埋まっているように見える。三人一緒には難しそうだ。
「──あったよ。マーガレットおいで」
呼ばれて私とマーガレット王女は後ろを振り返る。そこには窓側の空いたテーブル席の前にアレクシス殿下がいた。
「お兄様流石! 窓側なんて人気で空かないのに……運がいいわ」
アレクシス殿下に駆け寄ったマーガレット王女はそう言った。
「もっと褒めてくれ」
「ハイハイさすがさすが。すばらしいー」
棒読みでマーガレット王女はアレクシス殿下を褒める。そんな中、私の目に付いたのは外の景色だった。
「──窓側は外の景色が美しくて人気出るのはもっともですね。お花が綺麗です」
ガラスに手を添えればひんやりとしている。ガラス一枚隔てたところに咲いているのは真っ白な花だった。誰かが如雨露で水をあげたのか、花びらに水滴がついている。
「ああ、それ、毒花だよ」
「え」
さらりと告げられた衝撃的な発言に言葉が詰まり、その場で固まる。
(とっても可愛いのに……毒花? 嘘でしょ?)
「見た目は綺麗だから景観上そこに植えられているだけなのよ。間違って生徒が触れないように保護魔法がかかっているわ。一定距離、手を近づけると弾かれるの」
マーガレット王女も淡々と説明しながら、席を離れるためにハンカチをテーブルの上に置く。
(見たことない植物には近づかないようにしよう)
私はそう心に決めて、案内されるまま、列に並んだ。
「わぁ全部美味しそうですね」
ソルリアで食べていた料理も置かれていたが、やはり知らない料理が多かった。
基本的に嫌いな食材はないので、見た目で昼食を選び、少しずつよそう。最後に氷と水をコップに注いで席に戻る。
(あれ? アレクシス殿下のほかにもう一人……)
二人、席にいる。
四人がけの席なので元々一席空いていたが、そこに見知らぬ青年が座っている。その人物は先に戻っていたアレクシス殿下とにこやかに談笑していた。
「マーレ、あれは誰ですか」
アレクシス殿下の知り合いならば、彼女も知っているだろう。そんな軽い気持ちで聞いたのが間違いだった。
「誰って…………なんで」
見る見るうちに顔が曇り、凍りついていく。怒っているようで傷ついているようで。私はあの青年が、彼女にとって良い人ではないのを悟る。
「あっ、待って」
マーガレット王女は席に戻り、大きな音を立てながらトレーをテーブルに置いた。慌てて追いかける。
「──やあ、僕の婚約者。ご機嫌いかがかな?」
(婚……約者? って誰の?)
座りかけていた私は固まった。アレクシス殿下はまだいないと言っていた気がする。私にはもちろんギルバート殿下がいる。この中で残っているのは──
思わずマーガレット王女に視線を向けると、彼女は苦虫を噛み潰したような険しい顔になっていた。
「貴方が来たせいで最悪です」
口調が変わり、冷ややかで、抑揚の消えた声が紡ぎだされる。これは本当にマーガレット王女の声なのだろうか。にわかには信じられない。
「そんなこと言わないで」
「知らないです。さっさと私の視界から消えてください」
手で追い払う仕草をされ、青年は取り付く島もない。
だが、金髪に紺碧の瞳を持つ青年はめげない。いや、気にしていないと言った方が正解だろうか。内心は違うのかもしれないが、表向きはそう見えたのだった。
「わぁ! 天井が高いですね」
私はマーガレット王女とアレクシス殿下に連れられてカフェテリアに足を踏み入れる。
吹き抜けのカフェテリアは天井がガラス張りで、建物を支えるように数本の加工された大木がそびえ立っていた。外には庭園が広がっているのか、花壇や芝生が見え、生徒の中には外に置かれたベンチでお昼を食べている人もいる。
中はというと、ビュッフェ形式なのか、正面の長机には銀色のスープケトルやチェーフィングディッシュが置かれ、生徒が蓋を開けると白い湯気が立ち上る。漂ってくる匂いは食欲をそそり、気を抜くとお腹が鳴ってしまいそうだ。
奥には飲食スペースがある。軽食ではなく、きちんとした料理を購入できる場所はここだけなので、生徒でごった返している。
ワイワイガヤガヤと話し声も四方八方から聞こえてきて賑やか。
「皆早いわね。座る場所あるかしら……」
マーガレット王女はそう言って辺りを見渡す。私も席を探すが、カウンター席はまばらに空いているだけで、テーブル席に至っては全て埋まっているように見える。三人一緒には難しそうだ。
「──あったよ。マーガレットおいで」
呼ばれて私とマーガレット王女は後ろを振り返る。そこには窓側の空いたテーブル席の前にアレクシス殿下がいた。
「お兄様流石! 窓側なんて人気で空かないのに……運がいいわ」
アレクシス殿下に駆け寄ったマーガレット王女はそう言った。
「もっと褒めてくれ」
「ハイハイさすがさすが。すばらしいー」
棒読みでマーガレット王女はアレクシス殿下を褒める。そんな中、私の目に付いたのは外の景色だった。
「──窓側は外の景色が美しくて人気出るのはもっともですね。お花が綺麗です」
ガラスに手を添えればひんやりとしている。ガラス一枚隔てたところに咲いているのは真っ白な花だった。誰かが如雨露で水をあげたのか、花びらに水滴がついている。
「ああ、それ、毒花だよ」
「え」
さらりと告げられた衝撃的な発言に言葉が詰まり、その場で固まる。
(とっても可愛いのに……毒花? 嘘でしょ?)
「見た目は綺麗だから景観上そこに植えられているだけなのよ。間違って生徒が触れないように保護魔法がかかっているわ。一定距離、手を近づけると弾かれるの」
マーガレット王女も淡々と説明しながら、席を離れるためにハンカチをテーブルの上に置く。
(見たことない植物には近づかないようにしよう)
私はそう心に決めて、案内されるまま、列に並んだ。
「わぁ全部美味しそうですね」
ソルリアで食べていた料理も置かれていたが、やはり知らない料理が多かった。
基本的に嫌いな食材はないので、見た目で昼食を選び、少しずつよそう。最後に氷と水をコップに注いで席に戻る。
(あれ? アレクシス殿下のほかにもう一人……)
二人、席にいる。
四人がけの席なので元々一席空いていたが、そこに見知らぬ青年が座っている。その人物は先に戻っていたアレクシス殿下とにこやかに談笑していた。
「マーレ、あれは誰ですか」
アレクシス殿下の知り合いならば、彼女も知っているだろう。そんな軽い気持ちで聞いたのが間違いだった。
「誰って…………なんで」
見る見るうちに顔が曇り、凍りついていく。怒っているようで傷ついているようで。私はあの青年が、彼女にとって良い人ではないのを悟る。
「あっ、待って」
マーガレット王女は席に戻り、大きな音を立てながらトレーをテーブルに置いた。慌てて追いかける。
「──やあ、僕の婚約者。ご機嫌いかがかな?」
(婚……約者? って誰の?)
座りかけていた私は固まった。アレクシス殿下はまだいないと言っていた気がする。私にはもちろんギルバート殿下がいる。この中で残っているのは──
思わずマーガレット王女に視線を向けると、彼女は苦虫を噛み潰したような険しい顔になっていた。
「貴方が来たせいで最悪です」
口調が変わり、冷ややかで、抑揚の消えた声が紡ぎだされる。これは本当にマーガレット王女の声なのだろうか。にわかには信じられない。
「そんなこと言わないで」
「知らないです。さっさと私の視界から消えてください」
手で追い払う仕草をされ、青年は取り付く島もない。
だが、金髪に紺碧の瞳を持つ青年はめげない。いや、気にしていないと言った方が正解だろうか。内心は違うのかもしれないが、表向きはそう見えたのだった。
46
あなたにおすすめの小説
婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。
パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜
くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。
味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。
――けれど、彼らは知らなかった。
彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。
すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、
復讐ではなく「関わらない」という選択。
だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」
公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」
目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる