悪役令嬢になったようなので、婚約者の為に身を引きます!!!

夕香里

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第二章 アルメリアでの私の日々

零れた表情(2)

「仕方ないわね。お兄様のは聞かないわ……ターシャの分は誰にあげるの?」

「──婚約者であるギルバート殿下に」

 綺麗に作れたから喜んでくれるだろう。もし、気に入らなかったのならば捨てて欲しいと手紙に添えるつもりだ。

「へぇ喜んでくれるといいわね!」

 瞳を輝かせたマーガレット王女は私の手を取った。

「はい。そうだったら嬉しいです」
 
 微笑み返す。

「マーレのメモリアは完成したのですか?」

「あるわ。そこに」

 机の上に二つ浮かんでいた。

 一つは淡いコーラルピンクのメモリア。
 もう一つは淡い蒼のメモリア。

「私のはこっち」

 マーガレット王女は蒼のメモリアを手に取った。

 中は霞みがかっている。その合間を縫うように魔力を可視化させたものが浮かんでいた。

「では隣のは?」

「……ジェラルドのよ」

 マーガレット王女は彼のメモリアに触らず、魔法で浮かせて私の目の前まで持ってきた。

「ジェラルド様のには植物が入っているのですね」

 ぷかりと芽が出た状態で浮いている。どのような植物なのかは分からないのが残念だ。後で聞いてみよう。

「……私が魔法を施したからそのうち花が咲くわ」

「?」

 持っていた自身のメモリアを置いて、マーガレット王女はジェラルド様のメモリアの表面をなぞる。

「あ、植物魔法!」

 特殊魔法に位置づけられる魔法だ。感情の起伏によって力の差が出てしまうものであり、植物を成長させたり枯れさせたりすることが出来る。

「そうよ。しないと言ったのに、みっともない真似をして頼み込んでくるから仕方なく……」
 
 昼休みと同様声は冷ややかだ。だが私は気づいてしまった。

 無意識なのだろう。目じりは下がり、メモリアを包む手つきは優しい。
 それは拒絶するほど嫌いなものに対して見せる類いではなかった。

 その微妙な表情と手つきの変化に違和感を持ったが、私は一旦何も見ていないことにして、話を続ける。

「綺麗な花が咲くといいですね」

「……ええ、咲けば……いいわね」

 マーガレット王女はメモリアから手を離した。

「遅かったな」

 アレクシス殿下の言葉に反応して、私とマーガレット王女が振り返る。

「いやぁみんな失敗したらしく、エリック先生の所、混んでてね」

 ジェラルド様が帰って来ると、またマーガレット王女は氷のような表情に戻ってしまった。

「よし、作り終わったから出してこよう。マーガレットも行くだろう?」

「…………行きますが」

 すっとジェラルド様の手が差し出される。

「一緒にどうだい?」

「──いりません。私は一人で行きます」

 躊躇もなく拒絶した。行き場を失った手が宙を彷徨う。

「お兄様、ターシャ、ここで待っててください。すぐに戻ってくるので」

 くるりと後ろを振り向き、私達に言った彼女は返事をする前に転移してしまった。

「…………私は数にも入れてもらえなかったなぁ。あはは、つら」

 苦笑したジェラルド様はマーガレット王女がいた場所を見る。

「マーガレットはああ言っていたけど、君たちは流石に置いていったりしないよね」

「勿論待ってる。早く提出してこい」

 その言葉に安堵をみせたジェラルド様が転移する。
 二人を待っていると数分してマーガレット王女が現れた。

「あの人は?」

「提出しに行ったよ」

「そう。ならターシャ帰りましょう」

 ぎゅっと私の腕に抱きついてきた。シャランと彼女のイアリングが揺れる。

「ジェラルド様を待たなくて?」

「いいのよ。お兄様が待つから」

 私は困ってしまってアレクシス殿下に視線を送る。彼は諦めたように首を横に振った。

「ほら行きましょう」

 問答無用でマーガレット王女は私の手を取り転移した。

 戻ってきた部屋はシーンと静まり返っている。どうやらルーナとマリエラは別の場所にいるようだ。

 この部屋に私とマーガレット王女だけしかいないのは好都合だ。

(機嫌を損ねてしまうかもしれないけれど聞いてみよう)

「お尋ねしてもよろしいでしょうか」

 ソファに座って一息ついたマーガレット王女に声をかける。

「なに?」
 
 キョトンと首を傾げた彼女からは、先程の氷のような雰囲気は鳴りを潜めていた。

 私は大きく息を吸って、嫌われるのも覚悟で口を開いた。

「何故そこまでジェラルド様のことを嫌うのですか。私には悪い人に見えません。理由を教えてくださいませんか」

 彼女は虚をつかれたかのようにポカンとした後、他人には推し量れないような表情を浮かべたのだった。

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