46 / 88
第二章 アルメリアでの私の日々
零れた表情(2)
「仕方ないわね。お兄様のは聞かないわ……ターシャの分は誰にあげるの?」
「──婚約者であるギルバート殿下に」
綺麗に作れたから喜んでくれるだろう。もし、気に入らなかったのならば捨てて欲しいと手紙に添えるつもりだ。
「へぇ喜んでくれるといいわね!」
瞳を輝かせたマーガレット王女は私の手を取った。
「はい。そうだったら嬉しいです」
微笑み返す。
「マーレのメモリアは完成したのですか?」
「あるわ。そこに」
机の上に二つ浮かんでいた。
一つは淡いコーラルピンクのメモリア。
もう一つは淡い蒼のメモリア。
「私のはこっち」
マーガレット王女は蒼のメモリアを手に取った。
中は霞みがかっている。その合間を縫うように魔力を可視化させたものが浮かんでいた。
「では隣のは?」
「……ジェラルドのよ」
マーガレット王女は彼のメモリアに触らず、魔法で浮かせて私の目の前まで持ってきた。
「ジェラルド様のには植物が入っているのですね」
ぷかりと芽が出た状態で浮いている。どのような植物なのかは分からないのが残念だ。後で聞いてみよう。
「……私が魔法を施したからそのうち花が咲くわ」
「?」
持っていた自身のメモリアを置いて、マーガレット王女はジェラルド様のメモリアの表面をなぞる。
「あ、植物魔法!」
特殊魔法に位置づけられる魔法だ。感情の起伏によって力の差が出てしまうものであり、植物を成長させたり枯れさせたりすることが出来る。
「そうよ。しないと言ったのに、みっともない真似をして頼み込んでくるから仕方なく……」
昼休みと同様声は冷ややかだ。だが私は気づいてしまった。
無意識なのだろう。目じりは下がり、メモリアを包む手つきは優しい。
それは拒絶するほど嫌いなものに対して見せる類いではなかった。
その微妙な表情と手つきの変化に違和感を持ったが、私は一旦何も見ていないことにして、話を続ける。
「綺麗な花が咲くといいですね」
「……ええ、咲けば……いいわね」
マーガレット王女はメモリアから手を離した。
「遅かったな」
アレクシス殿下の言葉に反応して、私とマーガレット王女が振り返る。
「いやぁみんな失敗したらしく、エリック先生の所、混んでてね」
ジェラルド様が帰って来ると、またマーガレット王女は氷のような表情に戻ってしまった。
「よし、作り終わったから出してこよう。マーガレットも行くだろう?」
「…………行きますが」
すっとジェラルド様の手が差し出される。
「一緒にどうだい?」
「──いりません。私は一人で行きます」
躊躇もなく拒絶した。行き場を失った手が宙を彷徨う。
「お兄様、ターシャ、ここで待っててください。すぐに戻ってくるので」
くるりと後ろを振り向き、私達に言った彼女は返事をする前に転移してしまった。
「…………私は数にも入れてもらえなかったなぁ。あはは、つら」
苦笑したジェラルド様はマーガレット王女がいた場所を見る。
「マーガレットはああ言っていたけど、君たちは流石に置いていったりしないよね」
「勿論待ってる。早く提出してこい」
その言葉に安堵をみせたジェラルド様が転移する。
二人を待っていると数分してマーガレット王女が現れた。
「あの人は?」
「提出しに行ったよ」
「そう。ならターシャ帰りましょう」
ぎゅっと私の腕に抱きついてきた。シャランと彼女のイアリングが揺れる。
「ジェラルド様を待たなくて?」
「いいのよ。お兄様が待つから」
私は困ってしまってアレクシス殿下に視線を送る。彼は諦めたように首を横に振った。
「ほら行きましょう」
問答無用でマーガレット王女は私の手を取り転移した。
戻ってきた部屋はシーンと静まり返っている。どうやらルーナとマリエラは別の場所にいるようだ。
この部屋に私とマーガレット王女だけしかいないのは好都合だ。
(機嫌を損ねてしまうかもしれないけれど聞いてみよう)
「お尋ねしてもよろしいでしょうか」
ソファに座って一息ついたマーガレット王女に声をかける。
「なに?」
キョトンと首を傾げた彼女からは、先程の氷のような雰囲気は鳴りを潜めていた。
私は大きく息を吸って、嫌われるのも覚悟で口を開いた。
「何故そこまでジェラルド様のことを嫌うのですか。私には悪い人に見えません。理由を教えてくださいませんか」
彼女は虚をつかれたかのようにポカンとした後、他人には推し量れないような表情を浮かべたのだった。
「──婚約者であるギルバート殿下に」
綺麗に作れたから喜んでくれるだろう。もし、気に入らなかったのならば捨てて欲しいと手紙に添えるつもりだ。
「へぇ喜んでくれるといいわね!」
瞳を輝かせたマーガレット王女は私の手を取った。
「はい。そうだったら嬉しいです」
微笑み返す。
「マーレのメモリアは完成したのですか?」
「あるわ。そこに」
机の上に二つ浮かんでいた。
一つは淡いコーラルピンクのメモリア。
もう一つは淡い蒼のメモリア。
「私のはこっち」
マーガレット王女は蒼のメモリアを手に取った。
中は霞みがかっている。その合間を縫うように魔力を可視化させたものが浮かんでいた。
「では隣のは?」
「……ジェラルドのよ」
マーガレット王女は彼のメモリアに触らず、魔法で浮かせて私の目の前まで持ってきた。
「ジェラルド様のには植物が入っているのですね」
ぷかりと芽が出た状態で浮いている。どのような植物なのかは分からないのが残念だ。後で聞いてみよう。
「……私が魔法を施したからそのうち花が咲くわ」
「?」
持っていた自身のメモリアを置いて、マーガレット王女はジェラルド様のメモリアの表面をなぞる。
「あ、植物魔法!」
特殊魔法に位置づけられる魔法だ。感情の起伏によって力の差が出てしまうものであり、植物を成長させたり枯れさせたりすることが出来る。
「そうよ。しないと言ったのに、みっともない真似をして頼み込んでくるから仕方なく……」
昼休みと同様声は冷ややかだ。だが私は気づいてしまった。
無意識なのだろう。目じりは下がり、メモリアを包む手つきは優しい。
それは拒絶するほど嫌いなものに対して見せる類いではなかった。
その微妙な表情と手つきの変化に違和感を持ったが、私は一旦何も見ていないことにして、話を続ける。
「綺麗な花が咲くといいですね」
「……ええ、咲けば……いいわね」
マーガレット王女はメモリアから手を離した。
「遅かったな」
アレクシス殿下の言葉に反応して、私とマーガレット王女が振り返る。
「いやぁみんな失敗したらしく、エリック先生の所、混んでてね」
ジェラルド様が帰って来ると、またマーガレット王女は氷のような表情に戻ってしまった。
「よし、作り終わったから出してこよう。マーガレットも行くだろう?」
「…………行きますが」
すっとジェラルド様の手が差し出される。
「一緒にどうだい?」
「──いりません。私は一人で行きます」
躊躇もなく拒絶した。行き場を失った手が宙を彷徨う。
「お兄様、ターシャ、ここで待っててください。すぐに戻ってくるので」
くるりと後ろを振り向き、私達に言った彼女は返事をする前に転移してしまった。
「…………私は数にも入れてもらえなかったなぁ。あはは、つら」
苦笑したジェラルド様はマーガレット王女がいた場所を見る。
「マーガレットはああ言っていたけど、君たちは流石に置いていったりしないよね」
「勿論待ってる。早く提出してこい」
その言葉に安堵をみせたジェラルド様が転移する。
二人を待っていると数分してマーガレット王女が現れた。
「あの人は?」
「提出しに行ったよ」
「そう。ならターシャ帰りましょう」
ぎゅっと私の腕に抱きついてきた。シャランと彼女のイアリングが揺れる。
「ジェラルド様を待たなくて?」
「いいのよ。お兄様が待つから」
私は困ってしまってアレクシス殿下に視線を送る。彼は諦めたように首を横に振った。
「ほら行きましょう」
問答無用でマーガレット王女は私の手を取り転移した。
戻ってきた部屋はシーンと静まり返っている。どうやらルーナとマリエラは別の場所にいるようだ。
この部屋に私とマーガレット王女だけしかいないのは好都合だ。
(機嫌を損ねてしまうかもしれないけれど聞いてみよう)
「お尋ねしてもよろしいでしょうか」
ソファに座って一息ついたマーガレット王女に声をかける。
「なに?」
キョトンと首を傾げた彼女からは、先程の氷のような雰囲気は鳴りを潜めていた。
私は大きく息を吸って、嫌われるのも覚悟で口を開いた。
「何故そこまでジェラルド様のことを嫌うのですか。私には悪い人に見えません。理由を教えてくださいませんか」
彼女は虚をつかれたかのようにポカンとした後、他人には推し量れないような表情を浮かべたのだった。
あなたにおすすめの小説
魅了魔法…?それで相思相愛ならいいんじゃないんですか。
iBuKi
恋愛
サフィリーン・ル・オルペウスである私がこの世界に誕生した瞬間から決まっていた既定路線。
クロード・レイ・インフェリア、大国インフェリア皇国の第一皇子といずれ婚約が結ばれること。
皇妃で将来の皇后でなんて、めっちゃくちゃ荷が重い。
こういう幼い頃に結ばれた物語にありがちなトラブル……ありそう。
私のこと気に入らないとか……ありそう?
ところが、完璧な皇子様に婚約者に決定した瞬間から溺愛され続け、蜂蜜漬けにされていたけれど――
絆されていたのに。
ミイラ取りはミイラなの? 気付いたら、皇子の隣には子爵令嬢が居て。
――魅了魔法ですか…。
国家転覆とか、王権強奪とか、大変な事は絡んでないんですよね?
いろいろ探ってましたけど、どうなったのでしょう。
――考えることに、何だか疲れちゃったサフィリーン。
第一皇子とその方が相思相愛なら、魅了でも何でもいいんじゃないんですか?
サクッと婚約解消のち、私はしばらく領地で静養しておきますね。
✂----------------------------
不定期更新です。
他サイトさまでも投稿しています。
10/09 あらすじを書き直し、付け足し?しました。
今更ですか?結構です。
みん
恋愛
完結後に、“置き場”に後日談を投稿しています。
エルダイン辺境伯の長女フェリシティは、自国であるコルネリア王国の第一王子メルヴィルの5人居る婚約者候補の1人である。その婚約者候補5人の中でも幼い頃から仲が良かった為、フェリシティが婚約者になると思われていたが──。
え?今更ですか?誰もがそれを望んでいるとは思わないで下さい──と、フェリシティはニッコリ微笑んだ。
相変わらずのゆるふわ設定なので、優しく見てもらえると助かります。
公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~
薄味メロン
恋愛
HOTランキング 1位 (2019.9.18)
お気に入り4000人突破しました。
次世代の王妃と言われていたメアリは、その日、すべての地位を奪われた。
だが、誰も知らなかった。
「荷物よし。魔力よし。決意、よし!」
「出発するわ! 目指すは源泉掛け流し!」
メアリが、追放の準備を整えていたことに。
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
傷物令嬢は魔法使いの力を借りて婚約者を幸せにしたい
棗
恋愛
ローゼライト=シーラデンの額には傷がある。幼い頃、幼馴染のラルスに負わされた傷で責任を取る為に婚約が結ばれた。
しかしローゼライトは知っている。ラルスには他に愛する人がいると。この婚約はローゼライトの額に傷を負わせてしまったが為の婚約で、ラルスの気持ちが自分にはないと。
そこで、子供の時から交流のある魔法使いダヴィデにラルスとの婚約解消をしたいと依頼をするのであった。
自称ヒロインに婚約者を……奪われませんでした
影茸
恋愛
平民から突然公爵家の一員、アイリスの妹となったアリミナは異常な程の魅力を持つ少女だった。
若い令息達、それも婚約者がいるものまで彼女を一目見た瞬間恋に落ちる。
そして、とうとう恐ろしい事態が起こってしまう。
……アリミナがアイリスの婚約者である第2王子に目をつけたのだ。
殿下が好きなのは私だった
棗
恋愛
魔王の補佐官を父に持つリシェルは、長年の婚約者であり片思いの相手ノアールから婚約破棄を告げられた。
理由は、彼の恋人の方が次期魔王たる自分の妻に相応しい魔力の持ち主だからだそう。
最初は仲が良かったのに、次第に彼に嫌われていったせいでリシェルは疲れていた。無様な姿を晒すくらいなら、晴れ晴れとした姿で婚約破棄を受け入れた。
のだが……婚約破棄をしたノアールは何故かリシェルに執着をし出して……。
更に、人間界には父の友人らしい天使?もいた……。
※カクヨムさん・なろうさんにも公開しております。