悪役令嬢になったようなので、婚約者の為に身を引きます!!!

夕香里

文字の大きさ
59 / 88
第二章 アルメリアでの私の日々

飛行授業(1)

「今日は構内をぐるりと囲む森の中を、ホウキで一周する授業だ。終わった者から帰っていいよ。さあ始め!」

 あっさりとした説明に拍子抜けする。もっときちんと飛び方を教えて欲しい。

 どうやって飛ぶのか分からずモタモタしていると、クラスメイト達はホウキに跨り次々空へ舞い上がる。

「アタナシア様何してるんですの?」

 既に空中にいたエリザベス様が不思議そうに声をかけてきた。その隣には逃げないと約束したマーガレット王女もいる。

 いつの間にかポツンと一人、私だけ地面に取り残されていた。

「あっあの! お恥ずかしいのですが、飛び方が分からないのです……」

 ホウキの柄を握りながら正直に話す。これは助けを求めた方がいい案件だ。

「そっかターシャ知らないのね」

 マーガレット王女が下降してくる。

「座り方は跨いでもいいし、私みたいに横向きに座ってもいいのよ」

 ホウキから降りたマーガレット王女は丁寧に座り方を教えてくださる。

「あとは普通に魔力をホウキに流すだけ。地面を蹴れば浮かび上がるわ」

 ほら、とマーガレット王女は地を蹴った。ふわりと浮かび上がり、瞬く間にエリザベス様の元まで浮上する。
 太陽を背に頭の高い位置で結ばれた豊かな金髪が絹糸のようにさらさらとこぼれ落ちていた。

(綺麗だなあ)

 脈絡もなくそんなことを思ってしまい、手が止まっていると彼女は首を傾けた。

「ターシャ初めてなら慣れていないし、ゆっくりしてもいいのだけれど授業が終わってしまうわ。もう飛べる?」

「はっはい! 飛びます」

 跨いで乗るのは座り心地が悪そうなので、私もマーガレット王女と同じように横向きに座り、地面を蹴った。

「わっ」

 初めての空中飛行は新しい世界に一歩足を踏み入れたようでわくわくする。生温い風に髪が靡き、視界が一気に高くなる。
 あっという間にエリザベス様達の元に到着し、地面ははるか下だ。

「どう? 初めての飛行は」

「とっても気持ちいいです! 空気が美味しいですね!」

 いい天気なので遠くまで見渡せる。ホウキから落ちないよう魔法をかけてから、両手を左右に広げた。

「そうですわね~。わたくしも久しぶりに飛びましたが、マーガレット様の近くに居られるこの時間、至福ですわ」

 ほうっと惚けている。

「ターシャ、この人置いていくわよ」

 宣言通り留まっているエリザベス様を置いて颯爽とホウキを進める。

「いいんですか?」

「そのうち追いかけてくるわ」

「はっ待ってくださいまし! わたくしを一人にするんですの!? 置いていかないで欲しいですわ」

「ほら来た」

 追いついたエリザベス様を加えてしばらくの間空中散歩を楽しみ、時折地面に降りて可愛らしい花の名前を教えてもらったり。笑い合いながら飛行する。

 穏やかな時間が終わりを告げたのは森の半分ほどを通り過ぎた頃だった。

「マーレ様、あそこに鳥が……」

「きゃっ」

 前方不注意でドンッと軽くぶつかった音がした。衝撃の後にホウキが揺れる。

(なっ何!?)

 目の前に銀髪の令嬢とその腰に手を回して支えていた青年がいた。

「すっすみません。お怪我はっ」

「──リル大丈夫か?」

 聞こえたその声を私はよく知っている。

(ジェラルドさま)

「ええ、ありがとうジェリー」

 甘い綿菓子のような蕩ける声。

「……うげぇシェリル様ですわ」

 背後からエリザベス様のだるそうな声が聞こえてきて。私は銀髪の令嬢の正体を知る。

(この方が……)

 庇護欲をそそるような華奢な体つきに、ぱっちり大きな宵闇色の瞳。艶のある長い銀髪をリボンと共に三つ編みに結っている。

 バランスを崩したらしいシェリル様は、これでもかと言うくらい見せつけて、ジェラルド様にもたれかかっている。

 うっわこれは他所でやって欲しい。婚約を破棄するマーガレット王女への牽制だろうか。
 でも、無自覚のようだ。意識して行っているようには見えなかった。

(こういう人嫌いだわ)

 今はまだマーガレット王女がジェラルド様の婚約者なのに。

 顔を顰めそうになり、一旦後ろを向けばマーガレット王女が俯いていた。

「マーレさ……危ないっ!」

 きっと二人のくっついている姿を見てショックを受けたのだろうと私は思い、心配になり、近づこうとしたその時だった。彼女の手がホウキから離れ、身体が傾いていく。

 咄嗟に手を伸ばそうとしても距離があって届かない。

(落ちてしまうわ!)

「──マーガレットっ」

 突如視界の端から現れた青年がホウキから落ちた彼女を抱き抱えた。

「おにい、さま」

 小さな掠れた声だ。だらんと腕が垂れている。

「……マーガレット、私の心臓を止めにこないでくれ。飛行の授業中は生徒が落ちても大丈夫なよう、敷地内全域の地面に衝撃吸収魔法がかけられているといっても……」

 アレクシス殿下は顔にかかった髪を優しく退かし、頬を撫でる。

「ごめん……なさい」

「謝らないで。それよりも顔が真っ青だ。何があったんだい」

「急に力が入らなくなってしまったの」

 マーガレット王女は瞼を下ろした。

「医務室に行く。アタナシア嬢、すまないが担当の先生に伝えておいてくれないか」

「はい」

 アレクシス殿下は彼女を横抱きにして最短距離で校舎まで引き返していく。
 私は地面に落ちてしまった彼女のホウキを拾って三人がいる空中に戻った。

「王女様体調が悪かったのですね」

 シェリル様は心底心配している顔で口元を覆っている。

「朝も一悶着あったようですし……気苦労が多いのかもしれませんね」

「朝?」

 ジェラルド様の眉がぴくりと動く。

「あら、ジェリー知らないんですの?」

 私達がいるのをお構い無しにシェリル様はジェラルド様にそっと耳打ちする。

「そんなことが」

 ──あったのか。と口元が動いた。

 普段より口数が少ない彼は私とバッチリ視線が合い、バツが悪そうに目を逸らした。

「…………リル行こう。早く終えなければリルが食べたいと言っていた、カフェテリアの数量限定のスイーツなくなってしまうよ」

「ああ! それは大変です。わたくし絶対に食べたいのです。ではごきげんよう」

 にこりと笑ってシェリル様はジェラルド様と先を行こうとする。

「あのっ」

「何か?」

 気が付いたら引き止めていた。全く何も考えていなかったので、言葉が出てこない。

「……お名前を聞いても?」

(うぅ私のバカ)

 一応初対面であるから不自然ではないだろうけれど、ここで尋ねる事ではない。

 やってしまった……と思っていると、すぃーっとシェリル様が至近距離まで近づいてきた。

あなたにおすすめの小説

魅了魔法…?それで相思相愛ならいいんじゃないんですか。

iBuKi
恋愛
サフィリーン・ル・オルペウスである私がこの世界に誕生した瞬間から決まっていた既定路線。 クロード・レイ・インフェリア、大国インフェリア皇国の第一皇子といずれ婚約が結ばれること。 皇妃で将来の皇后でなんて、めっちゃくちゃ荷が重い。 こういう幼い頃に結ばれた物語にありがちなトラブル……ありそう。 私のこと気に入らないとか……ありそう? ところが、完璧な皇子様に婚約者に決定した瞬間から溺愛され続け、蜂蜜漬けにされていたけれど―― 絆されていたのに。 ミイラ取りはミイラなの? 気付いたら、皇子の隣には子爵令嬢が居て。 ――魅了魔法ですか…。 国家転覆とか、王権強奪とか、大変な事は絡んでないんですよね? いろいろ探ってましたけど、どうなったのでしょう。 ――考えることに、何だか疲れちゃったサフィリーン。 第一皇子とその方が相思相愛なら、魅了でも何でもいいんじゃないんですか? サクッと婚約解消のち、私はしばらく領地で静養しておきますね。 ✂---------------------------- 不定期更新です。 他サイトさまでも投稿しています。 10/09 あらすじを書き直し、付け足し?しました。

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~

薄味メロン
恋愛
 HOTランキング 1位 (2019.9.18)  お気に入り4000人突破しました。  次世代の王妃と言われていたメアリは、その日、すべての地位を奪われた。  だが、誰も知らなかった。 「荷物よし。魔力よし。決意、よし!」 「出発するわ! 目指すは源泉掛け流し!」  メアリが、追放の準備を整えていたことに。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

後悔はなんだった?

木嶋うめ香
恋愛
目が覚めたら私は、妙な懐かしさを感じる部屋にいた。 「お嬢様、目を覚まされたのですねっ!」 怠い体を起こそうとしたのに力が上手く入らない。 何とか顔を動かそうとした瞬間、大きな声が部屋に響いた。 お嬢様? 私がそう呼ばれていたのは、遥か昔の筈。 結婚前、スフィール侯爵令嬢と呼ばれていた頃だ。 私はスフィール侯爵の長女として生まれ、亡くなった兄の代わりに婿をとりスフィール侯爵夫人となった。 その筈なのにどうしてあなたは私をお嬢様と呼ぶの? 疑問に感じながら、声の主を見ればそれは記憶よりもだいぶ若い侍女だった。 主人公三歳から始まりますので、恋愛話になるまで少し時間があります。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

自称ヒロインに婚約者を……奪われませんでした

影茸
恋愛
平民から突然公爵家の一員、アイリスの妹となったアリミナは異常な程の魅力を持つ少女だった。 若い令息達、それも婚約者がいるものまで彼女を一目見た瞬間恋に落ちる。 そして、とうとう恐ろしい事態が起こってしまう。 ……アリミナがアイリスの婚約者である第2王子に目をつけたのだ。

傷物令嬢は魔法使いの力を借りて婚約者を幸せにしたい

恋愛
ローゼライト=シーラデンの額には傷がある。幼い頃、幼馴染のラルスに負わされた傷で責任を取る為に婚約が結ばれた。 しかしローゼライトは知っている。ラルスには他に愛する人がいると。この婚約はローゼライトの額に傷を負わせてしまったが為の婚約で、ラルスの気持ちが自分にはないと。 そこで、子供の時から交流のある魔法使いダヴィデにラルスとの婚約解消をしたいと依頼をするのであった。