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第二章 アルメリアでの私の日々
眠り姫と偽りと(2)
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(あのひとが……こんやくしゃ)
間抜けな顔をして固まっている少年を、私は顔を半分だけ出して窺う。
すると彼の隣にいた夫人がお母様に声をかけてきたのだ。
「ローズマリー久しぶりね」
「ええ久しぶり。今日はよく来てくれたわ」
お母様は嬉しそうにしていて。私もほんの少しだけ警戒を解く。
「さあ、ご挨拶して」
夫人は少年の背中をさすり、前へ押し出した。
「……ジェラルド・シモンズです」
私の赤い瞳とは反対の紺碧の瞳。同じ色でも、私よりさらさらな金髪。それが、ジェラルドの容姿だった。
「貴女も挨拶を」
「こんにちは。マーガレット・アルメリアです」
どちらも名乗るだけで、沈黙がすぐにこの場を支配した。
私も人のことを言えないけれど、初めて会ったジェラルドの態度は相手に対して失礼な部類に入ると思う。だって、ボケーっとしていて黙りこくっているから。
硬直状態が続き、お母様が声をかけてくる。
「マーガレット、私の後ろに隠れてないで出てきなさい」
正面から対峙するのは怖くてもたもたしている私に、埒が明かないと思ったのか、お兄様が繋いでいた手で軽く引っ張った。
つんのめりながら前に出ると、ちょうどそこはジェラルドの前で。未だ動こうとしない彼は不可抗力だったとはいえ、いきなり私が距離を詰めたことで驚いたらしい。肩が軽く上下し、その拍子にポトンと何かが彼のポケットから落ちる。
それは禍々しい緑色の細長いもの。一体なんだろうかと目を凝らしてようやく分かった。
「…………へび」
ぽつりと私は呟いた。
この場にいた全員の視線が地面に落ちた蛇に注がれ、まず最初に私が顔を上げると目の前にいたジェラルドの顔は真っ青になっていた。
「あ、いや……これは」
慌てて手に取ろうとするけれど、彼の手が蛇に触れる寸前で横から掠め取られる。
「ジェラルド、これは何か説明してちょうだい」
にっこり笑っているのに、シモンズ侯爵夫人の声は冷ややかだ。
「母上っそれはっ…………玩具です」
「それで?」
「置いてくるつもりだったのですがポケットに入っているのを忘れてて……」
(──うそ。わたしを脅かそうとしたのね)
目に映る色は濁っている。
つまり、彼は嘘をついているわけである。数々の嫌がらせを受けてきた私に言わせれば、嘘によって隠されたのはそれしかない。
ああ、やっぱりこの人もそういう人なのだと、お母様の優しい人だと言う言葉は信じてはいけないのだと。
急速に心は冷えていく。
(…………あたらしい人はやっぱりいらないわ)
隣にいるお兄様も色が視えたようで、「何やっているんだか」そんな感じの微妙な表情を浮かべていた。
もう婚約なんてどうにかして破棄してしまおうと心に決めつつ、お母様はお母様で私のことを不安そうに窺っているので、この場だけは約束の通り逃げずに向き合うことにした。
「おかあさま座りましょう」
繋いでいた手を離し、率先してガゼボに置かれた椅子に座る。
その後、お兄様やお母様、それにシモンズ侯爵夫人が一生懸命場を盛り上げようとしたけれど、私は無表情のまま警戒を解かなかった。
するとお母様は思い切った行動に出た。なんと夫人と一緒に手を洗いに行くと言い、それっきり帰ってこないというのを決行したのだ。
残された子供三人。お兄様は場を取り繕うために積極的にジェラルドに声をかけていくが、彼は上の空。
代わりにじーっと私のことを見つめていてとても居心地が悪いし、はっきり言って気持ち悪い。
「どうしてそんなに見つめてくるのですか」
それが、私から初めて彼にかけた言葉だった。
ぱちくりと瞬きをして、ジェラルドはごくごく自然に、心の声がポロッと漏れたかのように言ったのだ。
「──瞳がきれいだったから」
(……なにそれ。変な人)
そんなことを私に対して告げるのは、今まで誰ひとりいなかった。
だっていつも「禍々しい」「気色悪い」「穢らわしい」そんな言葉しかかけられなかった。
(きれいだなんて)
こちらも嘘だと、お世辞だと思いたいのに目に映る色は透明で純粋な言葉だと分かってしまうのが憎い。
眉間にシワを寄せると隣から笑い声が漏れる。お兄様はお腹と口を押さえて笑っていた。どうやらこらえきれずに漏れてしまったらしい。
「あははっ瞳がきれいだからってもっといい理由あっただろうに」
「……うるさい」
睨むジェラルドを無視し、お兄様は私に囁く。
「視えただろう? さっきこそあれだったが、マーガレットをいじめるような者ではないんだよ」
「…………まだわからないわ」
認めたくなくて否定する。油断してはいけない。そうやって仲良くなったのちに、影であることないこと嘯かれたことがある。
お兄様も知っているから、疑い深い私の返答に苦笑するだけだ。
「ねえ、わたしと手を繋げる?」
「手……? 繋げるよ」
おそるおそる右手を差し出し、彼の一挙一動に神経をとがらせる。ジェラルドは不思議そうにしつつも私の手を握った。
温かくて、柔らかくて。お兄様と同じ、振り払われることもなく、嫌そうには見えない。
「どう思う?」
「どうって……手もきれいだね」
「それ以外は?」
「僕の手より小さい」
「くくっ」
お兄様はテーブルを軽く叩きながら笑いをこらえている。
「だめだ、はぁおもしろい。笑いすぎてお腹痛いよ」
「なんで笑うのさ。面白みなんてない」
「いやいや、ありすぎる。ジェラルドの答えはちょっとズレてる、ふふっ」
そこでちょうど──たぶん、どこからか見守っていたのだろう。お母様達が帰ってきて、しばらくしてからお開きになった。
二人を見送り、お母様と回廊を歩く途中。
「マーガレット、お母様のお願いを聞いてくれてありがとう」
そう言って頭を撫でられる。
「約束は一度だけだったから、無理してまた会ってとは言わないわ。だけど、考えてみてほしいの」
「…………わたし、もう一度会ってもいいわ」
ぱあっと顔を綻ばせたお母様から目を逸らす。
(嫌じゃ、なかったから)
会うのはかまわない。でも、婚約は破棄してもらおうと私はお父様のいる部屋に走っていったのだ。
──だって、こんな普通に接してくれるジェラルドは悪い人でなくても、変な人には違いない。そうに決まっている。
間抜けな顔をして固まっている少年を、私は顔を半分だけ出して窺う。
すると彼の隣にいた夫人がお母様に声をかけてきたのだ。
「ローズマリー久しぶりね」
「ええ久しぶり。今日はよく来てくれたわ」
お母様は嬉しそうにしていて。私もほんの少しだけ警戒を解く。
「さあ、ご挨拶して」
夫人は少年の背中をさすり、前へ押し出した。
「……ジェラルド・シモンズです」
私の赤い瞳とは反対の紺碧の瞳。同じ色でも、私よりさらさらな金髪。それが、ジェラルドの容姿だった。
「貴女も挨拶を」
「こんにちは。マーガレット・アルメリアです」
どちらも名乗るだけで、沈黙がすぐにこの場を支配した。
私も人のことを言えないけれど、初めて会ったジェラルドの態度は相手に対して失礼な部類に入ると思う。だって、ボケーっとしていて黙りこくっているから。
硬直状態が続き、お母様が声をかけてくる。
「マーガレット、私の後ろに隠れてないで出てきなさい」
正面から対峙するのは怖くてもたもたしている私に、埒が明かないと思ったのか、お兄様が繋いでいた手で軽く引っ張った。
つんのめりながら前に出ると、ちょうどそこはジェラルドの前で。未だ動こうとしない彼は不可抗力だったとはいえ、いきなり私が距離を詰めたことで驚いたらしい。肩が軽く上下し、その拍子にポトンと何かが彼のポケットから落ちる。
それは禍々しい緑色の細長いもの。一体なんだろうかと目を凝らしてようやく分かった。
「…………へび」
ぽつりと私は呟いた。
この場にいた全員の視線が地面に落ちた蛇に注がれ、まず最初に私が顔を上げると目の前にいたジェラルドの顔は真っ青になっていた。
「あ、いや……これは」
慌てて手に取ろうとするけれど、彼の手が蛇に触れる寸前で横から掠め取られる。
「ジェラルド、これは何か説明してちょうだい」
にっこり笑っているのに、シモンズ侯爵夫人の声は冷ややかだ。
「母上っそれはっ…………玩具です」
「それで?」
「置いてくるつもりだったのですがポケットに入っているのを忘れてて……」
(──うそ。わたしを脅かそうとしたのね)
目に映る色は濁っている。
つまり、彼は嘘をついているわけである。数々の嫌がらせを受けてきた私に言わせれば、嘘によって隠されたのはそれしかない。
ああ、やっぱりこの人もそういう人なのだと、お母様の優しい人だと言う言葉は信じてはいけないのだと。
急速に心は冷えていく。
(…………あたらしい人はやっぱりいらないわ)
隣にいるお兄様も色が視えたようで、「何やっているんだか」そんな感じの微妙な表情を浮かべていた。
もう婚約なんてどうにかして破棄してしまおうと心に決めつつ、お母様はお母様で私のことを不安そうに窺っているので、この場だけは約束の通り逃げずに向き合うことにした。
「おかあさま座りましょう」
繋いでいた手を離し、率先してガゼボに置かれた椅子に座る。
その後、お兄様やお母様、それにシモンズ侯爵夫人が一生懸命場を盛り上げようとしたけれど、私は無表情のまま警戒を解かなかった。
するとお母様は思い切った行動に出た。なんと夫人と一緒に手を洗いに行くと言い、それっきり帰ってこないというのを決行したのだ。
残された子供三人。お兄様は場を取り繕うために積極的にジェラルドに声をかけていくが、彼は上の空。
代わりにじーっと私のことを見つめていてとても居心地が悪いし、はっきり言って気持ち悪い。
「どうしてそんなに見つめてくるのですか」
それが、私から初めて彼にかけた言葉だった。
ぱちくりと瞬きをして、ジェラルドはごくごく自然に、心の声がポロッと漏れたかのように言ったのだ。
「──瞳がきれいだったから」
(……なにそれ。変な人)
そんなことを私に対して告げるのは、今まで誰ひとりいなかった。
だっていつも「禍々しい」「気色悪い」「穢らわしい」そんな言葉しかかけられなかった。
(きれいだなんて)
こちらも嘘だと、お世辞だと思いたいのに目に映る色は透明で純粋な言葉だと分かってしまうのが憎い。
眉間にシワを寄せると隣から笑い声が漏れる。お兄様はお腹と口を押さえて笑っていた。どうやらこらえきれずに漏れてしまったらしい。
「あははっ瞳がきれいだからってもっといい理由あっただろうに」
「……うるさい」
睨むジェラルドを無視し、お兄様は私に囁く。
「視えただろう? さっきこそあれだったが、マーガレットをいじめるような者ではないんだよ」
「…………まだわからないわ」
認めたくなくて否定する。油断してはいけない。そうやって仲良くなったのちに、影であることないこと嘯かれたことがある。
お兄様も知っているから、疑い深い私の返答に苦笑するだけだ。
「ねえ、わたしと手を繋げる?」
「手……? 繋げるよ」
おそるおそる右手を差し出し、彼の一挙一動に神経をとがらせる。ジェラルドは不思議そうにしつつも私の手を握った。
温かくて、柔らかくて。お兄様と同じ、振り払われることもなく、嫌そうには見えない。
「どう思う?」
「どうって……手もきれいだね」
「それ以外は?」
「僕の手より小さい」
「くくっ」
お兄様はテーブルを軽く叩きながら笑いをこらえている。
「だめだ、はぁおもしろい。笑いすぎてお腹痛いよ」
「なんで笑うのさ。面白みなんてない」
「いやいや、ありすぎる。ジェラルドの答えはちょっとズレてる、ふふっ」
そこでちょうど──たぶん、どこからか見守っていたのだろう。お母様達が帰ってきて、しばらくしてからお開きになった。
二人を見送り、お母様と回廊を歩く途中。
「マーガレット、お母様のお願いを聞いてくれてありがとう」
そう言って頭を撫でられる。
「約束は一度だけだったから、無理してまた会ってとは言わないわ。だけど、考えてみてほしいの」
「…………わたし、もう一度会ってもいいわ」
ぱあっと顔を綻ばせたお母様から目を逸らす。
(嫌じゃ、なかったから)
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