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フォージア編
第一話 目覚めの悪い朝
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何かを、忘れている気がする。
何か大切なものを失っている気がする。
この感覚を抱きだしたのは最近じゃない。ずっと前からそんな違和感を憶えながら、俺はその“何か”を追い求めている。
「ロビスが殺された」
それが、目を覚ました俺が初めて聞いた言葉だった。
ロビス。その名前の持ち主を俺は知らない。憶えていないと言った方が正しいのだろう。当然だ。何故なら、俺は記憶喪失になってしまったのだから。原因は俺の家族や友人を殺した魔物に、呪いを掛けられたせいらしい。
この世界、ルナソルには魔物というものが存在する。それは3年前から魔王と共に、今も尚この世界を恐怖で支配しようとしている存在だ。
その力は強大で一般人では成す術がない。
それ故人類は、多くの魔物が近づくことの出来ない聖地フォージアでの居住することを余儀なくされていた。
しかし運悪く侵入した魔物に俺たちは襲われ、結果俺の知人含めた数十人が殺されたらしい。らしい、というのはあくまでこれは他人から聞いた話だからだ。
そして、その被害者の中にいたのがロビスであった。
友人の名前も、家族の名前も、今までどんな生活を送ってきたのかさえ思い出せなくなってしまったが、確かに頭の中では俺の大切な人たちがいたという感覚が残っている。それがきっとロビスや家族なんだろう。
思い出したい。
この妙な胸騒ぎが、そんな思いに拍車を掛ける。
今の俺にとっては、言ってしまえば記憶にすらない赤の他人。だからこそ、何故俺がここまで彼らのことを思い出したいのか理解ができなかった。
それでも俺を、家族、友人をこんな目に合わせた魔王が憎くて仕方ない。
そんな思いを抱きながら、このルナソルで俺こと屈魅 狭霧くつみ さぎりは今を生きている。
頭の隅にちらつく、その“何か”求めて…。
「…っ」
夢の中で誰かが俺の名前を呼ぶ。
その声には聞き覚えがあったが、声の主の姿が像を結ばない。霞に巻かれたように、その誰かを思い出すことができないのだ。
これが記憶喪失の弊害、頭に浮かんでくるその人のことが誰かわからない。
「…o…ro!」
その声は段々と熱を帯びていき、やがて言葉がくっきりと聞こえるようになっていく。
「…ろ!…ろ!」
その言葉は俺の脳内で繰り返される。誰だ?ピントが合わない。お前が誰なのか思い出せない。
なのに、どうしてこんなにもこの声に安心できるんだ?
体中が何かに包まれているように温かく、とても居心地がいい。何よりも、その声がとても懐かしかった。
俺がそんな感覚に浸っていると、やがてその言葉がはっきりと聞こえた。
「起きろ!目を覚ませ!」
そうして俺はその誰かに夢を覚まされる。
「おい、起きろ。狭霧。いつまで寝ているんだ」
そんな声が響き渡り、肩を叩かれ、ナイフを向けられたところで、ようやく俺は自宅のベッドで意識を覚醒させた。
起こしてきたのは俺と同居をしているヴァルだ。
ベッドの横で腕組をしながら仮面越しにこちらを見下ろしている姿が容易に想像できる。
本名はヴァネット・サム。記憶喪失になる以前から友人だったらしく、ずっと俺を支えてきてくれた。
今では親友と呼べるほどの仲だ。
彼は素顔が途轍もなく怖いらしく、白い仮面をつけている。
素顔は俺も見たことがない。
怖がられないようにとのことだが、正直その仮面もかなりの人避け効果を発揮している。それに本人が気づいていないのが悲しい話である。
俺は重たい瞼をゆっくりと上げて、枕もとの時計を確認する。
時計の針は午前7時を指していた。
ふむ、着替えもろもろの時間を差し引いても、警備担当時間までにはまだ時間があるな。起こしてもらったところ悪いが、ここは二度寝と洒落込もうじゃないか。
「俺は朝早くに紅茶を飲もうとしたんだ。だけど紅茶をコップに入れるのは…。」
「ごめん。要点だけまとめてもらっていい?」
「よく時計を見てくれヴァル。時計はまだこんなに早い時間を指している。それに睡魔が俺に眠れと囁いてきているんだ。三大欲求に逆らうのはあまりよろしくない。長針と短針の間の角度が次に45度を示すときにまた起こしてくれ。おっと、ナイフはなしな」
再度頭から毛布をかぶり、シッシッと手を払う。
「端的に言え」
「二度寝するから7時半に起こして」
「ごめん。理解できなかった」
「なんで?」
これ以上何処を省略しろというんだ。
「まあ、今日は早く行こうぜ。レテーズ川が干上がり始めたらしい」
「なんだって?」
ヴァルの言葉に俺はものの見事に食いついた。
レテーズ川とはフォージアを魔物が生息する大陸から隔離している大河の事だ。
そこに流れる水には魔物をあまり寄せ付けない効果があり、この地を魔物から守り続けている。
所謂、退魔の力というものだ。魔物の魔力が強いほど効果も強力になるため、ここを抜けられるのはあまり強くない魔物だけとなっている。
つまりその水が干上がるということは強力な魔族の大陸とフォージアの行き来が可能になるということで、それは人類の危機を示しているということだ。
現在フォージアで人類が安全に暮らせているのはレテーズ川の水の恩恵のおかげだ。
第一に多くの一般人は魔物に対して成す術がない。恐らく逃げ切ることすらままならないだろう。
だからこそ、能力者から構成された退魔物戦闘員レグウスという部隊がこの国を守っている。レテーズ川の渡河をしてきた弱小魔物を狩る専門部隊だ。
能力者というのは…この説明はもはや必要ないよな。
そして俺たちもレグウスの端くれというわけだ。いつもは怠惰な俺も今回ばかりは動いたほうが良いだろう。
俺は先程までとは打って変わった態度で警備の準備を開始した。
何か大切なものを失っている気がする。
この感覚を抱きだしたのは最近じゃない。ずっと前からそんな違和感を憶えながら、俺はその“何か”を追い求めている。
「ロビスが殺された」
それが、目を覚ました俺が初めて聞いた言葉だった。
ロビス。その名前の持ち主を俺は知らない。憶えていないと言った方が正しいのだろう。当然だ。何故なら、俺は記憶喪失になってしまったのだから。原因は俺の家族や友人を殺した魔物に、呪いを掛けられたせいらしい。
この世界、ルナソルには魔物というものが存在する。それは3年前から魔王と共に、今も尚この世界を恐怖で支配しようとしている存在だ。
その力は強大で一般人では成す術がない。
それ故人類は、多くの魔物が近づくことの出来ない聖地フォージアでの居住することを余儀なくされていた。
しかし運悪く侵入した魔物に俺たちは襲われ、結果俺の知人含めた数十人が殺されたらしい。らしい、というのはあくまでこれは他人から聞いた話だからだ。
そして、その被害者の中にいたのがロビスであった。
友人の名前も、家族の名前も、今までどんな生活を送ってきたのかさえ思い出せなくなってしまったが、確かに頭の中では俺の大切な人たちがいたという感覚が残っている。それがきっとロビスや家族なんだろう。
思い出したい。
この妙な胸騒ぎが、そんな思いに拍車を掛ける。
今の俺にとっては、言ってしまえば記憶にすらない赤の他人。だからこそ、何故俺がここまで彼らのことを思い出したいのか理解ができなかった。
それでも俺を、家族、友人をこんな目に合わせた魔王が憎くて仕方ない。
そんな思いを抱きながら、このルナソルで俺こと屈魅 狭霧くつみ さぎりは今を生きている。
頭の隅にちらつく、その“何か”求めて…。
「…っ」
夢の中で誰かが俺の名前を呼ぶ。
その声には聞き覚えがあったが、声の主の姿が像を結ばない。霞に巻かれたように、その誰かを思い出すことができないのだ。
これが記憶喪失の弊害、頭に浮かんでくるその人のことが誰かわからない。
「…o…ro!」
その声は段々と熱を帯びていき、やがて言葉がくっきりと聞こえるようになっていく。
「…ろ!…ろ!」
その言葉は俺の脳内で繰り返される。誰だ?ピントが合わない。お前が誰なのか思い出せない。
なのに、どうしてこんなにもこの声に安心できるんだ?
体中が何かに包まれているように温かく、とても居心地がいい。何よりも、その声がとても懐かしかった。
俺がそんな感覚に浸っていると、やがてその言葉がはっきりと聞こえた。
「起きろ!目を覚ませ!」
そうして俺はその誰かに夢を覚まされる。
「おい、起きろ。狭霧。いつまで寝ているんだ」
そんな声が響き渡り、肩を叩かれ、ナイフを向けられたところで、ようやく俺は自宅のベッドで意識を覚醒させた。
起こしてきたのは俺と同居をしているヴァルだ。
ベッドの横で腕組をしながら仮面越しにこちらを見下ろしている姿が容易に想像できる。
本名はヴァネット・サム。記憶喪失になる以前から友人だったらしく、ずっと俺を支えてきてくれた。
今では親友と呼べるほどの仲だ。
彼は素顔が途轍もなく怖いらしく、白い仮面をつけている。
素顔は俺も見たことがない。
怖がられないようにとのことだが、正直その仮面もかなりの人避け効果を発揮している。それに本人が気づいていないのが悲しい話である。
俺は重たい瞼をゆっくりと上げて、枕もとの時計を確認する。
時計の針は午前7時を指していた。
ふむ、着替えもろもろの時間を差し引いても、警備担当時間までにはまだ時間があるな。起こしてもらったところ悪いが、ここは二度寝と洒落込もうじゃないか。
「俺は朝早くに紅茶を飲もうとしたんだ。だけど紅茶をコップに入れるのは…。」
「ごめん。要点だけまとめてもらっていい?」
「よく時計を見てくれヴァル。時計はまだこんなに早い時間を指している。それに睡魔が俺に眠れと囁いてきているんだ。三大欲求に逆らうのはあまりよろしくない。長針と短針の間の角度が次に45度を示すときにまた起こしてくれ。おっと、ナイフはなしな」
再度頭から毛布をかぶり、シッシッと手を払う。
「端的に言え」
「二度寝するから7時半に起こして」
「ごめん。理解できなかった」
「なんで?」
これ以上何処を省略しろというんだ。
「まあ、今日は早く行こうぜ。レテーズ川が干上がり始めたらしい」
「なんだって?」
ヴァルの言葉に俺はものの見事に食いついた。
レテーズ川とはフォージアを魔物が生息する大陸から隔離している大河の事だ。
そこに流れる水には魔物をあまり寄せ付けない効果があり、この地を魔物から守り続けている。
所謂、退魔の力というものだ。魔物の魔力が強いほど効果も強力になるため、ここを抜けられるのはあまり強くない魔物だけとなっている。
つまりその水が干上がるということは強力な魔族の大陸とフォージアの行き来が可能になるということで、それは人類の危機を示しているということだ。
現在フォージアで人類が安全に暮らせているのはレテーズ川の水の恩恵のおかげだ。
第一に多くの一般人は魔物に対して成す術がない。恐らく逃げ切ることすらままならないだろう。
だからこそ、能力者から構成された退魔物戦闘員レグウスという部隊がこの国を守っている。レテーズ川の渡河をしてきた弱小魔物を狩る専門部隊だ。
能力者というのは…この説明はもはや必要ないよな。
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