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第二部 お兄ちゃん、待っててね!/ラッキースケベは必・・・あぁ! そんなものねぇーよ!!

カミラーズ人 ゼム

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ドゴーーーーーーーーーーーーン!!

と稲光が『北の森』の方に降った。

「何だ!! 雷撃系の魔法じゃな。
  ライキン!!どうするのじゃ?」

「マズイ!! 『北の森』には防衛するだけの兵がいない!!」
ライキンは全速力で『北の森』目指した。

「敵さんも同じ事を考えていたようですね。姫様」

「同じこと?」

「陽動ですね。我々は引っかかったようです」

「え!!マズイじゃない! 早く戻らないと加奈や詩織や『北の森』の人たちが危ない!」

というと茜は全速で空を飛び『北の森』へ向かうとフェネクシーとブラドーもそれに倣った。

全速力で地面を走るライキンを追い抜き『北の森』へ着くと、いたるところで火の手が上がっている。
多くの家は焼かれ、女、子供の獣人たちは叫び声を上げながら逃げ惑い、男の獣人たちの遺体が散乱している。

「ひ、酷い! 誰がこんな事を!」
茜は加奈や詩織を探すと

「オラーーーーー!!死にさらせ! てめーら剥製にしてやるよ!!」

見るからに筋肉質で背の高い男は水色の肌をしており2mを越える大剣を持ったいた。
獣人たちを一方的に斬り殺していた。
血しぶきが舞い上がり、時には片手で獣人たちを殴り飛ばしていた。


茜は咄嗟にタナの剣を抜き、今にも殺されそうな獣人と水色の人間の間に割り込んだ。


ガキン!!

タナの剣と大剣がかち合う。
鍔迫り合いをしながら


「あ~~、てめーは何だ! 人間のクセに獣の肩を持つのか!」

「だっさー 何弱い者イジメしているのよ!」

「何言っているんだ、小娘! 世の中、弱肉強食なんだよ! 弱い奴らが悪いんだよ!」

「これはあんたがヤッタの?」

「そうだ! と言ったら!」

「許さない!!」 

「大きく出たもんだな! 良い剣を持っているようだが、お前の技量じゃ、その剣を生かせないぜ!
 剣の道を舐めるなよ! 小娘!!」

男はいきなり斬りかかり茜を弾き飛ばした。
明らかに剣のレベルが違っていた。
剣をあわせた瞬間に相手との力量差を計る事が出来た。

男は大きく振りかぶり大剣を茜に叩きつける。
タナの剣で必死に防ぐが力量差はいかんともしがたく一撃で吹っ飛ばされてしまった。
そして、崩れた体制を立て直す前に斬りかかった。

「姫様!」
「女子!!」

ブラドーとフェネクシーが叫ぶ!

水色の男の大剣が茜の頭を目掛けて振り下ろされる。



「キャーーーー!」
あまりの恐怖に茜は悲鳴を上げた。
ステータスやスキルがあっても、ついこの間までは普通の女子高生なのだ。
剣や魔法などと別の世界に住んでいたのだ。



アッ!私、やられちゃうかも・・・・
死が過ぎる。


お兄ちゃん、ごめんなさい。



迎えにいけない・・・・・ごめんなさい。



「弱いな、小娘! この程度でおしまいか!
 その大剣が泣いてるぜ!」



 
その時、優しい顔をした愛犬ロゼの顔が浮かぶ。



咄嗟に左腕で頭を庇った。
大剣が左腕に当たる。

あの大剣、あの男の剣の技量なら茜の腕は切り落とされているはずなのだが手首と肘の間で受け止めた。


「な、な、なんで切り落とせない!! 何だこの硬さは!!」
腕に当たったと言うより鋼鉄に当たったような衝撃を両手に受けた。
水色の男は驚いた。

「何故だ! 今の一撃で腕どころか体まで切り裂けるはずだ!!」

そうロゼのローブが茜の体を護ったのだ。
悪意のある攻撃は全て無効化するチート装備。
タナは剣士系の勇者であったがロゼは僧侶・聖女系の勇者であった。
攻撃力の強くないロゼの能力は防御・回復・支援に振られていた。
そのために装備は防御系に特化した物であった。


「あ、あ、ありがとう、ロゼ」

「クソーー!!」
と水色の男は大剣を振り回し茜に斬りつけるが、全ての剣の一撃をロゼのローブが遮断する。

防戦一方の茜がスキルを唱えた。

「剣技LV MAX!!」

それまでの及び腰が嘘のように男と斬り合いが始った。

ガシガシ!!
ガキンガキン!

金属同士が当たるような音が響き渡る。

ガンガン!
ギガンギガン!!

水色の男も剣技LV MAXに付いていく。
一刀一刀重いタナの剣が水色の男を襲う。


「グッ!ググッ!」

一刀一刀受けるたびに足が地面にめり込んで行く。
明らかに茜が押し始めた。
伊達に力のステータスがMAXではない。
この水色の肌の男も剣の腕前は達人クラスなのだろうが一刀一刀、茜の馬鹿力を乗せた剣激を受けるたび男の体力、握力は削り取られていく。

「お前の剣は何だ!! 俺の魔剣デュラランダルが切断できないとは相当な業物だな!!」

茜は斬激を叩き込みながら

「タナの剣といって、この世界の神剣よ!!」

「この世界にも、そんな剣があるのか!」

と水色の男が言い終わらないうちにデュラランダルを弾き飛ばし、男の頭にアイアンクローを噛まし地面に叩きつけた。

勝負あった。

男は顔面を地面に痛打し口から泡を吐き失神した。



「姫様、大丈夫ですか!」

「女子、危なかったのー」

ブラドーとフェネクシーが寄って来た。

「ロゼのおかげで助かったわ。このロゼのローブ凄いわね。
 あの大剣の一撃を防いじゃうんだもん!」

「神具ですからね」
ブラドーは胸をなでおろした。

「こやつ、どうするのじゃ?」

「何か縛るモノ無い?」

「これをお使いください」
と言ってブラドーは虚空庫に手を入れ、やたらと長い銀色に輝くロープを取り出した。


「何これ?」

「龍の髭でございます」

「えーーー 龍なんているの?」

「はい、霊峰に生息しております」

「ブラドー、お主それを持っていると言う事は龍を倒したことがあると言うことか?」

「100年ほど前に一頭倒したことがある」

「ほーー流石じゃの~龍を倒せる者は、そう多くは無い!」

「ブラドーさんは『ドラゴン・キラー』ってヤツなのね」

「女子よ、龍とドラゴンは別種じゃよ。
 ドラゴンなんぞ龍と比べればトカゲのようなものじゃ。
 龍のほうが遥かに強く賢い。
 比べる物ではない。
 じゃから龍を殺せると言うのは魔族界では尊敬の念を受けるのじゃよ」

「へーーーーー、ブラドーさんは別格なのね。カッコいいーーー」

「止してください、姫様。姫様ならダース単位で簡単に討伐できるでしょう」

「そんなに倒したら龍王が黙ってい無いじゃろうがな」

「龍王さんと言うのもいるの?」

「フェネクシーと並ぶ、この世界の実力者です」

「大魔王さんはそんなに強いの?
 あんまり強そうに見えないけど・・・・」

「まぁ~これでも大魔王と呼ばれておるからな~」
フェネクシーは肩をすくめながら言うのであった。



「うううう」

水色の男が混濁する意識から目覚めようとしていた。
ブラドーは慌てて縛り上げた。

「うううううー」

「目が覚めたか!カミラーズ人!」

「う、う、うーーー   吸血鬼か!」
と水色の男は頭を振った。

「貴様! 名前は?」

「ゼムだ! カミラーズの戦士!ゼムだ!!」

「ゼムとやら、ここを襲ったのはウオレル王の命令か?」

「あぁ! そうだ」

「あなた異世界から来た召喚者なんでしょ。何故、こんなに無益な事をするの?」
茜・・・いや、現代日本で暮らしているものなら誰もが思うことだろう。

「何、言っているんだ! 全ての世界は弱肉強食なんだよ。
 弱いものに生きていく資格は無い!
 狩るか!狩られるか!!なんだよ」

「愚かな・・・・ゼムとやら、人を殺してそんなに楽しいのか?」
と、フェネクシーが問う。

「カミラーズ人は戦うために生まれてきたのだ!
 征服するために生まれてきたのだ!」

「えっ、こんな野蛮人をあの女神様は召喚したの?
 信じられな~~~い」

「いや、女子よ! 名無しの女神はこのような者を召喚しないじゃろ。
 ゼムとやら、そなたを召喚した女神は誰じゃ?」

「女神・アリーナだ!」

「アリーナじゃと!!」
とフェネクシーは顔を押さえ首を振った。

「知ってるの?」

「女神・アリーナは戦いを司る神と言われております。
 嫉妬深く、プライドが高く、好戦的な神です」
首を振り続けるフェネクシーに代わりブラドーが答えた。

「え~~ 嫌な神様ね~ うちらの女神様とは大違いね~」

「ハハハハハ、お前たち、こんな事をしていていいのか?
 俺、一人で来たと思っているのか?」



ドドーーーーン!!

その時、森の奥から爆発音が響いた。


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