【完結】銀の龍瑠璃色の姫君を愛でる―31歳童貞社畜の俺が異世界転生して姫になり、王になった育ての息子に溺愛される??

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8章.獣人王宮でお茶を淹れる

05.

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「…澄んでる」

思わず、つぶやいた。
足を踏み入れて、すぐに感じる。圧倒的に澄んだ空気。清らかな。爽やかな。心地よい。一気に呼吸が軽くなる。

「…この中はほぼ無菌状態です」
「え、…?」

なんだか意外な気がした。死森の土は人間に有害な毒を発する植物を育てる。なのに、同じ土で育てた植物が茂るこの研究室内は、無菌?

「この一見矛盾した状態に、我々もジョシュア様も頭を悩ませましたが、ジョシュア様は、或いは、死森の毒は後天的に生成されたのかもしれないとお考えになっておられます」

つまり。
もともと無菌状態だった死森が人間もしくは人間社会に触れることで毒性を持った、…?

「そうすることで、人間は自らを守っているのかもしれません」

ん? 自分に有害な毒を発生させて、自分を守る??

トーニ爺さんの言葉に混乱している俺を見て、

「死森は、人界から死界を隔てているのではなく、死界から人界を守っているという発想です。人間は、獣人よりもはるかに弱い。彼らは身を守るために武器を捨てることが出来ません。死森は人界から死界へ迷い出さないためのシールド。一種の自衛の役目を果たしておるとも考えられますのじゃ」

そう付け加えると、トーニ爺さんは少し寂し気な笑みを浮かべた。

本当はこんなにも澄んでいる空気を自衛のために毒化する、…トーニ爺さんの何とも言えない虚しさが伝わってきて、何だか俺も胸が痛んだ。

人間は、人界を越えてはいけない。獣人の世界では生きられない。
ゲゲック宰相は獣人をしきりに化け物扱いしていたし、エイトは人間を家畜扱いしていた。

異種族が共に生きるのは難しい。
でも。

『やめろ、人間を攻撃するな、…っ』

ジョシュアはあきらめていない。
自分が撃たれた時でさえも人間への攻撃を止めた。

『いがみ合っているだけでは理解はできない。ともに取り組むことで見えることもあるだろう』

かつては獣人の世界でも、6つの種族からなる獣人たちの習性の違い、獣の本能である狩りや食事を巡って殺戮や暴動が絶えなかったというが、ジョシュアの治世になり、調和が保たれているという。

人間と獣人だって出来るはずだ。
その意図をもってジョシュアは結婚披露パーティーを開こうとしている。人間を人界に追い返さずに、一緒に過ごそうとしている。

俺も協力したい。人間としてジョシュアのそばにいるわけだし、曲がりなりにも世界を一つにすると言われているラピスラズリなわけだから、俺にも何か出来ることが、…

「…姫さま。お疲れになられましたでしょう。何か飲まれますか?」

諸々考えさせられながらジョシュアの研究室を出たところで、トーニ爺さんに声をかけられて、急にひらめいた。

「…それだ‼」

《治癒の力、…》

金龍の背にジョシュアと乗っていた時、金龍に言われた。俺の力。俺に出来ること。ジョシュアにも、『お前は傷ついた者たちを癒してくれないか』って、言われたじゃん。

「トーニ博士。ここにある薬草で、ハーブティーを淹れたいんですけど、いいでしょうか?」

「…はぁ。まあ」

急に話が飛んだので、トーニ爺さんは眼鏡の奥の小さな目を瞬かせた。

「じゃあ、復興のために力を尽くしているみんなに、お茶を淹れさせてくださいっ‼」

思い立って突然やる気を見せ始めた俺に、

「…めぇ?」

トーニ爺さんは気おされたように可愛らしく鳴き声を上げた。
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