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10章.犯人の濡れ衣を着せられる

01.

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「…ない、こと、ない、だろ?」

なんで俺がしどろもどろなんだ。
ジョシュアが眩し過ぎて無駄にドキドキしながら、ここで引き下がったらさすがにチョロ過ぎると踏ん張り、怒らないからお母さんに正直に話してみなさい、の境地を貫く。

「ないな。俺が噛み痕付けたいと思うのはお前だけだ。お前しか噛んだことない」

俺に問い返されてもジョシュアは譲らず、至極真っすぐに言い切る。
ヤバい。眩しい。率直な言葉にじわじわ喜びが沸き上がってきて困る。にやけるな、俺。もうちょっと威厳というものを、…

「…あ」

俺が口輪筋と戦っていると、ジョシュアが何かを思い出したようにわずかに小首を傾げた。

「エイトはあるかもしれない。幼い頃、喧嘩して。獅子ライオンの牙が生え始めた頃って何でも噛みつきたいし、獣の気性が強いからつかみ合い噛み合いの喧嘩をしょっちゅうしてた。噛んだり噛まれたりしたような気もする」

ダメか? みたいな目で見られて怯む。
さすがに俺だってそんなことに妬かないし、しかも、子どもライオンのジョシュアなんて、絶対可愛かったに決まってる。ああ、クソ。見たかった‼

「ネメシスもいたか? いたかな。俺が噛んだか? エイトじゃないか?」

すっかり毒気を抜かれて、なんなら、俺が知らない子ライオンのジョシュアを見たことあるなんてずるい、とか思っている俺に、ジョシュアは首をひねったまま何やら思い返していたが、

「…可愛いな」

急に俺を嬉しそうにぎゅうぎゅう抱きしめてきた。

うぇ、…⁉

「お前、ネメシスに妬いてたのか」

したり顔のジョシュアに見降ろされて、羞恥が弾けた。

「…妬いてねえっ」

その通りなんだけど、図星さされると恥ずかしい。自分が小さすぎて。簡単に転がされ過ぎて。だって、つまり。ネメシス女史はジョシュアが覚えてもいないような子どもの頃の戯れを誇張して言ったってことだろ。勝手に疑ってやきもきして負けた気になって凹んで、…それで一日中何にも手につかないとか、ダメ過ぎる。知ってたけど、俺ってダメなやつ。

恥ずかしさに顔を背けた俺の髪に手を差し入れて向き直らせると、

「俺は、お前だけだ」

ジョシュアはこぼれそうに甘い笑みと囁きを落として、俺をゆっくり蕩けさせた。こんなダメな俺を。俺だけを。

髪に頬に瞼に鼻に優しいキスの雨が降る。ジョシュアの艶やかに潤んだ唇が淡雪みたいに俺に触れる。くすぐったくて気持ち良くてふわふわして幸せが込み上げる。もっと欲しくてもっと近づきたくて自分からジョシュアに擦り寄って強く抱き着いた。

「明日は桃を使うのか」

気づけば体勢が入れ替わって、ジョシュアの膝に抱かれていた。ジョシュアは俺を抱き上げて絡めた指で髪をゆっくり撫でながら、氷に覆われた瓶の中で艶やかに眠っている桃コンポートに目を止めた。

「うん、…」

ジョシュアの腕の中が心地良すぎて、簡単に陥落してしまう俺はどうしようもなくチョロいけど、どうしようもなく幸せで。

「楽しみだな」

どうしようもなくジョシュアが好きだ。
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