白き狼の寵愛【完結】

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Ⅰ.ユラの章【捕獲】

09.

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「や、…やめ、…っ」

三人がかりで両手両足を押さえつけられ、馬乗りになられ、全く身動きできない。

「ああ、生娘だ」「見ろ、極上の美人だよ」「早くぶち込みてえ」

強いアルコール集をまき散らし、脂ぎった顔を近づけながら、イヒヒヒと舌なめずりする様は、満月に蔓延はびこるハイイロを彷彿ほうふつとさせた。実際、ハイイロの行いに便乗して満月の夜に凶悪犯罪を起こす人間は増加の一途をたどり、残虐さもハイイロと大差ないことなど、外部との接触を断たれているユラが知る由もなかった。

「い、…や、…っ」

生理的な涙を流し顔を背けるユラを、男たちは面白がって大声で笑いながら顎をつかみ、外套をはだけ、着物の襟に手をかけて、派手に引き裂いた、…

その時。

突如、音もなく空から白い塊が降りてきて、瞬く間に男たちを退けるとユラを抱いて宙に跳んだ。ひと跳びで高いビルの壁面を駆けあがり、ビルの屋上まで到達する。夜の湿った風と満月の光が降り注ぎ、ユラを抱く白い塊の姿がはっきりと見えた。

柔らかな純白の毛並みは月の光を帯びて銀色に輝き、首にチョーカーを着けた狼の顔は凛々しく、神々しく、瞳が金色に光っている。ユラを支える屈強な体躯はしなやかに伸びて二足歩行をしており、まさに半獣半人、白い人狼の姿をしていた。

男たちにしかかられて、重く押しつぶされていた圧力から解放され、無意識に呼吸を繰り返すユラの背中を、白い人狼は優しく撫でた。

「なんでお前、…」

恐怖と混乱でパニックになり、瞳を瞬かせてぽろぽろと涙を零すユラを、白き狼は少し困ったように見つめてから、ぺろりと舐めた。

温かくてほんのりザラザラとして、柔らかく優しい狼の舌が、次々零れ落ちるユラの涙を舐め取る。

「ボス、始末しました」

いつの間にか数人の大柄な灰色人狼たちが白い狼の背後に現れ、恭しく片膝をついていた。

「ご苦労。後は好きにしろ。俺は先にねぐらに戻る」

「承知しました」
「ボス、その人間は、…」

「…ユラは、俺の女だ。連れていく」

「「はっ」」

灰色の人狼たちは、一様に月の光を映したような金色の目を光らせ、白き狼に首を垂れると、一瞬のうちにその場からいなくなった。

どこか遠くから悲鳴や殴り合うような音や何かが壊れるような音が聞こえてくる。警備隊の警笛や銃声もする。

ハイイロ、…

人間を襲う残虐な人狼のことはユラも聞いたことがある。
書物でも読んだし、「若い娘を犯して喰うなど、なんとおぞましい」と、アンリもよく嘆いていた。

実際目にするハイイロは、想像よりはるかに俊敏で抜け目なく、絶対的な力の違いを見せつけられた。しかし、野蛮で獰猛なイメージに反して、月夜を跳ぶ彼らの姿は美しかった。

とりわけ、ユラを抱いて跳ぶ白い人狼は、畏怖するほどに美しく、どこか懐かしい感じがした。
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