時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】

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「あ、…いえ、僕は別に、…」

長身の世界的イケメンに間に立たれた緑川さんがあからさまにひるんだ。

「じゃあ、すみません。急ぎますので」

千晃くんが守るように私の肩を抱いて、路上で待たせたままのタクシーまで連れて行く。

千晃くんの長い腕。ほのかに伝わる体温。
微かに触れる優しい手。
歩くたび起こる衣ずれの音。

なんで、千晃くんが助けてくれちゃうかな。
なんでいつも、千晃くんなんだろう。

目の奥が熱くなって、唇を噛み締めた。

「常盤くん? 大丈夫だった?」

タクシーの脇で千晃くんを待っていた中年男性2人が、戸惑いの視線で私を見つめた。

なんか、この人たち見たことある。
CEOとか、COOとか、うちの会社のトップ役員だと思う。

「はい。一緒にお願いします」

千晃くんは笑顔でさらりと最高経営責任者と最高執行責任者をタクシーに乗せ、
ついでに私も押し込むと、
自身は助手席に乗って運転手さんに発車を促した。

後部座席の窓から外を見ると、呆然とした様子でタクシーを見送る緑川さんの姿が通り過ぎていった。

…緑川。
みどりかわ。 …ミドリカワ。

どう考えても、全く心当たりがない。

けど、もしかしたら。
担当店舗の一つによく来ているお客さんかもしれない。

ほとんど喋った覚えがないけど、挨拶くらいしたかもしれない。

断じて彼氏じゃないけど。
どう間違っても彼氏じゃないけど。

カッコーン、…

和風庭園にある鹿威しが風流な音を奏でる。

掛け軸。床の間。豪華な生け花。
金箔の舞う襖。掃き出し窓から望む日本庭園。
重厚感のある木造りの机。完全個室。
優雅な物腰で接待する着物姿の仲居さん。

映像でしか見たことのない高級料亭らしきところで、
なぜ使えない社員代表のこの私が。
トップ役員に向かい合って。
座っているのでしょうか。

場違い感半端なく、いたたまれない。
何をどうしたらいいのかさっぱりわからず、曖昧な笑みを貼りつけて全身を引きつらせているしかない。

「僕一人じゃ緊張しちゃうんで」
「そうだよねぇ。常盤くん、まだ22歳だっけ?」
「若いもんねぇ」

僕。

だって。千晃くん。

千晃くんはその明晰すぎる頭脳ゆえ、飛び級で学校を卒業していて、
一時期私と同じ大学のゼミにいたけど、年齢で言うと2個下になる。

私の隣に座っている千晃くんを横目で盗み見ると、
緊張とは程遠い表情で、
にこやかにトップ役員のお二方とお酒を酌み交わしながら談笑している。

内容は恐らく。
会社の経営に関わる話、のような気がする。
海外情勢とか、経済情勢とか、のような気がする。

どうやら。

千晃くんは助言者みたいな立場でうちの会社にしばらく滞在するらしい。

今は海外の大学院に籍を置きながら、フリーの経営顧問をしていて、その才能を見込んだCEOが懇願して連れてきたらしい。

「お客様相談センターは会社の顔なんだよね」

自分が無知過ぎて話に入れずにいると、
千晃くんがさりげなく水を向けてくれて、
気づいたらお客様相談センターでの経験なんかを語っていた。
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