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お昼休み。
自作の爆弾おにぎりを持ってこなかったので、
外に買い出しに出た。
コンビニおにぎりをゲットしなければ、
と勇んでエレベータを降りたら、
エントランスを行きかう人びとの中に千晃くんの姿を見つけた。
どうして私の目は、千晃くんに反応しちゃうんだろう。
いい加減、立ち止まるのはやめたいのに。
見たくないものまで、見ちゃうのに。
千晃くんの傍らに黒髪美女の彼女さんがいて、何やら包みを渡している。
彼女さん。
改めて見ると、まだ若そうな感じがする。
学生さんかもしれない。
ていうか、あの包み、どこをどう見ても「手作り弁当」…ですよね。
心の奥がキシキシ音を立てて軋む。
気づかなかったふりをして通り過ぎようとした私の耳に、
「…ありがとう、ここ」
甘くて優しい千晃くんの声が聞こえて、
その場から、動けなくなった。
『ありがと、ここ』
時間が巻き戻って、
幸せしか知らなかった学生時代の私が、あふれんばかりの笑顔を千晃くんに向けていた。
「…千晃くん、お仕事頑張って」
彼女さんの声で、現在に引き戻された。
凍り付いた心臓が彼女さんの無邪気な声でバラバラに砕かれる。
無数の欠片が音もなく突き刺さって、痛くて、動けない。
「…佐倉さん?」
立ち止まったまま動けずにいた私に、千晃くんが気付いた。
「…あ、…はい」
声が震えないように、泣き出さないようにするのが精いっぱいだった。
「今からお昼? 俺も」
千晃くんが笑顔でお弁当の包みを掲げて見せてくれた。
傍らから彼女さんが人好きのする笑顔をのぞかせて、
「二階堂心菜です。お料理勉強中なんです」
はにかみながら頭を下げてくれたので、必死で何とか笑顔を作って頭を下げた。
ここ、な、さん。
ここ、って呼ばれてるんだ。
心臓がどくどく音を立てる。
胃がぞわぞわ落ち着かなくて、こめかみがキリキリ痛む。
「じゃあ、…失礼します」
二人に頭を下げたまま、逃げるようにエントランスから外に出た。
千晃くんが何か言っているような、
彼女さんの視線が刺さっているような、
そんな気がしたけど振り返れなかった。
一刻も早くその場を離れないと、何かが爆発して、
大声でわめき出してしまいそうだった。
『千晃くん、出来たよ』
はっきり言って料理は苦手。
唯一作れるのは、オムライス。
具は人参と玉ねぎで、ケチャップで味をつけてから、ご飯を入れる。
卵焼きは、ひたすら卵を泡立ててから生クリームを少し入れて、一気に焼く。
卵が熱いうちにケチャップで文字を書いて、
『スキ』
千晃くんに持っていくと、千晃くんが優しい笑顔で私の頭をなでてくれた。
『ありがと、ここ』
嬉しくて嬉しくて。
毎日オムライスばかり作っていたら、千晃くんが一緒に作ろうって言ってくれて、
麻婆豆腐とか豚汁とかサバの味噌煮とか、レシピを調べながら挑戦した。
美味しくて楽しくて幸せで。
なのに。
千晃くんがあの笑顔を他の女の子に向けて。
他の女の子の頭をなでて。
『ここ』って呼ぶ。
そんなの。
コンビニエンスストアに入る前に、息を止めて奥歯を噛みしめた。
それでもどうしても涙がにじんで、
入り口で立ち止まっていたら、
店内から出てきた人に怪訝そうに見られた。
結局、買い物をあきらめて通りに戻った。
どうして、ここ、なの?
そんなの。
あんまりだよ、千晃くん。
耐え切れずに涙が一粒零れ落ちて、慌てて上を向いた。
見上げた空は灰色で、どこまでも濁った私の心みたいだった。
自作の爆弾おにぎりを持ってこなかったので、
外に買い出しに出た。
コンビニおにぎりをゲットしなければ、
と勇んでエレベータを降りたら、
エントランスを行きかう人びとの中に千晃くんの姿を見つけた。
どうして私の目は、千晃くんに反応しちゃうんだろう。
いい加減、立ち止まるのはやめたいのに。
見たくないものまで、見ちゃうのに。
千晃くんの傍らに黒髪美女の彼女さんがいて、何やら包みを渡している。
彼女さん。
改めて見ると、まだ若そうな感じがする。
学生さんかもしれない。
ていうか、あの包み、どこをどう見ても「手作り弁当」…ですよね。
心の奥がキシキシ音を立てて軋む。
気づかなかったふりをして通り過ぎようとした私の耳に、
「…ありがとう、ここ」
甘くて優しい千晃くんの声が聞こえて、
その場から、動けなくなった。
『ありがと、ここ』
時間が巻き戻って、
幸せしか知らなかった学生時代の私が、あふれんばかりの笑顔を千晃くんに向けていた。
「…千晃くん、お仕事頑張って」
彼女さんの声で、現在に引き戻された。
凍り付いた心臓が彼女さんの無邪気な声でバラバラに砕かれる。
無数の欠片が音もなく突き刺さって、痛くて、動けない。
「…佐倉さん?」
立ち止まったまま動けずにいた私に、千晃くんが気付いた。
「…あ、…はい」
声が震えないように、泣き出さないようにするのが精いっぱいだった。
「今からお昼? 俺も」
千晃くんが笑顔でお弁当の包みを掲げて見せてくれた。
傍らから彼女さんが人好きのする笑顔をのぞかせて、
「二階堂心菜です。お料理勉強中なんです」
はにかみながら頭を下げてくれたので、必死で何とか笑顔を作って頭を下げた。
ここ、な、さん。
ここ、って呼ばれてるんだ。
心臓がどくどく音を立てる。
胃がぞわぞわ落ち着かなくて、こめかみがキリキリ痛む。
「じゃあ、…失礼します」
二人に頭を下げたまま、逃げるようにエントランスから外に出た。
千晃くんが何か言っているような、
彼女さんの視線が刺さっているような、
そんな気がしたけど振り返れなかった。
一刻も早くその場を離れないと、何かが爆発して、
大声でわめき出してしまいそうだった。
『千晃くん、出来たよ』
はっきり言って料理は苦手。
唯一作れるのは、オムライス。
具は人参と玉ねぎで、ケチャップで味をつけてから、ご飯を入れる。
卵焼きは、ひたすら卵を泡立ててから生クリームを少し入れて、一気に焼く。
卵が熱いうちにケチャップで文字を書いて、
『スキ』
千晃くんに持っていくと、千晃くんが優しい笑顔で私の頭をなでてくれた。
『ありがと、ここ』
嬉しくて嬉しくて。
毎日オムライスばかり作っていたら、千晃くんが一緒に作ろうって言ってくれて、
麻婆豆腐とか豚汁とかサバの味噌煮とか、レシピを調べながら挑戦した。
美味しくて楽しくて幸せで。
なのに。
千晃くんがあの笑顔を他の女の子に向けて。
他の女の子の頭をなでて。
『ここ』って呼ぶ。
そんなの。
コンビニエンスストアに入る前に、息を止めて奥歯を噛みしめた。
それでもどうしても涙がにじんで、
入り口で立ち止まっていたら、
店内から出てきた人に怪訝そうに見られた。
結局、買い物をあきらめて通りに戻った。
どうして、ここ、なの?
そんなの。
あんまりだよ、千晃くん。
耐え切れずに涙が一粒零れ落ちて、慌てて上を向いた。
見上げた空は灰色で、どこまでも濁った私の心みたいだった。
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