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time.55
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結局その日は一度もチーフと話すことなく、
病院に行かなければならない時間になってしまった。
デスクワークだけだったのに、まるではかどらず、
「ここちゃん、後やっとくから、もういいよ。病院行くんでしょ? 病み上がりなんだし、無理しないでね」
天使のまりな先輩が気を遣って仕事を切り上げさせてくれた。
「…佐倉先輩って、何しに会社来てるんですかね。むしろいない方が効率いいんじゃないですか?」
聞こえよがしにつぶやいている香恋ちゃんの声はスルーして、帰り支度を整え、細心の注意を払って会社の前からタクシーに乗った。
お財布が痛いけど、移動はタクシーを使うことにしている。
護身用にスマホは肌身離さず、催涙スプレーも持っているけれど、
緑川さんに出くわすのは怖いし、姿の見えない憎悪も怖い。
社用車の事故については、事前に防犯カメラに細工が施されていることから、通り魔的犯行の可能性は少ないと言われた。
会社に対する嫌がらせの可能性もあるけど、個人的に狙われた可能性もある。
一人歩きにはくれぐれも注意するように警察から言われている。
そんなに恨まれるようなことをしたのかと思うと心が折れそうになる。
けれど。
引きこもっていても始まらないし。
「ここ。来てくれてありがとう」
病院に着くと、退院準備をすっかり終えた千晃くんが、惚れ惚れするような笑顔で待っていてくれた。
いつか、どこかで、何か一つくらいは、人の役に立てるかもしれないし。
「なんか、機嫌悪い?」
チーフのマンションに帰宅するため乗り込んだタクシーの後部座席で、千晃くんが私の頬をツンツンつつく。
「え、お…っ!?」
完璧に整った千晃くんの麗しい顔が至近距離から私を見つめている。
煌めく瞳が夕陽に染まって、美しい指が私に触れているから、
そこはやっぱり息が止まる。
「…悪く、ない、…です」
酸素を求めて顔を後ろにのけぞらせると、
「なんで、こっち見ないの」
その分、千晃くんの顔が近づく。
「ちっ、…‼」
近いからっ、千晃くん。
息できないからっ‼
「…ここ?」
千晃くんが前方に回り込みながらのぞき込んでくるから、逃げ場がない。
なんか、事故後の千晃くんが、懐っこ過ぎる―――っ
強く目をつむったら、千晃くんのひんやりした両手に顔を包まれた。
触れそうなほど近くに、千晃くんの気配がある。
鼻息で、千晃くんの長いまつ毛を吹き飛ばしそうなくらい。
動きを止めて、息を止めて、
産毛の動きもわかるくらい全神経を目の前の千晃くんに集中させていたら、
ふっと、空気の緩む感じがあって、
そっとそーっと、目を開けてみると、
胸が痛くなるくらい優しい顔をした千晃くんが私を見ていた。
病院に行かなければならない時間になってしまった。
デスクワークだけだったのに、まるではかどらず、
「ここちゃん、後やっとくから、もういいよ。病院行くんでしょ? 病み上がりなんだし、無理しないでね」
天使のまりな先輩が気を遣って仕事を切り上げさせてくれた。
「…佐倉先輩って、何しに会社来てるんですかね。むしろいない方が効率いいんじゃないですか?」
聞こえよがしにつぶやいている香恋ちゃんの声はスルーして、帰り支度を整え、細心の注意を払って会社の前からタクシーに乗った。
お財布が痛いけど、移動はタクシーを使うことにしている。
護身用にスマホは肌身離さず、催涙スプレーも持っているけれど、
緑川さんに出くわすのは怖いし、姿の見えない憎悪も怖い。
社用車の事故については、事前に防犯カメラに細工が施されていることから、通り魔的犯行の可能性は少ないと言われた。
会社に対する嫌がらせの可能性もあるけど、個人的に狙われた可能性もある。
一人歩きにはくれぐれも注意するように警察から言われている。
そんなに恨まれるようなことをしたのかと思うと心が折れそうになる。
けれど。
引きこもっていても始まらないし。
「ここ。来てくれてありがとう」
病院に着くと、退院準備をすっかり終えた千晃くんが、惚れ惚れするような笑顔で待っていてくれた。
いつか、どこかで、何か一つくらいは、人の役に立てるかもしれないし。
「なんか、機嫌悪い?」
チーフのマンションに帰宅するため乗り込んだタクシーの後部座席で、千晃くんが私の頬をツンツンつつく。
「え、お…っ!?」
完璧に整った千晃くんの麗しい顔が至近距離から私を見つめている。
煌めく瞳が夕陽に染まって、美しい指が私に触れているから、
そこはやっぱり息が止まる。
「…悪く、ない、…です」
酸素を求めて顔を後ろにのけぞらせると、
「なんで、こっち見ないの」
その分、千晃くんの顔が近づく。
「ちっ、…‼」
近いからっ、千晃くん。
息できないからっ‼
「…ここ?」
千晃くんが前方に回り込みながらのぞき込んでくるから、逃げ場がない。
なんか、事故後の千晃くんが、懐っこ過ぎる―――っ
強く目をつむったら、千晃くんのひんやりした両手に顔を包まれた。
触れそうなほど近くに、千晃くんの気配がある。
鼻息で、千晃くんの長いまつ毛を吹き飛ばしそうなくらい。
動きを止めて、息を止めて、
産毛の動きもわかるくらい全神経を目の前の千晃くんに集中させていたら、
ふっと、空気の緩む感じがあって、
そっとそーっと、目を開けてみると、
胸が痛くなるくらい優しい顔をした千晃くんが私を見ていた。
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