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time.59
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夜も更けて、片付けも終わり、
各自寝ることになったわけですが。
初めて入ったチーフのマンションのもう一つの部屋は、
何も物が置かれていなくて、がらんとしていた。
とりあえず持ってきた自分の荷物を置いても、
スペースが余りまくっている。
貸してもらった布団にくるまって、
持ち物たちと一緒に、こじんまりと端っこで丸くなった。
窓をたたく風の音がする。
静寂に目を凝らすと、漂う月の光さえ見えるような気がする。
隣の部屋にはチーフがいて、リビングには千晃くんがいるのに、
急に一人ぼっちになったみたいに寒々しい。
この部屋は。
私のための部屋じゃない。
チーフは誰も使ったことがないって言っていたけれど、
多分。
チーフの忘れられない彼女が、使うはずだったんだと思う。
アルコールを飲んだのに、目が冴えて、
どうしようもなく寂しさを感じて、
水でも貰ってこようかと、リビングに足を踏み入れた。
暗がりの中、ソファに横になる千晃くんの影が見えた。
千晃くんの呼吸に合わせて、毛布がかすかに上下する。
それを見ていたら、じんわりと安心感が込み上げてきた。
起こさないように気配を消して、そっと、シンクに近づき、
コップに水を注いで飲み干した。
チーフのマンションで千晃くんが寝ている。
今更だけど、現実味がない。
これってどういう状況なんだろう。
記憶喪失の元カレとつかみきれない上司と。
1つ屋根の下。
浮かれるべきか、悩むべきか。
いや。
割り切るべきか。
コップを洗ってからリビングを横切り、
部屋に戻る前、誘惑に抗えずに、
息をひそめて千晃くんの寝顔を眺めた。
あの頃。
1ミリの隙間もないくらい千晃くんにくっついて、
飽きることなく千晃くんの寝顔を見ていた。
何度目を覚ましても千晃くんがそこにいてくれて、
その奇跡に、バカみたいに一人で感動していた。
あの夜が、永遠に続けばいいと思っていた。
だけど。
静かに眠る千晃くんの、美しく整った顔を見ていると、
なんでか涙が出そうになる。
過去を失うということは。
自分を失うことと同じだ。
強くて優しい千晃くんが、健やかに揺るぎなく過ごせますように。
今はただ。
それだけを願ってる。
本当に泣きそうになって、急いで部屋に戻ろうとしたら、
「…眠れないの?」
滑らかな手のひらに腕をつかまれた。
リビングの暗がりで、琥珀色の澄んだ瞳が、
私だけを映して揺れている。
「ご、…めんね、起こして」
言い訳がましく答えながら、
千晃くんの瞳にとらわれる。
早く。部屋に戻った方がいい。
頭の隅に、冷静な自分の声が響く。
「…一緒に」
静かに起き上った千晃くんが、私の顔に手を伸ばして、頬にそっと触れた。
「寝ようか」
千晃くんの甘い声に身体の芯が震えた。
各自寝ることになったわけですが。
初めて入ったチーフのマンションのもう一つの部屋は、
何も物が置かれていなくて、がらんとしていた。
とりあえず持ってきた自分の荷物を置いても、
スペースが余りまくっている。
貸してもらった布団にくるまって、
持ち物たちと一緒に、こじんまりと端っこで丸くなった。
窓をたたく風の音がする。
静寂に目を凝らすと、漂う月の光さえ見えるような気がする。
隣の部屋にはチーフがいて、リビングには千晃くんがいるのに、
急に一人ぼっちになったみたいに寒々しい。
この部屋は。
私のための部屋じゃない。
チーフは誰も使ったことがないって言っていたけれど、
多分。
チーフの忘れられない彼女が、使うはずだったんだと思う。
アルコールを飲んだのに、目が冴えて、
どうしようもなく寂しさを感じて、
水でも貰ってこようかと、リビングに足を踏み入れた。
暗がりの中、ソファに横になる千晃くんの影が見えた。
千晃くんの呼吸に合わせて、毛布がかすかに上下する。
それを見ていたら、じんわりと安心感が込み上げてきた。
起こさないように気配を消して、そっと、シンクに近づき、
コップに水を注いで飲み干した。
チーフのマンションで千晃くんが寝ている。
今更だけど、現実味がない。
これってどういう状況なんだろう。
記憶喪失の元カレとつかみきれない上司と。
1つ屋根の下。
浮かれるべきか、悩むべきか。
いや。
割り切るべきか。
コップを洗ってからリビングを横切り、
部屋に戻る前、誘惑に抗えずに、
息をひそめて千晃くんの寝顔を眺めた。
あの頃。
1ミリの隙間もないくらい千晃くんにくっついて、
飽きることなく千晃くんの寝顔を見ていた。
何度目を覚ましても千晃くんがそこにいてくれて、
その奇跡に、バカみたいに一人で感動していた。
あの夜が、永遠に続けばいいと思っていた。
だけど。
静かに眠る千晃くんの、美しく整った顔を見ていると、
なんでか涙が出そうになる。
過去を失うということは。
自分を失うことと同じだ。
強くて優しい千晃くんが、健やかに揺るぎなく過ごせますように。
今はただ。
それだけを願ってる。
本当に泣きそうになって、急いで部屋に戻ろうとしたら、
「…眠れないの?」
滑らかな手のひらに腕をつかまれた。
リビングの暗がりで、琥珀色の澄んだ瞳が、
私だけを映して揺れている。
「ご、…めんね、起こして」
言い訳がましく答えながら、
千晃くんの瞳にとらわれる。
早く。部屋に戻った方がいい。
頭の隅に、冷静な自分の声が響く。
「…一緒に」
静かに起き上った千晃くんが、私の顔に手を伸ばして、頬にそっと触れた。
「寝ようか」
千晃くんの甘い声に身体の芯が震えた。
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