時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】

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夜も更けて、片付けも終わり、
各自寝ることになったわけですが。

初めて入ったチーフのマンションのもう一つの部屋は、
何も物が置かれていなくて、がらんとしていた。

とりあえず持ってきた自分の荷物を置いても、
スペースが余りまくっている。

貸してもらった布団にくるまって、
持ち物たちと一緒に、こじんまりと端っこで丸くなった。

窓をたたく風の音がする。
静寂に目を凝らすと、漂う月の光さえ見えるような気がする。

隣の部屋にはチーフがいて、リビングには千晃くんがいるのに、
急に一人ぼっちになったみたいに寒々しい。

この部屋は。
私のための部屋じゃない。

チーフは誰も使ったことがないって言っていたけれど、
多分。
チーフの忘れられない彼女が、使うはずだったんだと思う。

アルコールを飲んだのに、目が冴えて、
どうしようもなく寂しさを感じて、
水でも貰ってこようかと、リビングに足を踏み入れた。

暗がりの中、ソファに横になる千晃くんの影が見えた。
千晃くんの呼吸に合わせて、毛布がかすかに上下する。
それを見ていたら、じんわりと安心感が込み上げてきた。

起こさないように気配を消して、そっと、シンクに近づき、
コップに水を注いで飲み干した。

チーフのマンションで千晃くんが寝ている。
今更だけど、現実味がない。

これってどういう状況なんだろう。

記憶喪失の元カレとつかみきれない上司と。
1つ屋根の下。

浮かれるべきか、悩むべきか。

いや。
割り切るべきか。

コップを洗ってからリビングを横切り、
部屋に戻る前、誘惑に抗えずに、
息をひそめて千晃くんの寝顔を眺めた。

あの頃。
1ミリの隙間もないくらい千晃くんにくっついて、
飽きることなく千晃くんの寝顔を見ていた。

何度目を覚ましても千晃くんがそこにいてくれて、
その奇跡に、バカみたいに一人で感動していた。

あの夜が、永遠に続けばいいと思っていた。

だけど。

静かに眠る千晃くんの、美しく整った顔を見ていると、
なんでか涙が出そうになる。

過去を失うということは。
自分を失うことと同じだ。

強くて優しい千晃くんが、健やかに揺るぎなく過ごせますように。

今はただ。
それだけを願ってる。

本当に泣きそうになって、急いで部屋に戻ろうとしたら、

「…眠れないの?」

滑らかな手のひらに腕をつかまれた。

リビングの暗がりで、琥珀色の澄んだ瞳が、
私だけを映して揺れている。

「ご、…めんね、起こして」

言い訳がましく答えながら、
千晃くんの瞳にとらわれる。

早く。部屋に戻った方がいい。
頭の隅に、冷静な自分の声が響く。

「…一緒に」

静かに起き上った千晃くんが、私の顔に手を伸ばして、頬にそっと触れた。

「寝ようか」

千晃くんの甘い声に身体の芯が震えた。
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