70 / 106
time.69
しおりを挟む
「じゃあ、また後でね」
会社に戻り、エレベータで千晃くんと別れて、3階フロアに降り立った。
帰りは迎えに行くから、絶対に知らせるようにと千晃くんに念を押された。
千晃くんが甘やかしてくれたおかげで、
緑川さんから逃れて数時間しか経っていないけれど、会社に戻っても落ち着いていられた。
千晃くんの温もりが残る手を握りしめてホールを横切り、通路を歩く。
とりあえず。
チーフに会えたらお礼を言いたい。
と思いながら歩いていたせいか、
非常階段に続く通路の曲がり角に、モノクロスーツの影を見つけた。
なぜか緊張して、呼吸を整え、姿勢を正してから近づく。
高野チーフの後姿を確認して、声をかけようと足を速めると、話し声が聞こえた。
他にも人がいることに気づいて、急ブレーキをかける。
…出直そう。
踵を返して、通路を戻りかけた時、
「…俺が佐倉に本気になると思うか?」
まぎれもなく高野チーフの、低く艶やかな声が耳に届いて心臓が止まる。
え、…
今。なんて、…
一瞬の後。
今度は狂ったように早鐘を打ち始めた鼓動の音が、頭にこだまして、
「…ホント、悪い男ですね」
甘えるように続けられた声が、誰のものかよく分からなかった。
けれど。
すごく身近にいる人の声に似ていた。
天使で、オシャレで、気が利いて、
優しくて、大人で、仕事もできて。
大好きな。
足音を立てないように細心の注意を払って通路を引き返し、
心を落ち着けるために女子トイレに駆け込んだ。
胸をえぐられるような痛みってこういうのかもしれない。
胸に手を当てて深呼吸を繰り返す。
そう言えば。
来週の30周年記念パーティー。
チーフはまりな先輩をエスコートするんだっけ。
ぼんやりと頭が余計なことを思い出した。
どうしてか、理由は聞いていないし、聞く権利もないけれど、
理由なんて一つしかないような気がする。
『いいじゃない、高野チーフ。仕事は出来るし、面倒見いいし、大人で優しくてかっこよくて、社内人気NO.1の究極イケメン、…』
思えば、最初からまりな先輩はチーフ推しだった。
『高野チーフは社内人気NO.1だけど、会社の子には手を出さない』
チーフ事情もよく知っていた。
そっか。そうかあ、…
まりな先輩なら、チーフにもふさわしい。
迷惑かけてばかりで、2歳児より手がかかる私とは違って。
「…そう、だよね」
これだから、モテないオンナは困る。
慣れてないから、優しくされたらすぐにその気になってしまう。
全然違うのに。
ただの同情と親切心なのに。
『俺は、お前の強さが、…』
分かってるのに。
ちゃんと理解しているのに。
『お前を守りたい』
泣くことなんて何にもないのに。
『何があっても、お前の味方でいてやる』
…嘘つき。
会社に戻り、エレベータで千晃くんと別れて、3階フロアに降り立った。
帰りは迎えに行くから、絶対に知らせるようにと千晃くんに念を押された。
千晃くんが甘やかしてくれたおかげで、
緑川さんから逃れて数時間しか経っていないけれど、会社に戻っても落ち着いていられた。
千晃くんの温もりが残る手を握りしめてホールを横切り、通路を歩く。
とりあえず。
チーフに会えたらお礼を言いたい。
と思いながら歩いていたせいか、
非常階段に続く通路の曲がり角に、モノクロスーツの影を見つけた。
なぜか緊張して、呼吸を整え、姿勢を正してから近づく。
高野チーフの後姿を確認して、声をかけようと足を速めると、話し声が聞こえた。
他にも人がいることに気づいて、急ブレーキをかける。
…出直そう。
踵を返して、通路を戻りかけた時、
「…俺が佐倉に本気になると思うか?」
まぎれもなく高野チーフの、低く艶やかな声が耳に届いて心臓が止まる。
え、…
今。なんて、…
一瞬の後。
今度は狂ったように早鐘を打ち始めた鼓動の音が、頭にこだまして、
「…ホント、悪い男ですね」
甘えるように続けられた声が、誰のものかよく分からなかった。
けれど。
すごく身近にいる人の声に似ていた。
天使で、オシャレで、気が利いて、
優しくて、大人で、仕事もできて。
大好きな。
足音を立てないように細心の注意を払って通路を引き返し、
心を落ち着けるために女子トイレに駆け込んだ。
胸をえぐられるような痛みってこういうのかもしれない。
胸に手を当てて深呼吸を繰り返す。
そう言えば。
来週の30周年記念パーティー。
チーフはまりな先輩をエスコートするんだっけ。
ぼんやりと頭が余計なことを思い出した。
どうしてか、理由は聞いていないし、聞く権利もないけれど、
理由なんて一つしかないような気がする。
『いいじゃない、高野チーフ。仕事は出来るし、面倒見いいし、大人で優しくてかっこよくて、社内人気NO.1の究極イケメン、…』
思えば、最初からまりな先輩はチーフ推しだった。
『高野チーフは社内人気NO.1だけど、会社の子には手を出さない』
チーフ事情もよく知っていた。
そっか。そうかあ、…
まりな先輩なら、チーフにもふさわしい。
迷惑かけてばかりで、2歳児より手がかかる私とは違って。
「…そう、だよね」
これだから、モテないオンナは困る。
慣れてないから、優しくされたらすぐにその気になってしまう。
全然違うのに。
ただの同情と親切心なのに。
『俺は、お前の強さが、…』
分かってるのに。
ちゃんと理解しているのに。
『お前を守りたい』
泣くことなんて何にもないのに。
『何があっても、お前の味方でいてやる』
…嘘つき。
0
あなたにおすすめの小説
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
幽霊夫人の心残り~夫の専属侍女に憑依して、娘の恋を応援します~
完菜
恋愛
伯爵夫人のフランシールは、気が付いたら実体のない体で空中に浮いていた。さっきまで、段々と呼吸が浅くなって自分の体温が下がるのを感じながら、泣きじゃくる娘の顔を見ていたのに……。娘の顔がぼんやりとしだして、ああもう見えない……そう思ったら魂だけの存在になっていた。神様の使いだと言う男性に連れられて、天界へ足を踏み入れる。そこで見たのは、夫の愛人から虐げられたフランシールの娘の姿だった。フランシールは、今まで味わったことがない憤りを覚える。このまま、生まれ変わることなんてできない。もう一度、現世に戻して欲しいと神様に訴えた。神様は、生まれ変わることと引き換えに、三カ月間だけ誰かに憑依することで時間をくれる。彼女は、決意する。自分の大切な唯一の宝である娘を、幸せへと導くのだと。娘を幸せにするための計画が、今始まる――――。
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる