時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】

remo

文字の大きさ
104 / 106

If someday the future will come, … ①

しおりを挟む
竹取物語の翁は、かぐや姫が月に帰る時、ひどく嘆き、泣き、
何が何でも引き留めようとしたという。

でも、天人にはまるで歯が立たず、天の衣を着せられた姫は、
すべてを忘れて月に帰っていったという。

「…ん」

ベッドの中で柔らかな寝息を立てながら、ここが身じろぐ。
寒くなったのかと、掛け布団をその肩までかけて、そっと髪を撫でた。

吸いつくようなきめ細やかな肌。柔らかい髪。
安心したように瞼を閉じて、時々まつげを揺らしながら、
ぷっくり膨らんだ唇をかすかに開けて眠る。

…ここ。

『極悪パンダ‼』

キャンキャン吠える威勢のいい姿を思い出して、頬が緩む。

その生意気な唇に何度キスしただろう。
溶けそうに柔い肌を何度抱きしめただろう。

4月に俺の下に配属された佐倉ここは、
要領が悪くて不器用で、ミスを多発させるから目が離せず、
最初はめんどくさい奴が来たもんだ、と思っていた。

なのに。

お人好しで一生懸命で、
簡単に誰かの術中にはまって泣くくせに、
しなやかで折れない強さを持っていて、

気が付いたら。

守りたい。
俺の手で。

俺の腕の中で。
こいつを傷つけるすべてのものから。

他の誰にも感じたことのない強烈な思いが沸き上がってきて、
手を伸ばしてしまった。

月から迎えが来たら、あっさり帰ってしまうというのに。

あいつの元に。

窓から月明かりが差し込む。
世界はこの小さなベッドだけ。
2人きり取り残されたような静寂に、夜が降り積もる。

『常盤千晃です。経営顧問をしています』

CEOがその才能を見込んで、特別待遇で連れてきたアドバイザーは、
まだ二十歳そこそこの若さで、恐ろしく見目が良く、
鮮やかな立ち振る舞いで、会う人の心を瞬時につかんだ。

CEOの娘と婚約しているとかいないとか。

第一印象。嫌味な奴。

欲しいものは何でも持っていて、
何一つ苦労なんてしたことがなさそうな顔で、

ここを、泣かせる。

でも。奴は。

『俺は、また、…忘れてしまうから』

一番大切なものを手放さなければいけない、
残酷な運命を背負わされていた。

「チ、…?」

ここが寝ぼけ眼で俺を探す。
涙に潤んだ瞳は、俺の向こうにあいつを探している。
呼びたいのは「チーフ」じゃなくて「チアキ」だ。

「…どうした?」

何も身にまとっていないここの素肌を引き寄せる。
滑らかに濡れて。温かく潤って。柔らかく色づく。

それでも。離せない。
一時でも。今だけだとしても。

ここが甘えるように俺にすり寄ってくる。
全部。俺に溶けてしまえばいい。

唇を塞いで舌を差し入れてここを絡めとって誘う。
ここの奥深くまで入り込んで自分を刻む。

今だけでも俺に溶けて。俺だけでいっぱいにして。
悲しみも切なさも苦しみも憂いも置いて。
ただ。快感だけを追い求めて。
一緒に。心地よさだけに溺れて。

1ミリの隙間もないくらい張り付いて。
感じて震えて泣いて、昇りつめて恍惚にとろけて
全てを俺にゆだねて、どこまでも甘く俺を受け入れて
俺の腕の中で眠っているのに。

目を離したら、触れている手を離したら、
消えてなくなりそうな気がする。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

幽霊夫人の心残り~夫の専属侍女に憑依して、娘の恋を応援します~

完菜
恋愛
伯爵夫人のフランシールは、気が付いたら実体のない体で空中に浮いていた。さっきまで、段々と呼吸が浅くなって自分の体温が下がるのを感じながら、泣きじゃくる娘の顔を見ていたのに……。娘の顔がぼんやりとしだして、ああもう見えない……そう思ったら魂だけの存在になっていた。神様の使いだと言う男性に連れられて、天界へ足を踏み入れる。そこで見たのは、夫の愛人から虐げられたフランシールの娘の姿だった。フランシールは、今まで味わったことがない憤りを覚える。このまま、生まれ変わることなんてできない。もう一度、現世に戻して欲しいと神様に訴えた。神様は、生まれ変わることと引き換えに、三カ月間だけ誰かに憑依することで時間をくれる。彼女は、決意する。自分の大切な唯一の宝である娘を、幸せへと導くのだと。娘を幸せにするための計画が、今始まる――――。

俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛

ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。 そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う これが桂木廉也との出会いである。 廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。 みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。 以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。 二人の恋の行方は……

睡蓮

樫野 珠代
恋愛
入社して3か月、いきなり異動を命じられたなぎさ。 そこにいたのは、出来れば会いたくなかった、会うなんて二度とないはずだった人。 どうしてこんな形の再会なの?

処理中です...