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blue.6
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「…イズミくん」
淡雪のような儚くて優しい声がした。
弾かれたように和泉さんが私から離れる。
「所長が、急用だって」
「今、行く」
和泉さんの温もりが消えて、大きな背中が涙の向こうでにじむ。
「あおく、…」
「のい」
振り向かないまま、和泉さんの背中が拒絶する。
「もう、呼ぶな」
行き場を失くした涙がとめどなく溢れた。
休憩所の先で和泉さんの傍らに小柄な女の人が寄り添い、振り返って私に会釈した。
並んで遠ざかる二人の姿がものすごく自然に溶け込んで見えて、背中に流れる女の人のきれいな髪がいつまでも目の端で揺れていた。
あおくん。
会いたくて。会いたくて。
やっと会えたのに。
一瞬だけ。
一瞬だけなんてひどいよ。
「ブス」
「右に同じ」
「ブース」
「左に同じ」
同期のミオちゃんとサリちゃんは手厳しい。
お昼休みに私の顔を見るなり、ブスブス繰り返す。
それでも、社食に行けないと泣いた私に購買でのり弁を買ってきてくれたんだけど。
「まあ初恋なんて、掘り起こさない方がいいんだよ」
「そうそう。幼稚園時代の私の王子は小学校でハナクソ食べてて百年の恋も醒めたね」
ううー、ミオちゃんの捨て身の体験談が傷心に沁みる。
「もうお昼休み終わるから、早くお弁当食べちゃいな」
「あんたんとこの主任の怒声、うちのフロアまで聞こえてきたよ」
ミオちゃん、サリちゃん、ありがとう。
涙と一緒にのり弁を飲み込む。
そうだ。私の唯一の特技は早食い。
朝ごはん、ちゃんと食べてこなかったからお腹は空いている。
初恋の人との再会がばっさり終わっても、お腹は空いている。
「この資料まとめるまで帰っちゃダメだからね!」
橙子さんが資料を私のデスクに積み上げた。
勝手に取材先に戻り、しばらく帰ってこなかったからってそうそう怒ったりしない。
「明日朝イチでチェックするから。出来てなかったら殺す」
…多分。
友情でお腹を満たしてから参戦した午後の仕事は、拒絶されたばかりの初恋の人を記事にまとめることだった。
淡雪のような儚くて優しい声がした。
弾かれたように和泉さんが私から離れる。
「所長が、急用だって」
「今、行く」
和泉さんの温もりが消えて、大きな背中が涙の向こうでにじむ。
「あおく、…」
「のい」
振り向かないまま、和泉さんの背中が拒絶する。
「もう、呼ぶな」
行き場を失くした涙がとめどなく溢れた。
休憩所の先で和泉さんの傍らに小柄な女の人が寄り添い、振り返って私に会釈した。
並んで遠ざかる二人の姿がものすごく自然に溶け込んで見えて、背中に流れる女の人のきれいな髪がいつまでも目の端で揺れていた。
あおくん。
会いたくて。会いたくて。
やっと会えたのに。
一瞬だけ。
一瞬だけなんてひどいよ。
「ブス」
「右に同じ」
「ブース」
「左に同じ」
同期のミオちゃんとサリちゃんは手厳しい。
お昼休みに私の顔を見るなり、ブスブス繰り返す。
それでも、社食に行けないと泣いた私に購買でのり弁を買ってきてくれたんだけど。
「まあ初恋なんて、掘り起こさない方がいいんだよ」
「そうそう。幼稚園時代の私の王子は小学校でハナクソ食べてて百年の恋も醒めたね」
ううー、ミオちゃんの捨て身の体験談が傷心に沁みる。
「もうお昼休み終わるから、早くお弁当食べちゃいな」
「あんたんとこの主任の怒声、うちのフロアまで聞こえてきたよ」
ミオちゃん、サリちゃん、ありがとう。
涙と一緒にのり弁を飲み込む。
そうだ。私の唯一の特技は早食い。
朝ごはん、ちゃんと食べてこなかったからお腹は空いている。
初恋の人との再会がばっさり終わっても、お腹は空いている。
「この資料まとめるまで帰っちゃダメだからね!」
橙子さんが資料を私のデスクに積み上げた。
勝手に取材先に戻り、しばらく帰ってこなかったからってそうそう怒ったりしない。
「明日朝イチでチェックするから。出来てなかったら殺す」
…多分。
友情でお腹を満たしてから参戦した午後の仕事は、拒絶されたばかりの初恋の人を記事にまとめることだった。
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