6 / 124
blue.5
しおりを挟む
「すみません、橙子さん。先に行ってて下さい」
和泉さんの技術パフォーマンスが終わり、質疑応答や写真撮影が終わり、マスコミ関係者と共に研究室を後にしてから、やっぱりどうしても確かめたくて研究室に引き返した。
「ちょ、本宮―――っ!?」
わかってます。すぐ戻ります。
今はともかくあおくんなんです。
「わっすれものしました―――!」
和泉さんの研究室に突撃すると、
「うわあ」
助手の人を必要以上に驚かせたらしく、彼が手にしていた書類やらファイルやらディスクやらを派手にまき散らした。
「あ、すみま、…」
「触るなっ!!」
拾うのを手伝おうと手を伸ばすと、ものすごい勢いで阻止された。
こっちを見る視線に憎悪の念を感じる。
そんなに怒らなくてもいいじゃんよ…
「すみましぇん…」
すごすごと引き下がり、奥をのぞき込むと物音を聞きつけたらしい和泉さんがこっちに向かって歩いてくるところだった。
「あ、あ、…あのっ」
視線を逸らせない。
バカみたいに棒立ちになって和泉さんを見つめる。
「私っ、…私、本宮のいです!」
もう口が止まらない。
研究室の皆さんが振り返るほどのバカでかい音量で、まるで求められていないのに単身名乗りを上げてしまった。
「ちょっと失礼します」
和泉さんが苦笑して、私の頭に優しく手を置くと、そのまま私を研究室から連れ出した。
和泉さんの片腕に頭を包まれる。
懐かしい匂いがする。
小さいころ夢見た心躍るスイーツのような。
甘くてふわふわなシフォンケーキみたいな。
え。浮かれてる?
和泉さんは私を通路のコーナーにある休憩所まで連れていくと、私に向かい合って眼鏡を外し、視線を合わせた。
「のい。大きくなったな」
和泉さんの低い艶やかな声が私を包むと、涙腺が壊れて一気に涙が溢れた。
「あおくん…」
やっぱりあおくんだ。
私の。大好きな。大好きな。
和泉さんは一瞬その瞳をかげらせ、ちょっと寂しそうに微笑んだ。
「…のい」
和泉さんの大きくて逞しい腕が私を引き寄せ、その胸の中に優しく包み込む。
甘い懐かしい匂いがする。
和泉さんは息もできないくらい強く私を抱きしめた後、何かを断ち切るように腕の力を緩め、
「…俺に近づくな」
静かに、でも確かに私を突き放した。
「あおくん?」
顔を上げると、和泉さんの漆黒の瞳が憂いを含んで揺れていた。
なんで。
ふわふわのシフォンケーキと
さくさくのメレンゲが一瞬にして泡と溶けた。
残ったのは暗く果てしなく広がる夜の海だけ。
和泉さんの技術パフォーマンスが終わり、質疑応答や写真撮影が終わり、マスコミ関係者と共に研究室を後にしてから、やっぱりどうしても確かめたくて研究室に引き返した。
「ちょ、本宮―――っ!?」
わかってます。すぐ戻ります。
今はともかくあおくんなんです。
「わっすれものしました―――!」
和泉さんの研究室に突撃すると、
「うわあ」
助手の人を必要以上に驚かせたらしく、彼が手にしていた書類やらファイルやらディスクやらを派手にまき散らした。
「あ、すみま、…」
「触るなっ!!」
拾うのを手伝おうと手を伸ばすと、ものすごい勢いで阻止された。
こっちを見る視線に憎悪の念を感じる。
そんなに怒らなくてもいいじゃんよ…
「すみましぇん…」
すごすごと引き下がり、奥をのぞき込むと物音を聞きつけたらしい和泉さんがこっちに向かって歩いてくるところだった。
「あ、あ、…あのっ」
視線を逸らせない。
バカみたいに棒立ちになって和泉さんを見つめる。
「私っ、…私、本宮のいです!」
もう口が止まらない。
研究室の皆さんが振り返るほどのバカでかい音量で、まるで求められていないのに単身名乗りを上げてしまった。
「ちょっと失礼します」
和泉さんが苦笑して、私の頭に優しく手を置くと、そのまま私を研究室から連れ出した。
和泉さんの片腕に頭を包まれる。
懐かしい匂いがする。
小さいころ夢見た心躍るスイーツのような。
甘くてふわふわなシフォンケーキみたいな。
え。浮かれてる?
和泉さんは私を通路のコーナーにある休憩所まで連れていくと、私に向かい合って眼鏡を外し、視線を合わせた。
「のい。大きくなったな」
和泉さんの低い艶やかな声が私を包むと、涙腺が壊れて一気に涙が溢れた。
「あおくん…」
やっぱりあおくんだ。
私の。大好きな。大好きな。
和泉さんは一瞬その瞳をかげらせ、ちょっと寂しそうに微笑んだ。
「…のい」
和泉さんの大きくて逞しい腕が私を引き寄せ、その胸の中に優しく包み込む。
甘い懐かしい匂いがする。
和泉さんは息もできないくらい強く私を抱きしめた後、何かを断ち切るように腕の力を緩め、
「…俺に近づくな」
静かに、でも確かに私を突き放した。
「あおくん?」
顔を上げると、和泉さんの漆黒の瞳が憂いを含んで揺れていた。
なんで。
ふわふわのシフォンケーキと
さくさくのメレンゲが一瞬にして泡と溶けた。
残ったのは暗く果てしなく広がる夜の海だけ。
0
あなたにおすすめの小説
時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】
remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。
佐倉ここ。
玩具メーカーで働く24歳のOL。
鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。
完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。
【完結】ありがとうございました‼
好きな人の好きな人
ぽぽ
恋愛
"私には何年も思い続ける初恋相手がいる。"
初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。
恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。
そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。
皇宮女官小蘭(シャオラン)は溺愛され過ぎて頭を抱えているようです!?
akechi
恋愛
建国して三百年の歴史がある陽蘭(ヤンラン)国。
今年16歳になる小蘭(シャオラン)はとある目的の為、皇宮の女官になる事を決めた。
家族に置き手紙を残して、いざ魑魅魍魎の世界へ足を踏み入れた。
だが、この小蘭という少女には信じられない秘密が隠されていた!?
さんかく片想い ―彼に抱かれるために、抱かれた相手が忘れられない。三角形の恋の行方は?【完結】
remo
恋愛
「めちゃくちゃにして」
雨宮つぼみ(20)は、長年の片想いに決着をつけるため、小湊 創(27)に最後の告白。抱いてほしいと望むも、「初めてはもらえない」と断られてしまう。初めてをなくすため、つぼみは養子の弟・雨宮ななせ(20)と関係を持つが、―――…
【番外編】追加しました。
⁂完結後は『さんかく両想い』に続く予定です。
私が素直になったとき……君の甘過ぎる溺愛が止まらない
朝陽七彩
恋愛
十五年ぶりに君に再開して。
止まっていた時が。
再び、動き出す―――。
*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*
衣川遥稀(いがわ はるき)
好きな人に素直になることができない
松尾聖志(まつお さとし)
イケメンで人気者
*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*
年下男子に追いかけられて極甘求婚されています
あさの紅茶
恋愛
◆結婚破棄され憂さ晴らしのために京都一人旅へ出かけた大野なぎさ(25)
「どいつもこいつもイチャイチャしやがって!ムカつくわー!お前ら全員幸せになりやがれ!」
◆年下幼なじみで今は京都の大学にいる富田潤(20)
「京都案内しようか?今どこ?」
再会した幼なじみである潤は実は子どもの頃からなぎさのことが好きで、このチャンスを逃すまいと猛アプローチをかける。
「俺はもう子供じゃない。俺についてきて、なぎ」
「そんなこと言って、後悔しても知らないよ?」
溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる