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blue.11

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何しろ奏くんは学校中の憧れ。
それが薄汚い女をステージに上げちゃったんで、もう視線が痛い痛い。

奏くんの彼女には泣かれるわ、女子の集団には囲まれるわ、
上履きはなくなるわ、プリントは回ってこないわ、…

まあそんなことも奏くんのただの気まぐれだって判明したら、
捨てられた玩具みたいに誰の関心ももらえなくなったわけだけど。

いや、だから。

ちらりと前に座る奏くんをのぞき見る。

罪のない顔でメニューを見ながら、「豆腐サラダもつけるか」とか何とかつぶやいている。

それを見ていたらなんか迫りくるものがあって、

「私、醤油ラーメン! 卵と海苔プラスで!」

出汁の香りが漂ってやたらと食欲が刺激される空間で声を張り上げた。

奏くんはちょっとあっけにとられたように瞬きをしてから声をあげて笑うと、店員さんを呼んでくれた。

いや、だからね。
同級生に再会して、ご飯食べに来ただけだから。
それ以上でも以下でもないから。

勘違いするな、みんな。
勘違いするな、私。

「それでね、私のあおくんはすごい人だったんだよ!」

ラーメン、美味し過ぎました。

今日は長い一日だったし、初恋は無残に散ったし、なんかいろいろ大変だった気がするけど、
温かくてあっさりしたスープとつるんとした喉ごしの麺と味の染みた卵とパリパリの海苔が私を癒してくれた。
私史上最高に美味しいラーメンだった。

それでついついお酒も進み、話も弾み、テンションが上がって楽しくなってしまった。
断じて奏くんが一緒だからではない。

「…あおくん、ね」

「優秀な大学出て賞とかもいっぱい取って。でも私は知ってたよ。子どもの頃からあおくんは天才だった」

力説して握りこぶしでテーブルをドンと叩いてしまった。

「…あおくん、な」

前に座る奏くんの顔がゆらゆら揺れている。
今日は長い一日だったし、初恋は無残に散ったし、なんかいろいろ大変だった気がするけど、
ラーメンが美味しかったからオールオッケー。
 
「お前ホント、俺に1ミリも興味ないな」

なんかつぶやいてる奏くんの身体も揺れている。
いや違う。私が揺れているのかも。
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