Blue Bird ―初恋の人に再会したのに奔放な同級生が甘すぎるっ‼【完結】

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「…でも証明する手立てがない。あんたが研究室に戻ったのは事実だし、新聞社の彼は知り合いみたいだし」

橙子さんが焦れたようにヒールで床を踏み鳴らした。

「…私はともかく、奏くんはそんなことしませんよ」

言ってから、なぜだか急に自信がなくなった。

あれ。じゃあなんで、奏くんは私を連れだした?

同級生だから? 久しぶりの再会だから?
別に取り立てて仲が良かったわけでもないのに?

『同級生に再会して、ご飯食べに来ただけだから。
それ以上でも以下でもないから。』

じゃあなんで、あんなに優しかった?

「…個人情報見られてないよね?」

奏くんの長い指が器用に私のスマートフォンを操作する。
『俺の連絡先入れとくから』

通勤バッグをひっくり返してスマホを取り出し、連絡先のアイコンを開く。
青井奏。 どこ? どこに?

スクロールする指が震えた。

「…橙子さん」

上司を呼んだ声は、自分のものじゃないみたいに頼りなかった。

「技術研究所まで走るよ!」

橙子さんは表情だけで全てを察したらしく、私の背中を叩いて先に走り出した。

その後を必死で追いかけながら、腫れが引いてもう全然痛まないはずの足首がズキズキした。

滑らかな手で優しい指先で湿布を貼ってくれて。
最高に美味しいラーメンを食べて手を繋いで歌った。
簡単に部屋に入れるなって怒ってドアを押さえた。

奏くん。全部嘘なの?

足首が痛くて息が切れて心の奥が血を流して悲鳴を上げた。

無邪気な笑顔も明るい笑い声も
澄んだ強い瞳も心に響く言葉も
ジャングルジムも半分このアイスも

全部嘘なの?

歯を食いしばって和泉さんの研究室に駆け込んだ。

「大変申し訳ございませんでした」

騒然としている研究室で橙子さんと並んで土下座した。
尊敬する先輩上司にそんなことをさせてしまった自分がふがいなくて情けなくて悔しかった。

「事情は分かった。頭を上げろ」

頭の上から、和泉さんの冷静な声が響く。

「問題ない。来月までにもう一段階進めばいい」

研究室内にざわめきが広がった。和泉さんは何でもないことのように繰り返した。

「コミネより数段上の技術映像を用意して発表する。俺はそれに掛かり切るから後のことは頼む」

「はい」

ざわめきの中で、未来に光が差し、研究室内に団結が生まれたのを感じた。
疑惑と憤まんに満ちていた空間が、和泉さんの一言で一気にまとまり、各々が使命感を持って動き始めた。

「本宮のい」
「はいっ」

和泉さんに呼ばれて慌てて背筋を伸ばして立ち上がった。
長身の和泉さんが私を見下ろす。

「助手が休んでる。代わりに俺を手伝え」

眼鏡の奥から細めた瞳が私を見つめて、大きな手が頭の上に置かれた。

「…はい」

それは、裏切り者の私に差し伸べられた救いの手だった。
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