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blue.21

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夢?

和泉さんが出て行って閉じられたドアを見つめる。

それって、どういう、…

考えあぐねていると、通勤バッグの隣に放置したままのスマートフォンが着信音を鳴らしながら振動した。

「わっ、…」

いろいろ心臓に悪いと思いながら、腰をいたわり、這いつくばってスマホに手を伸ばす。

そういえば、電話鳴ってたって言ってたな。

画面を見ると、

『calling " 俺 ”』

は?
な、…なにこれ。誰―――――っ!?

鳴りやまないスマホに恐る恐る指を近づけて画面をタップする。
名乗らないまま息を止めて耳に当てると、

「…誰だよ?」

なんだか若干不機嫌な声が聞こえた。

っつーか、お前が誰だよ―――――っ!!

全力で突っ込みながら。
でも、この声。胸の奥がぎゅっとする。
一度聴いたら忘れられない、甘く沁みる声。

こんな声、一人しか知らない。

「…か、なで、くん?」

恐る恐る問いかけると、盛大なため息が聞こえた。

「誰だよ? さっき電話出たの」
「え、…」

状況から考えると。多分。

「和泉さん…?」

だよねぇ。

「和泉…」

電話の向こうで奏くんがちょっと黙ってから、やっぱり不機嫌な声で続けた。

「なんでこんな朝早くからアイツと一緒なんだよ?」
「それは、…」

考えてみよう。なんでこんなことになっているのか。
そう。それは全部。

「奏くんのせいじゃん!!」
「…は?」
 
奏くんの声を聞いたら張りつめていた糸が切れた。
昨日の朝から一連の、
悔しくて悲しくて情けなくて、怖くて痛くてびっくりしたことを
洗いざらいぶちまけた。

なんかいろいろよみがえって、また泣き声になってしまった私を、

「お前、バッカじゃねえの!?」

奏くんの美声が容赦なく打ちのめした。

その声で罵倒しないで欲しい。
なんか心臓が混乱する。

「お前、…バカだバカだと思ってたけど、ホントバカだな!」

な、な、…

「何よ―っ、バカバカって、奏くんが優しすぎるのがいけないんじゃん!」

言い返したら、奏くんがちょっと黙った。

大体、「俺」って誰だよ。
そりゃ確かに『俺の連絡先入れとく』って言ったけど。言ったけども。

そんなのわかるか―――――っ

「別に、普通だろ」

なんか拗ねたように奏くんがつぶやいた。

「…お前には、ずっと優しくしてただろ?」

…まあ。
奏くんは、さりげなくて、何気なくて、淡々としてて。
気まぐれにみんなに優しかった。

「俺、今、ロンドンだから」
「えっ、…!」

これ海外からかけてんのか。
そういえば、奏くんはロンドン新聞に勤務してるんだっけ。
確か、奏くんて、帰国子女だったような気もする。

「帰ったら行くから、ちゃんと待ってろよ」
「…うん」

ん?

「でもさ、奏くんじゃないなら、誰が情報流出させたんだろう」

ふと気づいた疑問が口を突いて出た。

「知るか。その休んでるっていう助手が出てこなきゃそいつじゃねえの、バーカ」

最終的にバカ決定されて、唐突に国際電話が切れた。
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