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blue.35

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動悸が激しくなった。
無意識に息を止めていた。

記事の同じ個所を何度も目で往復し、その名前から離れられなくなった。

『上映中の事故で一時意識不明の重体となっていた都内在住の高梨璃乙くん(6)』

え、…? 璃乙くん?

ちょっと待って。これってどういうこと。

『ブルーレインさえなければ』

木下さんの声がよみがえる。

『和泉碧は、高梨麻雪しか選べませんよ」
『…聖女にも裏の顔があるんです』

落ち着け、落ち着け。
自分に言い聞かせながら、以前読んだ資料の中にあった和泉さんの経歴を思い出していた。

『同年(株)ウィンエンターテイメント入社。20××年 東島建設(株)に移籍。』

「ブルーレイン」を開発したウィンエンターテイメントは、
和泉さんが以前勤めていた会社だ。

事故当時、和泉さんは加害者側の会社社員。
麻雪さんは、事故で最も深刻な被害を受けた子どもの母親。

それって、どういうことだろう。

事故をきっかけに知り合って恋に落ちた?
もっと前から関係があって、だから観に来ていた?

それとも。

『…俺のせいだ』

どくどくと心臓が脈打つ音が頭の中に反響する。

「贖罪」の二文字が浮かんで、慌てて頭を振って打ち消した。



「ブス」
「右に同じ」

「ブース」
「左に同じ」

なにこれ。既視感(デジャブ)?

結局一睡もできずに出社した私は、社食で会うなりミオちゃんとサリちゃんにブスブス繰り返された。

まあ寝てないからな。ちょっと目がまともに開いてないよね。
ブスに拍車がかかった自覚はあるよね。

「…あのさ、お詫びとして付き合うとか、結婚するとかってあるかな?」

まあブスは置いておいて。
昨夜からぐるぐるしている疑問を口に出すと、

「は?」
「お詫び?」

ミオちゃんとサリちゃんにアホザル何言いだしたって顔で見られた。
自分でもそう思う。

「や、…何でもない」

だいたい、キスしてたよ、キス。
研究室の皆さんも理想的な恋人同士って言ってた。
麻雪さんは絶対和泉さんが好きだし。
和泉さんは、…

『俺は、…ダメだな』

憂いを含んで揺れる瞳。寂し気な笑顔。

「…あるかもよ」

ミオちゃんがぽつりとつぶやいた。

「謝罪って分かりやすいのがお金だけど、要は気持ちだし」
「…まあね」

サリちゃんも同意した。

「時間とか財産とか労力とか。相手のために自分の何を差し出せるか、ってことだよね」

胸の奥がヒリヒリする。

『間違えたわけじゃない。…夢だと思ったんだ』

和泉さんは、麻雪さんに、…心を差し出したの?
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