Blue Bird ―初恋の人に再会したのに奔放な同級生が甘すぎるっ‼【完結】

remo

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お手洗いに席を立って戻ろうとしたら、通路に片瀬秋くんが立っていた。

壁にもたれかかって、長い脚をこれ見よがしに斜めに伸ばしている。

「あ、…どうも」

会釈して通り過ぎようとすると、

「あんたに奏くんはもったいない」

可愛らしい見た目に似合わない低い声で、いきなり挑むように告げられた。

「奏くんが構ってくれるからっていい気になるなよ」

秋くんのクセのある前髪の下で光る瞳が鋭い。

な、…なんだと、この見せかけチワワ!

サルの本能で受けて立つと、

「奏くんは優しいけど、誰にも本気にならない。…忘れられない人がいるから」

秋くんはちょっと切なそうに目を伏せた。

…忘れられない人。

秋くんの言葉は静かな湖面に投げ込まれた小石みたいに、知らず知らず私の心を波立たせた。

返す言葉が見つからずに大型チワワを見上げると、

「言っとくけど、俺、奏くんと一緒に住んでるから」

急に上から目線で勝ち誇られた。

え。…え?

ちょっと待って。それってつまり。
え?  秋くんて、もしかして、…

「じゃあね、コザル」

黙ったままの私を初対面からサル認定して鼻で笑うと、秋くんが踵を返した。

え。秋くんて、奏くんのこと、…

立ち尽くして秋くんの背中を眺めていたら、急にひらめくものがあった。

『別に。アキしか乗せないし』

「あ―――っ、アキ!!」

奏くんがバイクに乗せてる彼女じゃん! いや、彼女じゃなくて、…

つい大声を出してしまうと、立ち去りかけていた秋くんが嫌な顔をして振り向いた。

「呼び捨てかよ」

そうか、アキか。
奏くんの彼女。じゃなくて彼氏?

え、奏くん、彼女どころか彼氏まで!?
…イケメン、恐るべし。



「お前さぁ、秋に何か言われた?」

まったり飲んでいっぱいしゃべって、とりあえず合コンはお開きになった。
武邑さんがミオちゃんを、秋くんがサリちゃんを送って行き、
男子も釣れちゃう奏くんが私をマンションまで送ってくれた。

「いや、…あの、ご一緒に暮らしてらっしゃる、とか」
「…ああ。いとこだからな」

奏くんの返答はそっけない。

…秋くん。ドンマイ。

「アイツ、いつも俺の後付いてきて、…ちょっと似てたな」

昔を懐かしむように遠くを見やった奏くんの横顔は優しい。
奏くんのそのきれいな瞳には、誰が映っているんだろう。

「あと、…」

忘れられない人、がいるんだってね。

さりげなく口にしようとした言葉は、喉の奥で絡まって厄介な魚の骨みたいに胸の奥をチクチク刺した。

「なんだよ?」

マンション前の静かな道路で、街灯に奏くんの影が浮かぶ。
街路樹を揺らす夜風が、酔って火照った顔に心地良い。

「…なんでもない」

続けられなかった私を横目で見てから、

「俺、明日、ちょっと静岡に行ってくる」

奏くんが夜空を見上げた。
つられて見ると、今夜は星がたくさん見えた。

「ブルーレインの事故で自殺した円谷亮の実家があるんだ」
「…え?」

奏くんが空を仰いだまま続ける。

「円谷は責任を感じて自殺したって報道されたけど、本当は社長に全ての罪を着せられて追い込まれたんじゃないかって。遺書はなかったってされたけど、家族と恋人に何か送ってたらしいんだよ」

視線を私に移した奏くんの瞳に星空が見えた。
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