Blue Bird ―初恋の人に再会したのに奔放な同級生が甘すぎるっ‼【完結】

remo

文字の大きさ
48 / 124

blue.47

しおりを挟む
お手洗いに席を立って戻ろうとしたら、通路に片瀬秋くんが立っていた。

壁にもたれかかって、長い脚をこれ見よがしに斜めに伸ばしている。

「あ、…どうも」

会釈して通り過ぎようとすると、

「あんたに奏くんはもったいない」

可愛らしい見た目に似合わない低い声で、いきなり挑むように告げられた。

「奏くんが構ってくれるからっていい気になるなよ」

秋くんのクセのある前髪の下で光る瞳が鋭い。

な、…なんだと、この見せかけチワワ!

サルの本能で受けて立つと、

「奏くんは優しいけど、誰にも本気にならない。…忘れられない人がいるから」

秋くんはちょっと切なそうに目を伏せた。

…忘れられない人。

秋くんの言葉は静かな湖面に投げ込まれた小石みたいに、知らず知らず私の心を波立たせた。

返す言葉が見つからずに大型チワワを見上げると、

「言っとくけど、俺、奏くんと一緒に住んでるから」

急に上から目線で勝ち誇られた。

え。…え?

ちょっと待って。それってつまり。
え?  秋くんて、もしかして、…

「じゃあね、コザル」

黙ったままの私を初対面からサル認定して鼻で笑うと、秋くんが踵を返した。

え。秋くんて、奏くんのこと、…

立ち尽くして秋くんの背中を眺めていたら、急にひらめくものがあった。

『別に。アキしか乗せないし』

「あ―――っ、アキ!!」

奏くんがバイクに乗せてる彼女じゃん! いや、彼女じゃなくて、…

つい大声を出してしまうと、立ち去りかけていた秋くんが嫌な顔をして振り向いた。

「呼び捨てかよ」

そうか、アキか。
奏くんの彼女。じゃなくて彼氏?

え、奏くん、彼女どころか彼氏まで!?
…イケメン、恐るべし。



「お前さぁ、秋に何か言われた?」

まったり飲んでいっぱいしゃべって、とりあえず合コンはお開きになった。
武邑さんがミオちゃんを、秋くんがサリちゃんを送って行き、
男子も釣れちゃう奏くんが私をマンションまで送ってくれた。

「いや、…あの、ご一緒に暮らしてらっしゃる、とか」
「…ああ。いとこだからな」

奏くんの返答はそっけない。

…秋くん。ドンマイ。

「アイツ、いつも俺の後付いてきて、…ちょっと似てたな」

昔を懐かしむように遠くを見やった奏くんの横顔は優しい。
奏くんのそのきれいな瞳には、誰が映っているんだろう。

「あと、…」

忘れられない人、がいるんだってね。

さりげなく口にしようとした言葉は、喉の奥で絡まって厄介な魚の骨みたいに胸の奥をチクチク刺した。

「なんだよ?」

マンション前の静かな道路で、街灯に奏くんの影が浮かぶ。
街路樹を揺らす夜風が、酔って火照った顔に心地良い。

「…なんでもない」

続けられなかった私を横目で見てから、

「俺、明日、ちょっと静岡に行ってくる」

奏くんが夜空を見上げた。
つられて見ると、今夜は星がたくさん見えた。

「ブルーレインの事故で自殺した円谷亮の実家があるんだ」
「…え?」

奏くんが空を仰いだまま続ける。

「円谷は責任を感じて自殺したって報道されたけど、本当は社長に全ての罪を着せられて追い込まれたんじゃないかって。遺書はなかったってされたけど、家族と恋人に何か送ってたらしいんだよ」

視線を私に移した奏くんの瞳に星空が見えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

取引先のエリート社員は憧れの小説家だった

七転び八起き
恋愛
ある夜、傷心の主人公・神谷美鈴がバーで出会った男は、どこか憧れの小説家"翠川雅人"に面影が似ている人だった。 その男と一夜の関係を結んだが、彼は取引先のマネージャーの橘で、憧れの小説家の翠川雅人だと知り、美鈴も本格的に小説家になろうとする。 恋と創作で揺れ動く二人が行き着いた先にあるものは──

処理中です...