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blue.52
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別れ際に和泉さんがキスしてくれた。
和泉さんの艶やかで滑らかな唇が、優しくゆっくり近づいて、
そっと私の唇に触れた途端、
我慢していた涙が一粒だけこぼれてしまった。
「のい、…」
和泉さんが切なげに細めた瞳に月影が映る。
「おやすみ」
和泉さんの温かい唇が涙をぬぐう。
「おやすみなさい」
声が震えた私を和泉さんがもう一度優しく抱きしめてくれた。
『…チョロ過ぎ』
部屋に戻ってドアを開けたら、
奏くんの声が聞こえた気がして足を止めて見回してみたけど、勿論どこにもいなかった。
リビングのソファを独占している赤いヘルメットを抱えてベッドに潜った。
持ってろ、って言ったって。
1人でバイクに乗らないし。
こんなの置いたまま、どうしろって言うんだ。
『じゃあな、バカ』
人のことバカバカ言ってくれちゃって。
気まぐれに構ってくれちゃって。
『ちゃんとつかまえてろよ』
…バカ。
『捨てられんなよ』
奏くんのバカ。
『もう、泣くなよ』
泣かせるようなこと、しないで欲しい。
赤いヘルメットを抱えたまま、自分の気持ちを持て余していたら、いつの間にか眠っていたようだった。
『どんな時でもお前のそばにいる』
夏の海辺。月明かり。潮風。
澄んだ空。ソーダ水の香り。
いつまでも泣き止まない私にあおくんが優しくキスしてくれた夢を見た。
宇宙に浮かぶ地球のような青と淡褐色の瞳。
心まで照らし出す不思議な瞳の色。
あおくんの瞳が和泉さんの漆黒の瞳に重なり、
奏くんの琥珀色の瞳に変わって、驚いて目が覚めた。
無駄に心臓がどきどき鳴っていた。
息を吐いて、スマートフォンが着信音を鳴らしていることに気づき、ベッドから起き上がる。
深夜。静けさの中で光を放つスマホが異様に目立った。
スマホを手にして画面を眺めて一瞬息が止まった。
『calling " 俺 ”』
飛びつくように画面をタップして、
「奏くん?」
息を止めて押し当てた耳に届いたのは、甘く震える奏くんの声じゃなかった。
和泉さんの艶やかで滑らかな唇が、優しくゆっくり近づいて、
そっと私の唇に触れた途端、
我慢していた涙が一粒だけこぼれてしまった。
「のい、…」
和泉さんが切なげに細めた瞳に月影が映る。
「おやすみ」
和泉さんの温かい唇が涙をぬぐう。
「おやすみなさい」
声が震えた私を和泉さんがもう一度優しく抱きしめてくれた。
『…チョロ過ぎ』
部屋に戻ってドアを開けたら、
奏くんの声が聞こえた気がして足を止めて見回してみたけど、勿論どこにもいなかった。
リビングのソファを独占している赤いヘルメットを抱えてベッドに潜った。
持ってろ、って言ったって。
1人でバイクに乗らないし。
こんなの置いたまま、どうしろって言うんだ。
『じゃあな、バカ』
人のことバカバカ言ってくれちゃって。
気まぐれに構ってくれちゃって。
『ちゃんとつかまえてろよ』
…バカ。
『捨てられんなよ』
奏くんのバカ。
『もう、泣くなよ』
泣かせるようなこと、しないで欲しい。
赤いヘルメットを抱えたまま、自分の気持ちを持て余していたら、いつの間にか眠っていたようだった。
『どんな時でもお前のそばにいる』
夏の海辺。月明かり。潮風。
澄んだ空。ソーダ水の香り。
いつまでも泣き止まない私にあおくんが優しくキスしてくれた夢を見た。
宇宙に浮かぶ地球のような青と淡褐色の瞳。
心まで照らし出す不思議な瞳の色。
あおくんの瞳が和泉さんの漆黒の瞳に重なり、
奏くんの琥珀色の瞳に変わって、驚いて目が覚めた。
無駄に心臓がどきどき鳴っていた。
息を吐いて、スマートフォンが着信音を鳴らしていることに気づき、ベッドから起き上がる。
深夜。静けさの中で光を放つスマホが異様に目立った。
スマホを手にして画面を眺めて一瞬息が止まった。
『calling " 俺 ”』
飛びつくように画面をタップして、
「奏くん?」
息を止めて押し当てた耳に届いたのは、甘く震える奏くんの声じゃなかった。
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