Blue Bird ―初恋の人に再会したのに奔放な同級生が甘すぎるっ‼【完結】

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故意、…って、わざと?
え? …なんで?

混乱して秋くんを見つめ返すと、秋くんはその眼光を手術室に向けて、考えあぐねるように目を細めた。

「…奏くん、このところ何かを必死に追ってた。でもそれを、追及されたくなかった奴がいる…」

鋭い刃に心臓を突き刺されたような気がした。
息が詰まって、急激に這い登ってきた悪寒に吐きそうになった。

「…私のせいだ」

握りしめたハンカチの上に涙の粒が落ちた。
呼吸するたびに無数の刃に刺される。息が出来ない。

『絶対証明してやるから。…もう、泣くな』

奏くん、事故の真相を追いかけたりしたから。

「おい、どういうことだ?」

秋くんに両肩をつかまれて向き直させられた時に、あまりにも不吉な考えが脳裏をよぎった。

事故後自殺したという和泉さんの先輩上司は、本当に自殺だったのだろうか。

事故の証拠となる炭酸ガスの成分配合表を密かに持っていた、という。
奏くんはそれを証拠に告発記事を書く、…って。

「…おいっ」

秋くんの声が繰り返し聞こえる。
自分の荒い呼吸が雑音のように頭に響く。

「しっかりしろ、落ち着いて、…息しろっ」

秋くんに頬を軽く叩かれた。
肺が空気を求めて喘いでいたけれどうまく吸えない。

「…くそっ」

秋くんに温かい息を吹き込まれた。
目の前をチカチカ回りながら覆いつくそうとしていた黒い斑点が、ゆっくりと遠ざかっていく。

「いいか、ゆっくり。…落ち着いて」

秋くんが背中をさすってくれた。
肺が痙攣したように不規則な呼吸を繰り返す。

「ご、…め、…なさい」

絞り出した声は声にならず、ざらついた耳障りな音に過ぎなかったけれど、
秋くんは優しく頷いて、

「大丈夫だ。…お前のせいじゃない」

そう言ってくれたから、ようやく肺に空気を送ることが出来た。

「その和泉さんて人が、証拠のデータを持ってるんだな?」

秋くんは私のまとまらない話を根気よく、うなずきながら聞いてくれて、最後にそう確かめた。

私がうなずくと、

「データだけでも早く警察に提出したほうがいいと思う。疑わしいのはそのゲーム会社だけど、何か大きな力が動いているような気がする」

そう言って、励ますように私を見た。

「奏くんが命懸けで手に入れた証拠。絶対に守らないとな」

秋くんは、涙の跡が消えないままの私の頬に手を置いて、

「しっかりしろよ。お前に何かあったら奏くんが悲しむ」

そっと親指の腹で撫でてくれた。

「…うん」

奏くんを信じる。何度も何度もうなずいた。

まだ夜明けにはだいぶ早い時間だったけれど、
病院の通話コーナーから、和泉さんに電話をかけてみた。

数回コール音が鳴った後、

「…のい? どうした?」

ちょっと緩めの低い和泉さんの声が聞こえて、また泣きそうになってしまったので急いで歯を食いしばった。

奏くんの事故を伝えると、電話の向こうで息を飲む音が聞こえた。
それから秋くんと話したことを伝えると、

「…データ? ちょっと待って」

和泉さんが何やら操作している気配がした。

夜明け前の病院内は人影が少なく、照明も必要なところ以外は落とされていて少し心細い。

暗がりを流れる1秒1秒に祈りを捧げた。
この建物の中で戦っている奏くんと手を尽くしてくれている病院の先生に心から祈った。

奏くんが。
どうかもう一度、あの甘く震える声で
「のい」って呼んでくれますように。

「…消えてる」

しばらくたって、電話から聞こえた和泉さんの声は緊迫していた。

「スマホもパソコンもバックアップも。…ロックもパスワードも破られてる」

…信じられない。

和泉さんの動揺した声が、音もなく近づいてくるハンターを連想させて得も言われぬ恐怖を感じた。
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