57 / 124
blue.56
しおりを挟む
空が白み始めた頃、手術中のランプが消えて、手術スタッフの方々が部屋から出てきた。
秋くんと立ち上がって姿勢を正すと、執刀医と思しき人が近づいてきた。
「ご家族の方ですか」
「いとこです。彼の家族は、今、イギリスから向かっています」
秋くんがはきはきと答える。
「…こちらは?」
医師の冷静な瞳が私を貫いた。
「あ、…」
急に、奏くんの存在が遠くなった。
かけがえがなくて、絶対に失いたくない。
どんなに大事な存在かなんて説明できない。
大切で。愛しくて。
生きる意味とか価値とか希望とか。
そんな言葉じゃ全然足りない。
でも。
私と奏くんの関係を言い表すとしたら、
同級生、しか許されない。
「婚約者です」
言い淀んでいたら、秋くんがさらっと言い放った。
え。
内心びくっとしたけれど、顔に表れないことを祈った。
中年の医師は鋭い眼光で私の真実を探るように見て、
「まあ、いいでしょう」
目頭で頷いた。
「出来る限りのことはしましたが、予断を許さない状態です。ICUで容態を見守りながら対応していきます」
医師が硬い口調で告げた内容は重々しくて、一言一言にすがるようにうなずいた。
「ちょっと待ってて」
医師が立ち去った後、
秋くんは入院手続きや説明のためにナースステーションに行ってしまい、暗い通路に一人残された。
当たり前だけど、私は奏くんの内輪には入れない。
明確に引かれた線が、寂しくて悲しくて苦しい。
頭では当然のこととして理解できるのに、
心がどうしようもなく泣き叫んでいる。
「婚約者なんて、…」
奏くんが知ったら、はたかれるかもしれない。
そう思って笑ったつもりが、泣き声になった。
秋くんから、一度家に帰ることを勧められた。
何かあったらすぐに連絡するから、と。
昼頃には奏くんのご両親も日本に着くし、奏くんがICUにいる間は面会できそうにない。
それに。
「アメリアも来るらしい」
と、ちょっと申し訳なさそうに言われた。
アメリア。
麗しい金髪ロングのスレンダー美女が浮かぶけど。
誰やねん。
「前に言ったことあっただろ、奏くんの忘れられない人」
泣き叫んでいた心は、簡単にハンマーでぺちゃんこに潰れた。
そうだった。
『奏くんは、誰にも本気にならない。忘れられない人がいるから』
秋くんに忠告されてたんだった。
奏くんが好きとかいうから。
ちょっといい気になってた。
うわ言で呼んでたとかいうから。
なんか勘違いしていた。
多分、明らかに沈み込んだ表情をしていたんだろう、
「まあ、俺は結構コザル推しだけどな」
秋くんが分かりやすくフォローしてくれた。
けど。
自分でも自分の気持ちがよく分からない。
私は和泉さんが好きで。
初恋のあおくんがずっと好きで。
だから麻雪さんがいることが悲しくて仕方なかったのに。
『俺、お前のこと好きだった』
奏くんの甘く震える優しい声が、心をつかんで離れない。
秋くんと立ち上がって姿勢を正すと、執刀医と思しき人が近づいてきた。
「ご家族の方ですか」
「いとこです。彼の家族は、今、イギリスから向かっています」
秋くんがはきはきと答える。
「…こちらは?」
医師の冷静な瞳が私を貫いた。
「あ、…」
急に、奏くんの存在が遠くなった。
かけがえがなくて、絶対に失いたくない。
どんなに大事な存在かなんて説明できない。
大切で。愛しくて。
生きる意味とか価値とか希望とか。
そんな言葉じゃ全然足りない。
でも。
私と奏くんの関係を言い表すとしたら、
同級生、しか許されない。
「婚約者です」
言い淀んでいたら、秋くんがさらっと言い放った。
え。
内心びくっとしたけれど、顔に表れないことを祈った。
中年の医師は鋭い眼光で私の真実を探るように見て、
「まあ、いいでしょう」
目頭で頷いた。
「出来る限りのことはしましたが、予断を許さない状態です。ICUで容態を見守りながら対応していきます」
医師が硬い口調で告げた内容は重々しくて、一言一言にすがるようにうなずいた。
「ちょっと待ってて」
医師が立ち去った後、
秋くんは入院手続きや説明のためにナースステーションに行ってしまい、暗い通路に一人残された。
当たり前だけど、私は奏くんの内輪には入れない。
明確に引かれた線が、寂しくて悲しくて苦しい。
頭では当然のこととして理解できるのに、
心がどうしようもなく泣き叫んでいる。
「婚約者なんて、…」
奏くんが知ったら、はたかれるかもしれない。
そう思って笑ったつもりが、泣き声になった。
秋くんから、一度家に帰ることを勧められた。
何かあったらすぐに連絡するから、と。
昼頃には奏くんのご両親も日本に着くし、奏くんがICUにいる間は面会できそうにない。
それに。
「アメリアも来るらしい」
と、ちょっと申し訳なさそうに言われた。
アメリア。
麗しい金髪ロングのスレンダー美女が浮かぶけど。
誰やねん。
「前に言ったことあっただろ、奏くんの忘れられない人」
泣き叫んでいた心は、簡単にハンマーでぺちゃんこに潰れた。
そうだった。
『奏くんは、誰にも本気にならない。忘れられない人がいるから』
秋くんに忠告されてたんだった。
奏くんが好きとかいうから。
ちょっといい気になってた。
うわ言で呼んでたとかいうから。
なんか勘違いしていた。
多分、明らかに沈み込んだ表情をしていたんだろう、
「まあ、俺は結構コザル推しだけどな」
秋くんが分かりやすくフォローしてくれた。
けど。
自分でも自分の気持ちがよく分からない。
私は和泉さんが好きで。
初恋のあおくんがずっと好きで。
だから麻雪さんがいることが悲しくて仕方なかったのに。
『俺、お前のこと好きだった』
奏くんの甘く震える優しい声が、心をつかんで離れない。
0
あなたにおすすめの小説
時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】
remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。
佐倉ここ。
玩具メーカーで働く24歳のOL。
鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。
完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。
【完結】ありがとうございました‼
好きな人の好きな人
ぽぽ
恋愛
"私には何年も思い続ける初恋相手がいる。"
初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。
恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。
そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。
皇宮女官小蘭(シャオラン)は溺愛され過ぎて頭を抱えているようです!?
akechi
恋愛
建国して三百年の歴史がある陽蘭(ヤンラン)国。
今年16歳になる小蘭(シャオラン)はとある目的の為、皇宮の女官になる事を決めた。
家族に置き手紙を残して、いざ魑魅魍魎の世界へ足を踏み入れた。
だが、この小蘭という少女には信じられない秘密が隠されていた!?
さんかく片想い ―彼に抱かれるために、抱かれた相手が忘れられない。三角形の恋の行方は?【完結】
remo
恋愛
「めちゃくちゃにして」
雨宮つぼみ(20)は、長年の片想いに決着をつけるため、小湊 創(27)に最後の告白。抱いてほしいと望むも、「初めてはもらえない」と断られてしまう。初めてをなくすため、つぼみは養子の弟・雨宮ななせ(20)と関係を持つが、―――…
【番外編】追加しました。
⁂完結後は『さんかく両想い』に続く予定です。
私が素直になったとき……君の甘過ぎる溺愛が止まらない
朝陽七彩
恋愛
十五年ぶりに君に再開して。
止まっていた時が。
再び、動き出す―――。
*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*
衣川遥稀(いがわ はるき)
好きな人に素直になることができない
松尾聖志(まつお さとし)
イケメンで人気者
*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*
年下男子に追いかけられて極甘求婚されています
あさの紅茶
恋愛
◆結婚破棄され憂さ晴らしのために京都一人旅へ出かけた大野なぎさ(25)
「どいつもこいつもイチャイチャしやがって!ムカつくわー!お前ら全員幸せになりやがれ!」
◆年下幼なじみで今は京都の大学にいる富田潤(20)
「京都案内しようか?今どこ?」
再会した幼なじみである潤は実は子どもの頃からなぎさのことが好きで、このチャンスを逃すまいと猛アプローチをかける。
「俺はもう子供じゃない。俺についてきて、なぎ」
「そんなこと言って、後悔しても知らないよ?」
溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる