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あおくんのハイスクール白書 【ネタバレ】含みます。72話以降にお読み下さい。
あおくんのハイスクール白書①【st.バレンタイン】
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こんなにそばにいるのに。早く気づけよ。
…………………………
「え? のい、あげるの? バレンタイン」
放課後の音楽室で、軽音楽部の音合わせをしていたら、中庭にいる女子たちの話し声が飛び込んできた。
「うん! 今年こそは会えると思うんだ」
元気だけが取り柄の本宮のいの無邪気な声。
「例の初恋の男の子に?」
「思い出の海岸で?」
女子たちがキャアキャア盛り上がっている中、その声だけが耳に際立つ。
「うん‼」
は? バカ? 2月の海。クソ寒いだろ。
「あー、バレンタインかぁ」
中庭の会話を耳にしたらしいバンドメンバーたちが騒めきだした。
「いいよなー、奏は絶対いっぱいもらえるし」
「イギリスの血とか、ずるくね?」
「でも受け取らないんだよ。忘れられないやつがいるとか言って」
「はあ? なにそれ、誰だよ―――!?」
なんか俺の周りに集まってきた奴らの腕やら顎やらが身体に乗ってくる。
うっとうしい。
「うるせえな」
聞こえねえだろ。
「罪なヤツ」
「女子泣かせ」
バンドの奴らが騒がしくて、のいの声が聞こえなくなった。
まさかあいつ、本気で海まで行く気じゃねえよな?
2月14日は朝から冷たい雨が降り、昼過ぎには雪に変わっていた。
校内は男子も女子もどことなくそわそわしていて、
やたらと呼び止められたり囲まれたり、適当に愛想笑いを浮かべたりしなきゃならなくて、無駄に消耗した。
のいはいつもと変わりなく大口を開けて弁当を食べたり、友人たちとしゃべったりしていた。
放課後、いつにも増して絡まれるのをかわすのに手間取っているうちに、のいの姿を見失った。
降りしきる雪の中海岸行きのバス停まで走ると、バスは雪のため遅延しているらしく、いつまで待っても到着する気配がなかった。
さすがに、やめたかも。
と思いたかったのは建前で、
のいは間違いなく海に向かっただろうと本当は分かっていた。
だいたい、なんで海なんだよ。
海岸までの道を歩きながら、バカがバカ過ぎて可笑しくなってきた。
本宮のいは俺がイギリスに戻る前、最も古い記憶の中で遊んでいた幼なじみで、
あいつに会うためだけに無理やり日本の高校に進学したのに、
「…だれ?」
俺を見てもまるで気づかなかった。
忘れているわけじゃなく、思い出の俺と目の前の俺が全く結びつかないようだった。
自分が滑稽すぎて、あいつが自力で気づくまで絶対構ってやらねえって決めたけど。
雪は一向に降りやむ気配を見せず、コートを着ていても冷え込んで手足の感覚が怪しくなっていく。
何時間かかけてようやく海岸にたどり着いた時には、すっかり日が暮れていた。
暗がりに目を凝らすと薄く積もった雪が広がる誰もいない海岸に、
ポツンとたたずむ赤いマフラーの小さな後姿が見えた。
その後姿は無防備な胸を締め付けた。
こいつ、まさか毎年こんなことやってたんじゃねえよな?
海岸に降り立って、雪にぬかるむ砂浜を歩いてのいに近づいても、ぼんやりと海の向こうを見ているのいは気づきもしなかった。
後ろから傘でのいの傘をつつく。
「おい。何やってんだよ?」
「あれ? 奏くん? なんでいるの?」
驚きで目を丸くしたのいの瞳が微かに潤んでいた。
「……」
凍るような寒さに頬も鼻の頭も真っ赤にして、口元も少し震えている。
「今日は天気が悪いから無理だったのかな。遠いところだから、来れなかったのかな」
のいが自分に言い訳するようにつぶやいて、灰色の海を眺めた。
まあ、イギリスだからな。
雪に煙る海を見つめていたのいの澄んだ瞳に涙の粒が浮かんだ。
「…会いたい」
思わず、その小さな頭に手を伸ばした。
「…俺だよ」
お前が待ってるあおくんは。
振り向いたのいの頬に触れた指を、のいの瞳からこぼれ落ちた涙が温かく濡らした。
俺を見上げて瞬いたのいの瞳から次々と涙の雨が降る。
「…ありがとう。奏くん、優しいね」
照れたように笑うのいの小さな身体を抱き寄せた。
俺の腕の中で震えるのいを壊さないように、出来る限りそっと抱きしめた。
「寒いから、ラーメン食べて帰るぞ」
「えええ―――っ、女子に殺される」
のいの冷たく凍りついた手を引いて、暗い雪道の中、救いのように温かい灯りを放つラーメン屋に連れ込んだ。
「美味しい! ラーメン大好き!」
熱々のラーメンをのいが豪快に頬張る。
…知ってる。
蒸気に潤んだのいの柔らかい頬をつまむ。
「…いひゃい」
もう、一人で泣くなよ。
「あのさ。…奏くん、もらってくれる?」
ラーメンを食べ終わって、すっかり涙が乾いたのいが思い立ったように白い包みを差し出した。
「…いいよ」
微かに雨粒が光る包みを受け取ると、のいが少し顔を赤くして笑った。
「初めて男子にあげちゃった。あのね、あおくんには内緒にしてね」
泣き笑いのバカをもらったばかりの包みで軽くはたいた。
「できるか、バカ」
家にたどり着いてからのいの包みを開けると、チョコクッキーに「スキ」のホワイトコーティング。
…固いし。ほろ苦いし。
翌日、学校の廊下でバタバタしているのいをつかまえた。
「お前、あんなベタなの他の男にあげて、勘違いしたらどうするんだよ?」
「…奏くんは彼女がいっぱいいるから大丈夫じゃん?」
本気できょとんとした顔をして俺を見返す。
ホント、こいつバカだな。
「俺、あんな苦いの初めて食べた。他のヤツにあげるなよ?」
のいの小さな頭をはたくと、
「もう絶対あげないよっ」
なんか怒ってどこかに飛んで行った。
昨日の雪景色が嘘のように今日はスカッと心地良い晴天。
積もりかけた雪もあっという間に溶けてなくなった。
遠ざかるのいの後姿に柔らかい光が降り注ぐ。
早く気づけよ。
お前の固くて苦いクッキー、また食べてやるから。
…………………………
「え? のい、あげるの? バレンタイン」
放課後の音楽室で、軽音楽部の音合わせをしていたら、中庭にいる女子たちの話し声が飛び込んできた。
「うん! 今年こそは会えると思うんだ」
元気だけが取り柄の本宮のいの無邪気な声。
「例の初恋の男の子に?」
「思い出の海岸で?」
女子たちがキャアキャア盛り上がっている中、その声だけが耳に際立つ。
「うん‼」
は? バカ? 2月の海。クソ寒いだろ。
「あー、バレンタインかぁ」
中庭の会話を耳にしたらしいバンドメンバーたちが騒めきだした。
「いいよなー、奏は絶対いっぱいもらえるし」
「イギリスの血とか、ずるくね?」
「でも受け取らないんだよ。忘れられないやつがいるとか言って」
「はあ? なにそれ、誰だよ―――!?」
なんか俺の周りに集まってきた奴らの腕やら顎やらが身体に乗ってくる。
うっとうしい。
「うるせえな」
聞こえねえだろ。
「罪なヤツ」
「女子泣かせ」
バンドの奴らが騒がしくて、のいの声が聞こえなくなった。
まさかあいつ、本気で海まで行く気じゃねえよな?
2月14日は朝から冷たい雨が降り、昼過ぎには雪に変わっていた。
校内は男子も女子もどことなくそわそわしていて、
やたらと呼び止められたり囲まれたり、適当に愛想笑いを浮かべたりしなきゃならなくて、無駄に消耗した。
のいはいつもと変わりなく大口を開けて弁当を食べたり、友人たちとしゃべったりしていた。
放課後、いつにも増して絡まれるのをかわすのに手間取っているうちに、のいの姿を見失った。
降りしきる雪の中海岸行きのバス停まで走ると、バスは雪のため遅延しているらしく、いつまで待っても到着する気配がなかった。
さすがに、やめたかも。
と思いたかったのは建前で、
のいは間違いなく海に向かっただろうと本当は分かっていた。
だいたい、なんで海なんだよ。
海岸までの道を歩きながら、バカがバカ過ぎて可笑しくなってきた。
本宮のいは俺がイギリスに戻る前、最も古い記憶の中で遊んでいた幼なじみで、
あいつに会うためだけに無理やり日本の高校に進学したのに、
「…だれ?」
俺を見てもまるで気づかなかった。
忘れているわけじゃなく、思い出の俺と目の前の俺が全く結びつかないようだった。
自分が滑稽すぎて、あいつが自力で気づくまで絶対構ってやらねえって決めたけど。
雪は一向に降りやむ気配を見せず、コートを着ていても冷え込んで手足の感覚が怪しくなっていく。
何時間かかけてようやく海岸にたどり着いた時には、すっかり日が暮れていた。
暗がりに目を凝らすと薄く積もった雪が広がる誰もいない海岸に、
ポツンとたたずむ赤いマフラーの小さな後姿が見えた。
その後姿は無防備な胸を締め付けた。
こいつ、まさか毎年こんなことやってたんじゃねえよな?
海岸に降り立って、雪にぬかるむ砂浜を歩いてのいに近づいても、ぼんやりと海の向こうを見ているのいは気づきもしなかった。
後ろから傘でのいの傘をつつく。
「おい。何やってんだよ?」
「あれ? 奏くん? なんでいるの?」
驚きで目を丸くしたのいの瞳が微かに潤んでいた。
「……」
凍るような寒さに頬も鼻の頭も真っ赤にして、口元も少し震えている。
「今日は天気が悪いから無理だったのかな。遠いところだから、来れなかったのかな」
のいが自分に言い訳するようにつぶやいて、灰色の海を眺めた。
まあ、イギリスだからな。
雪に煙る海を見つめていたのいの澄んだ瞳に涙の粒が浮かんだ。
「…会いたい」
思わず、その小さな頭に手を伸ばした。
「…俺だよ」
お前が待ってるあおくんは。
振り向いたのいの頬に触れた指を、のいの瞳からこぼれ落ちた涙が温かく濡らした。
俺を見上げて瞬いたのいの瞳から次々と涙の雨が降る。
「…ありがとう。奏くん、優しいね」
照れたように笑うのいの小さな身体を抱き寄せた。
俺の腕の中で震えるのいを壊さないように、出来る限りそっと抱きしめた。
「寒いから、ラーメン食べて帰るぞ」
「えええ―――っ、女子に殺される」
のいの冷たく凍りついた手を引いて、暗い雪道の中、救いのように温かい灯りを放つラーメン屋に連れ込んだ。
「美味しい! ラーメン大好き!」
熱々のラーメンをのいが豪快に頬張る。
…知ってる。
蒸気に潤んだのいの柔らかい頬をつまむ。
「…いひゃい」
もう、一人で泣くなよ。
「あのさ。…奏くん、もらってくれる?」
ラーメンを食べ終わって、すっかり涙が乾いたのいが思い立ったように白い包みを差し出した。
「…いいよ」
微かに雨粒が光る包みを受け取ると、のいが少し顔を赤くして笑った。
「初めて男子にあげちゃった。あのね、あおくんには内緒にしてね」
泣き笑いのバカをもらったばかりの包みで軽くはたいた。
「できるか、バカ」
家にたどり着いてからのいの包みを開けると、チョコクッキーに「スキ」のホワイトコーティング。
…固いし。ほろ苦いし。
翌日、学校の廊下でバタバタしているのいをつかまえた。
「お前、あんなベタなの他の男にあげて、勘違いしたらどうするんだよ?」
「…奏くんは彼女がいっぱいいるから大丈夫じゃん?」
本気できょとんとした顔をして俺を見返す。
ホント、こいつバカだな。
「俺、あんな苦いの初めて食べた。他のヤツにあげるなよ?」
のいの小さな頭をはたくと、
「もう絶対あげないよっ」
なんか怒ってどこかに飛んで行った。
昨日の雪景色が嘘のように今日はスカッと心地良い晴天。
積もりかけた雪もあっという間に溶けてなくなった。
遠ざかるのいの後姿に柔らかい光が降り注ぐ。
早く気づけよ。
お前の固くて苦いクッキー、また食べてやるから。
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