Blue Bird ―初恋の人に再会したのに奔放な同級生が甘すぎるっ‼【完結】

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あおくんのハイスクール白書 【ネタバレ】含みます。72話以降にお読み下さい。

あおくんのハイスクール白書②【文化祭】

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                  本当は。いつも。お前のためだけに歌ってる。


………………………………




「じゃあ文化祭実行委員は加峰くんと本宮さんで」

クラス内からパラパラと、自分じゃなくて良かったという拍手が起こる。

のいの方を見ると、赤いマークが付いたくじを蒼白な顔で見つめていた。

あいつまた面倒くさそうなの引いたな…

案の定。

「加峰は?」「…早退」

加峰は嫌なことからはのらりくらりと逃げるクズで、

「えーっと、出し物は何がいいですか?」

のいはほとんど一人で委員の仕事をする羽目に陥っていた。

「えー、会場プレハブとか最悪―――」
「喫茶店やりたかった―――」
「実行委員くじ運無さすぎ―――」
「ねー、暗幕全然足りないじゃん」
「もー、帰ろ」

バンドの練習が終わって校舎を見上げると、いつまでも教室の明かりがついている。
のいは部活が終わった後、1人で作業していた。

「俺、ちょっとクラス手伝ってくる」
「えー、じゃあ俺らも行く」

友人たちを引き連れて、教室に戻ると、赤い目をしたのいが俺を見て笑った。

「ありがとう、奏くん」

それから、毎日教室に寄っていると、日に日に作業人員が増えていった。

「ねー、奏くんたち準備やってる!」
「えー、一緒にやりたい!」

増えれば増えたで若干面倒臭さもあったけど、
何とか当日までにクラス展示が完成し、のいは肩の荷が下りたようだった。

文化祭当日。

軽音楽部の準備とリハーサルに追われながら見ていると、のいはクラスと部活と委員会の雑用で慌ただしく走り回っていた。

軽音楽部の発表は体育館で、
ステージが始まる前には大勢の人が押し寄せ、息苦しいほどの熱気と興奮した群衆に埋め尽くされていた。

ステージ上から、その姿を見つけた。

実行委員の腕章をつけて、一番端っこで人並みに押しつぶされそうになりながら、のいが立っている。

その姿だけに向かってマイクを握った。

けれど。

俺たちの演奏が始まってまもなく、興奮した観客が倒れ込んだ。
人がドミノ倒しのように重なり合って倒れ、
助け起こすために演奏を中止してステージを降りた俺の目の前を、小柄なバカが突っ込んでいった。

あっという間に、のいが群衆の波にのまれ人垣に埋もれた。

恐怖で身体が芯まで凍りついた。

夢中でその小さな腕をつかんで身体全体で守りながら、安全な空間を求めてステージに戻った。

のいが顔を歪めて身体全体で呼吸していた。
それが痛々しくて見ていられなかった。

「叫べば」

爆発しそうな思いを抱えている。
何も言わずに我慢して心の中に溜め込んだたくさんの思いが
のいの小さな身体から溢れそうになっていた。

押し付けられた委員。損な役回り。無責任な同級生。孤独な作業。興奮した群衆の下敷き。

叫びたかったのは、俺だったのかもしれないけれど。

そそのかしたら、

「奏くんの歌、…」

のいが小声でつぶやいてから、マイクをつかんで身体の底から振り絞ったような大声で叫んだ。

「私だってちゃんと聴きた―――いっっ‼」

おい。お前は一体何を叫んでるんだよ?

多分。
本当に心に溜め込んでいた様々な思いは、そこでは吐き出せなかったんだろうけど。

のいの頬を伝った涙が照明を浴びて透明に光る。

それがものすごく綺麗で、

気づいたらのいの小さな頭を腕に抱えていた。

「おつかれ」

周りの喧騒は何も聞こえなくて、ステージの上には俺とのいしかいなくて、
震える小さな肩を抱きしめていることが、現実の全てだった。



のいがスリッパをパタパタいわせながら歩いている。

あいつの足に来客用のスリッパは大きすぎて、階段で脱げそうになってヨチヨチしている。

あいつ、上履きどうした?

文化祭が終わってから数日経って。

「ざまあみろだよ」
「奏くんに抱きしめられちゃってさ」
「いい気になるなよ、ブス」

音楽室でミーティング中、窓にもたれかかっていたら、中庭から不穏な会話が聞こえてきた。

…何か思い出した。
友人たちに言われたこと。

「奏さぁ、ミツキ怒ってたよ」
「は?」
「彼女の自分を差し置いて本宮をステージに上げてさ、…」

…彼女。

「俺、彼女いた?」
「…奏くん。キミ、結構サイテーよ?」

…ミツキ?
窓から外を見るとミツキの後姿らしいものが見えた。

部活終了後、校舎裏の用具室の脇で泥だらけの上履きを見つけた。

「奏~? 何してんの?」

冷たい水道の水で上履きを洗いながら頭を冷やした。

「…今日、遊び行かね?」
「おけまる!」
「…ミツキたち誘っていい?」
「やっほーい」

ごめんな、のい。

ゲーセンのクレーンゲームで取った何かをミツキがはしゃいで持って行った。

お前にあげられるものが何もないけど。

涙に濡れて震える肩。
予想外のあいつの叫び。

『私だってちゃんと聴きた―――いっ‼』

本当は。俺はいつも。

一年前の部活動仮入部期間を思い出す。

バスケ部に入るつもりだったんだけど、ヒロの付き添いで軽音楽部に行った。
音楽室の前でヒロを待っていたら。

「あれ? 奏くん。軽音なの?」

Tシャツに短パン姿ののいとすれ違った。

「あ、いや、…」

陸上部。
お前、その格好で校庭走るのかよ…

「奏くん、声きれいだもんね。私、好きだなぁ」
「……」

のいは屈託のない笑顔を見せた。

「じゃあ、頑張ってね!」

ほっせー足。警戒心の欠片もねえし。

のいは振り向きもせず眩しい日差しが降り注ぐ校庭に出て行った。

「ねー、奏、ホントにダメ? 軽音入らない?」

音楽室で先輩と話し込んでいたヒロが出てきた。

「…いいよ」
「え、マジ⁉ マジで⁉ やった‼」

音楽室からは、校庭が見える。

本当は。俺はいつも。
お前のためだけに歌ってる。

ちゃんと聴いとけよ、バーカ。
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