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blue.85

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「お前は俺んち、連れて帰るから」

簡単に男の部屋に入るなじゃなかったの、お父さん――!?

翌日、晴れて退院することになった奏くんと私ですが、
先ほどから私の右手は全て隙間なく奏くんの左手に絡められていて、
動悸息切れめまいのあまり吐きそうであります。

触れてる手のひらが全部心臓になったみたい。

奏くんの滑らかな肌とか温かさとか骨っぽさとか、ものすごくリアルに伝わってきて、もう頭のてっぺんから足のつま先まで奏くんでいっぱいなこと、全部バレてる感じがする―――っ!

奏くんに触れられると息が止まるけど、全然嫌じゃなくて、もっと近づきたくなって、もっと触って欲しくなって、それで、…

ごっくん。

生唾飲んじゃった――っ!
こんなの、お家まで持たな――い‼

動揺に動揺を重ねていたら、

「奏くん、退院おめでとう」

病院のロビーににこにこ笑顔のチワワ秋くんが入ってきた。
あら?

「奏、のいちゃん、おめでとう」

続いて、奏くんのお父さんとお母さんもやってきた。
あらら?

「退院祝いのランチに行きましょう!」

そしてみんなでワゴンタクシーに乗り込んだのだった。

…そうだよ。
奏くんちって秋くんが居るんじゃん!
もうっ、お父さん! ドキドキ返して‼

憤然として奏くんを見上げたら、

「夜はいないけどな?」

無駄にかっこ良い顔を傾けて、艶やかな唇の端を少しだけ上げて、甘く揺れるきれいな瞳に見つめ返された。

ごっくん。

心臓止まる―っ、右手が焦げるーっ、お父さん、ごめんなさ――い‼

「奏、のいちゃん、婚約おめでとう‼」
「今日はお祝いよ―――っ」

ぐえっほ―――!?

ランチに訪れた日本料理屋さんは、
木の香り豊かな趣ある佇まいで、案内された個室からは中庭に設えられた日本庭園を臨むことが出来る。

夏ミカンの果実酒で乾杯し、
天然御造り、栗のスープ、旬魚の焼き物、魚介と季節野菜の天ぷら、土鍋の炊き込みご飯、お味噌汁、果実のコンポート、コーヒー、…

と、続くお料理をウキウキ頬張っていたら、突然のお父さんとお母さんのお言葉に栗を丸ごと噛まずに飲み込んでしまった。

それ、本人に知らせてないやつです―――っ‼

「だって婚約者だから」
「婚約者だからね、奏」

お父さんとお母さんが心なしか「婚約者」を強調していて、苦し紛れに婚約者宣言をしてしまった浅はかさを呪いたくなってくる。

「どっ、どうすんの、チワワ? チワワ―――っ!?」

焦って秋くんの首を絞めてみたものの、

「…どうも」

当の奏くんがあっさり認めちゃったからお祝いムードが一気に高まってしまった。

いいの? えっ⁉ いいの⁉

「やったな、コザル。アメリア撃退。俺、アイツ苦手」

チワワがご機嫌でお手してきたから思わずハイタッチに応じてしまったけども、…

え? だって。コウシャクがどうとか言ってたじゃん!?

「アミィちゃんがおじい様を連れてきて下さるみたいだから」
「落ち着いたらのいちゃんのご両親にご挨拶に行かなきゃね」

お父さんとお母さんが呑気に話を進めてるけど、アメリアはおじいちゃんに何か言いつけに行ったんですよ―――っ!?

「…奏くん」

やばいよね? このままでいいの?
目でこっそり訴えてみると、

「…なんだよ? お前が言ったんだろ」

澄んだ美しいアースアイに見つめ返されて息が止まる。

えー⁉ いいの―――⁉
こんな急展開、幸せすぎて明日あたり地球噴火するよ―――っ⁉

びった―――んっ‼

夢かもしれないから自分の両頬をぶっ叩いてみたら、

「なにしてんの、お前」
「…ちょっと、気合」

呆れ顔の奏くんがその長い指で私の頬を撫でて、

「いじめるなよ、俺の婚約者」

優しく頬に口づけた。

「おや」
「まあ」

きゃああ―――っ、こんなの絶対明日死ぬ―――っ‼
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