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blue.84
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「いや、それはないんじゃないか」
和泉さんが姿を消してしまった。
責任を感じてどこかに行ってしまった。
ショックが大きすぎて木下さんが帰った後もしばらく呆然としていたら、病室にやってきた奏くんがあっさり否定した。
「何にも言わずに消えるとか、…和泉がそんなお前を悲しませるようなことするか?」
奏くんは病院内を結城医師に追いかけ回される程度には回復しているらしく、割と元気そうに見える。
「がなでぐん―――っ」
奏くんが優しいことを言ってくれるから、思わず泣きついたら、私の頭を片腕に抱えて、その胸の中で慰めてくれた。
「和泉さんのこと大好きなのに―――っ」
和泉さんがいてくれて良かったって思ったばかりなのに。
「…分かってる、って」
奏くんが優しく頭を撫でてくれた。
「大好きで大好きで大好きなのに―――っ」
温かくて優しくて穏やかで大人で、尊敬してるのに。
「…まあな」
奏くんが優しく背中を撫でてくれた。
「ホントにホントに大好きなのに―――っ」
和泉さんのために出来ることは何でもするって思ってるのに。
「…スキスキうるせえ」
完全に浸って叫んでたら、奏くんに突然はたかれて涙が飛んでいった。…なにするし。
「姿を消したのが自分の意志じゃないとすると、…」
奏くんが私の髪を指に絡めてくるくる弄びながら、考え込むように視線を漂わせる。
「…気になるな」
私がそばにいるのが嫌になったとか、
責任を感じて姿を消したとか、じゃないなら、
「連れていかれた!?」
え。強制的に、連れていかれた、…ってこと?
急激な不安と焦りに襲われて見上げた先に、奏くんのきれいなアースアイがあった。
どんな時も私を照らしてくれる美しい瞳。
「それを調べてやるから。…心配するな」
奏くんは私の頭を軽く撫でると、
「お前が大好きなイズくん、捜してやるよ」
むにっと私の両頬をつまんで伸ばした。
痛い、…けども。
『お前が大好き、…』って、
なんて素敵な響き!
「奏くん! もう一回っ‼」
「は?」
期待を込めて見つめると、もう一回つままれて更にはひねられた。
そっちじゃなーいっ!
「…バーカ、そんなんじゃ足りねえよ」
「え?」
抗議しようとしたのに、奏くんは口角を緩くもたげて軽く笑うと、すごく優しいキスをした。
…ずるい。こんなの。
あっという間に奏くんでいっぱいになってしまう。
奏くん大好き。
大好きよりももっともっと。
もっとずっと果てしなく。
「宇宙の果てでも全然足りな―――いっ」
あ。
「やっぱりここか、青井」
奏くんに抱きついたところを病室に入ってきた結城医師に呆れた顔で見られた。
いや、先生。決してやましいことは、…
「もう面倒くさいから、お前ら退院しろ」
って、そんないい加減でいいんですか―――⁉︎
「やった!」
「ただし、激しい運動は厳禁。青井、分かってるな」
「分かった。スローに励む」
なんか奏くんが無言ではたかれた。
「痛って!」
けど。しかめた顔もかっこ良い。
奏くん。
もしかして、もしかして、もしかすると。
足りないって…、奏くんも同じだって、思ってもいい?
和泉さんが姿を消してしまった。
責任を感じてどこかに行ってしまった。
ショックが大きすぎて木下さんが帰った後もしばらく呆然としていたら、病室にやってきた奏くんがあっさり否定した。
「何にも言わずに消えるとか、…和泉がそんなお前を悲しませるようなことするか?」
奏くんは病院内を結城医師に追いかけ回される程度には回復しているらしく、割と元気そうに見える。
「がなでぐん―――っ」
奏くんが優しいことを言ってくれるから、思わず泣きついたら、私の頭を片腕に抱えて、その胸の中で慰めてくれた。
「和泉さんのこと大好きなのに―――っ」
和泉さんがいてくれて良かったって思ったばかりなのに。
「…分かってる、って」
奏くんが優しく頭を撫でてくれた。
「大好きで大好きで大好きなのに―――っ」
温かくて優しくて穏やかで大人で、尊敬してるのに。
「…まあな」
奏くんが優しく背中を撫でてくれた。
「ホントにホントに大好きなのに―――っ」
和泉さんのために出来ることは何でもするって思ってるのに。
「…スキスキうるせえ」
完全に浸って叫んでたら、奏くんに突然はたかれて涙が飛んでいった。…なにするし。
「姿を消したのが自分の意志じゃないとすると、…」
奏くんが私の髪を指に絡めてくるくる弄びながら、考え込むように視線を漂わせる。
「…気になるな」
私がそばにいるのが嫌になったとか、
責任を感じて姿を消したとか、じゃないなら、
「連れていかれた!?」
え。強制的に、連れていかれた、…ってこと?
急激な不安と焦りに襲われて見上げた先に、奏くんのきれいなアースアイがあった。
どんな時も私を照らしてくれる美しい瞳。
「それを調べてやるから。…心配するな」
奏くんは私の頭を軽く撫でると、
「お前が大好きなイズくん、捜してやるよ」
むにっと私の両頬をつまんで伸ばした。
痛い、…けども。
『お前が大好き、…』って、
なんて素敵な響き!
「奏くん! もう一回っ‼」
「は?」
期待を込めて見つめると、もう一回つままれて更にはひねられた。
そっちじゃなーいっ!
「…バーカ、そんなんじゃ足りねえよ」
「え?」
抗議しようとしたのに、奏くんは口角を緩くもたげて軽く笑うと、すごく優しいキスをした。
…ずるい。こんなの。
あっという間に奏くんでいっぱいになってしまう。
奏くん大好き。
大好きよりももっともっと。
もっとずっと果てしなく。
「宇宙の果てでも全然足りな―――いっ」
あ。
「やっぱりここか、青井」
奏くんに抱きついたところを病室に入ってきた結城医師に呆れた顔で見られた。
いや、先生。決してやましいことは、…
「もう面倒くさいから、お前ら退院しろ」
って、そんないい加減でいいんですか―――⁉︎
「やった!」
「ただし、激しい運動は厳禁。青井、分かってるな」
「分かった。スローに励む」
なんか奏くんが無言ではたかれた。
「痛って!」
けど。しかめた顔もかっこ良い。
奏くん。
もしかして、もしかして、もしかすると。
足りないって…、奏くんも同じだって、思ってもいい?
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