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blue.100
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スマートフォンを持って病棟のラウンジに出た。
画面に表示された"俺”の番号を見つめる。
奏くんに会いたい。
奏くんの声が聞きたい。
確かなものなんて何もない。
明日どうなるかなんて分からない。
薄いコンタクトレンズの向こうで、
本当は奏くんの瞳が何を映していたのか確かめたい。
伝わっているつもりでも、
本当は何にも伝わっていないのかもしれない。
深呼吸をして画面をタップしようとしたら、急にスマートフォンが震えて、焦って床に落としてしまった。
「おい、コザルっ!」
動揺したままスマホを拾って闇雲に応答を押すと、怒りにまみれたチワワの声が耳をつんざいた。
「なんでアメリアが俺たちの家にいるんだよ!?」
「…え」
勝ち誇ったアメリアの声。公然と絡められた腕。
思わせぶりな捨て台詞。
片手を挙げて出て行った奏くんの後姿。
…どうしよう。
「しかも、奏くんいな、…」
腕の力が抜けて耳からスマホが離れ、何か騒いでるチワワの声が遠くなる。
…どうしよう、間違えた。
血の気が引いて指先が冷たくなる。
どこで何を間違えたのか、どうすれば良かったのか、分からないけど、
自分が決定的に取り返しのつかない間違いをしでかしたことは分かった。
スマホをつかんでエレベーターまでダッシュすると、拳でボタンを叩いた。
自分がバカ過ぎて吐き気がした。
奏くんの家まで走った。
病室に戻ってお財布を持ってタクシーか電車に乗った方が絶対速かったということに途中で気づいたけど、足を止められなかった。
病院に戻りたくなかった。
息が切れる。汗が染みる。足が痛い。
吐き出した呼吸の向こうに月が浮かんでいた。
灰色の雲に覆われて頼りなく朧げで、
どこか泣いているように見えた。
これ見よがしに電車や車が追い抜かしていく。
街では家路を急ぐ人やはしゃいだ集団や寄り添うカップルとすれ違い、
一様に変なものを見る顔をされたけど、構っていられなかった。
スマートフォンで位置確認をしながら、
何度も奏くんに電話をしようかと思ったけど、
声だけじゃ伝わらない気がした。
ようやく奏くんのマンションが見えた時には、
街はすっかり寝静まり、
月はずいぶん遠ざかってほとんど雲に隠れていた。
マンション前の通路で、荒れた呼吸を整える。
足が痛くて膝ががくがくして、汗が溢れて服がびちょびちょだった。
夜風が汗を乾かすにつれて、頭も少しだけ冷えた。
奏くんの部屋番号が分からないし、
こんな真夜中にインターフォンを押していいものだろうか。
やっぱり電話したほうがいいんだろうか。
いっそ、チワワに電話したらいいんだろうか。
気持ちは焦るのに、混乱してどうしていいかわからなくて、
途方に暮れたまま奏くんのマンションを見上げた。
どのくらいそうしていたのか、汗が冷えて肌寒さを感じ始めた頃、
遠くからバイクのエンジン音が聞こえた。
音がする方を眺めていると眩しいヘッドライトが道路を照らし出し、
すぐ近くでバイクが停まった。
「何してんの、お前」
長い脚が空を横切り、バイクを降りたライダーの黒いフルフェイスのヘルメットから奏くんの声がした。
「…奏くん」
ヘルメットに覆われて奏くんの表情が見えない。
画面に表示された"俺”の番号を見つめる。
奏くんに会いたい。
奏くんの声が聞きたい。
確かなものなんて何もない。
明日どうなるかなんて分からない。
薄いコンタクトレンズの向こうで、
本当は奏くんの瞳が何を映していたのか確かめたい。
伝わっているつもりでも、
本当は何にも伝わっていないのかもしれない。
深呼吸をして画面をタップしようとしたら、急にスマートフォンが震えて、焦って床に落としてしまった。
「おい、コザルっ!」
動揺したままスマホを拾って闇雲に応答を押すと、怒りにまみれたチワワの声が耳をつんざいた。
「なんでアメリアが俺たちの家にいるんだよ!?」
「…え」
勝ち誇ったアメリアの声。公然と絡められた腕。
思わせぶりな捨て台詞。
片手を挙げて出て行った奏くんの後姿。
…どうしよう。
「しかも、奏くんいな、…」
腕の力が抜けて耳からスマホが離れ、何か騒いでるチワワの声が遠くなる。
…どうしよう、間違えた。
血の気が引いて指先が冷たくなる。
どこで何を間違えたのか、どうすれば良かったのか、分からないけど、
自分が決定的に取り返しのつかない間違いをしでかしたことは分かった。
スマホをつかんでエレベーターまでダッシュすると、拳でボタンを叩いた。
自分がバカ過ぎて吐き気がした。
奏くんの家まで走った。
病室に戻ってお財布を持ってタクシーか電車に乗った方が絶対速かったということに途中で気づいたけど、足を止められなかった。
病院に戻りたくなかった。
息が切れる。汗が染みる。足が痛い。
吐き出した呼吸の向こうに月が浮かんでいた。
灰色の雲に覆われて頼りなく朧げで、
どこか泣いているように見えた。
これ見よがしに電車や車が追い抜かしていく。
街では家路を急ぐ人やはしゃいだ集団や寄り添うカップルとすれ違い、
一様に変なものを見る顔をされたけど、構っていられなかった。
スマートフォンで位置確認をしながら、
何度も奏くんに電話をしようかと思ったけど、
声だけじゃ伝わらない気がした。
ようやく奏くんのマンションが見えた時には、
街はすっかり寝静まり、
月はずいぶん遠ざかってほとんど雲に隠れていた。
マンション前の通路で、荒れた呼吸を整える。
足が痛くて膝ががくがくして、汗が溢れて服がびちょびちょだった。
夜風が汗を乾かすにつれて、頭も少しだけ冷えた。
奏くんの部屋番号が分からないし、
こんな真夜中にインターフォンを押していいものだろうか。
やっぱり電話したほうがいいんだろうか。
いっそ、チワワに電話したらいいんだろうか。
気持ちは焦るのに、混乱してどうしていいかわからなくて、
途方に暮れたまま奏くんのマンションを見上げた。
どのくらいそうしていたのか、汗が冷えて肌寒さを感じ始めた頃、
遠くからバイクのエンジン音が聞こえた。
音がする方を眺めていると眩しいヘッドライトが道路を照らし出し、
すぐ近くでバイクが停まった。
「何してんの、お前」
長い脚が空を横切り、バイクを降りたライダーの黒いフルフェイスのヘルメットから奏くんの声がした。
「…奏くん」
ヘルメットに覆われて奏くんの表情が見えない。
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