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blue.102
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「おい、コザルっ‼」
何をやったかまるで思い出せないまま就業時間が終わり、
みんなにさっさと帰れと追い出されながらエントランスを出て、
和泉さんの退院をお迎えしようと病院に向かいかけたら、
スマートフォンが震えた。
弾かれたように画面を見たけど、"俺”じゃなかったから、完全に出る気が失せた。
奏くんじゃなければ、後はどうでもいい。
あんまりしつこく震えているので、ものすごくやる気のないまま画面をタップしたら、またもチワワの吠え声が聞こえた。
「奏くん、イギリス帰っちゃったよ!?」
チワワの言葉は、一度死んだ心臓を二重に刺し殺した。
「いつ!?」
死んでる場合じゃない。
早く行かなきゃ‼︎
そのままタクシーをつかまえて空港に向かおうとしたら、
「…とっくに空の上だと思うよ」
チワワが非情に告げた。
「なんか、イギリスに帰って頭冷やすって。…で、アメリアが世話女房気どりで、…って聞いてんのか、コザルっ」
世界がひっくり返った。
と思ったら、自分が仰向けに転がっていた。
冷やすって何⁉ なにその不吉な響き!
冷やしたら、そのまま固まっちゃうじゃん‼
本当に世界がひっくり返って、奏くんが戻って来てくれたらいいのに。
「…大丈夫ですか?」
通りすがりの親切な人に声を掛けられて、うなずいたけど、全然大丈夫じゃなかった。
奏くんがいないと世界が凍る。
奏くんがいない世界をどうやって生きていけばいいかわからない。
「ちょっ、…本当に大丈夫ですか?」
道端に転がってどんなに泣いても、もう世界は戻らない。
1番大事なこと間違えた。
何があっても、どんな時でも、絶対に奏くんの手を離しちゃいけなかったのに。
魂の絞りカスになりながら、ようやく病院にたどり着いた。
完全に人生を見失ってよぼよぼとロビーを横切った時、存在すら忘れていた東堂秘書と鉢合わせた。
「のい子っ‼」
やば。
カスだけの魂を総動員してよぼよぼの身体を立ち直らせ、回れ右の全力ダッシュにかかる。
逃げるしかない。
昨日、図らずも長距離疾走してガタが来ている足腰から大ブーイングが起こったけど、聞いていられない。
皆さん。
病院で走ってはいけません。
結城医師に見つかったら、ものすごく怒られそうな勢いで通路と階段を駆け上がり、
いくつもの角を曲がって行き着いた扉を開け、
よく分からない部屋に逃げ込んだら、そこに居た高級感漂うスーツの背中に突っ込んだ。
事故です。事故です。
鼻血案件再発。
「とりあえず、押さえておきなさい」
高級なスーツの人物から、水色のハンカチを鼻に押し当てられた。
『とりあえず、押さえとけ』
再会した時の奏くんの優しい声が耳によみがえって涙が出た。
「…がなでぐん」
「…何をしておる」
脳が迷走して、目の前の人物にすがり付いて泣いてしまったところ、どこかで見たことのある顔にものすごく迷惑そうな視線を向けられた。
…ラスボス‼ 出たっ‼
「…モンキーか。なんか面変わりしておるが」
取り繕う余裕のないまま、涙で腫れた目と鼻血まみれの顔を上から下までマジマジ見られて、奏くんのおじい様との二度目の対面が果たされた。
モンキーではありません。
「…本宮のいです」
「…ノンキーか」
「……」
笑えと?
何をやったかまるで思い出せないまま就業時間が終わり、
みんなにさっさと帰れと追い出されながらエントランスを出て、
和泉さんの退院をお迎えしようと病院に向かいかけたら、
スマートフォンが震えた。
弾かれたように画面を見たけど、"俺”じゃなかったから、完全に出る気が失せた。
奏くんじゃなければ、後はどうでもいい。
あんまりしつこく震えているので、ものすごくやる気のないまま画面をタップしたら、またもチワワの吠え声が聞こえた。
「奏くん、イギリス帰っちゃったよ!?」
チワワの言葉は、一度死んだ心臓を二重に刺し殺した。
「いつ!?」
死んでる場合じゃない。
早く行かなきゃ‼︎
そのままタクシーをつかまえて空港に向かおうとしたら、
「…とっくに空の上だと思うよ」
チワワが非情に告げた。
「なんか、イギリスに帰って頭冷やすって。…で、アメリアが世話女房気どりで、…って聞いてんのか、コザルっ」
世界がひっくり返った。
と思ったら、自分が仰向けに転がっていた。
冷やすって何⁉ なにその不吉な響き!
冷やしたら、そのまま固まっちゃうじゃん‼
本当に世界がひっくり返って、奏くんが戻って来てくれたらいいのに。
「…大丈夫ですか?」
通りすがりの親切な人に声を掛けられて、うなずいたけど、全然大丈夫じゃなかった。
奏くんがいないと世界が凍る。
奏くんがいない世界をどうやって生きていけばいいかわからない。
「ちょっ、…本当に大丈夫ですか?」
道端に転がってどんなに泣いても、もう世界は戻らない。
1番大事なこと間違えた。
何があっても、どんな時でも、絶対に奏くんの手を離しちゃいけなかったのに。
魂の絞りカスになりながら、ようやく病院にたどり着いた。
完全に人生を見失ってよぼよぼとロビーを横切った時、存在すら忘れていた東堂秘書と鉢合わせた。
「のい子っ‼」
やば。
カスだけの魂を総動員してよぼよぼの身体を立ち直らせ、回れ右の全力ダッシュにかかる。
逃げるしかない。
昨日、図らずも長距離疾走してガタが来ている足腰から大ブーイングが起こったけど、聞いていられない。
皆さん。
病院で走ってはいけません。
結城医師に見つかったら、ものすごく怒られそうな勢いで通路と階段を駆け上がり、
いくつもの角を曲がって行き着いた扉を開け、
よく分からない部屋に逃げ込んだら、そこに居た高級感漂うスーツの背中に突っ込んだ。
事故です。事故です。
鼻血案件再発。
「とりあえず、押さえておきなさい」
高級なスーツの人物から、水色のハンカチを鼻に押し当てられた。
『とりあえず、押さえとけ』
再会した時の奏くんの優しい声が耳によみがえって涙が出た。
「…がなでぐん」
「…何をしておる」
脳が迷走して、目の前の人物にすがり付いて泣いてしまったところ、どこかで見たことのある顔にものすごく迷惑そうな視線を向けられた。
…ラスボス‼ 出たっ‼
「…モンキーか。なんか面変わりしておるが」
取り繕う余裕のないまま、涙で腫れた目と鼻血まみれの顔を上から下までマジマジ見られて、奏くんのおじい様との二度目の対面が果たされた。
モンキーではありません。
「…本宮のいです」
「…ノンキーか」
「……」
笑えと?
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