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おまけBlue.
03.
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「…のい? 開けろよ、いるんだろ?」
繰り返し表れる calling"俺"の画面表示を見ていたら、涙を堪えられなくなって、スマートフォンを抱きしめて泣いた。
気がついたら、いつの間にかスマホが震えなくなっていて、代わりにめちゃめちゃドアチャイムが鳴っていた。
玄関扉の向こうから、奏くんの声がする。
少し慌てている感じがするけど、やっぱり甘くて優しくて大好きな、奏くんの声。
奏くんの声を聞いたら、止まったはずの涙がどうしようもなく溢れてきて、
「…がなでぐん」
涙と鼻水のいつにも増してブサイクな顔で奏くんと対面することになってしまった。
奏くんが私を見て一瞬固まった。
さすがにブサイク過ぎた―――っ
もうちょっと考えてからドアを開けるべきだったかも、と、密かに後悔していたら、
奏くんがふんわり私を抱きしめて、片手で私の顔を包んだ。
「…どうした?」
奏くんの滑らかで優しい指がそっと涙に触れる。
私をのぞき込んだ奏くんの美しい瞳が揺れている。
宇宙に浮かぶ地球みたいな。
青と淡褐色の美しい瞳。
いつでもどんな時でも、私を明るく照らしてくれる。
「…だいずぎ、…っ」
胸にくすぶった思いを何て言えばいいか、分からなかった。
「のい、…」
甘くかすれた声。
優しく沁みる声。
奏くんはそれ以上何も言わず、優しく私を抱きしめて、あやすように髪を撫でてくれた。
髪を通る奏くんの指。
柔らかく刻む鼓動の音。
ほんの少しだけ、奏くんから知らない匂いがする。
胸の奥がチクチクして、涙が止まらなくて、苦しいくらい奏くんにしがみついた。
しばらくそのまま私を抱きしめていた奏くんが、ふいに片腕で私を抱き上げると、
「…行くぞ」
軽々と私を抱えたまま、部屋に置いてある赤いヘルメットをかぶせて、マンションの外に出た。
「乗れ」
マンションの前に停めてあったバイクの後部座席に、奏くんがそっと私を降ろした。
奏くんのバイクが、
暗い夜道を一筋の光のように走る。
軽やかに。どこまでも。
風になって飛んでいく。
雲を突き抜けて天を目指す。
奏くんが一緒なら。
怖いものは何もない。
バイクを操る奏くんの背中に頰を寄せると、奏くんのぬくもりを感じた。
この場所を誰にも渡したくない。
風の中で自覚した。
誰もバイクの後ろに乗せないで。
あの甘い瞳と甘い声をあげないで。
奏くんを誰にも渡したくない。
奏くんを独り占めしたい。
どうしよう。
いつの間にこんなにわがままで贅沢になったんだろう。
こんなの、知られたら絶対に呆れられる。
って思ってたのに。
「叫べよ」
奏くんにそそのかされて、
誰もいない穏やかに凪いだ夜の海に向かって、洗いざらいぶちまけてしまった。
くすぶっていたものを全部吐き出したら、だいぶ心は軽くなったけど、
「…バカだな」
奏くんの表情を見るのが怖くて固まった。
なんか、面倒くさいこと言った気がする―――っ
後悔に埋もれて動けずにいたら、
奏くんの腕が私の頭を引き寄せて、
ちゅ。
斜めに屈んだ奏くんの柔らかくて甘い唇が、優しく優しく私に触れた。
目を上げると、
長いまつ毛に縁取られた美しい瞳が、愛しさだけを浮かべて、私を映していた。
「来いよ。独り占めさせてやるから」
繰り返し表れる calling"俺"の画面表示を見ていたら、涙を堪えられなくなって、スマートフォンを抱きしめて泣いた。
気がついたら、いつの間にかスマホが震えなくなっていて、代わりにめちゃめちゃドアチャイムが鳴っていた。
玄関扉の向こうから、奏くんの声がする。
少し慌てている感じがするけど、やっぱり甘くて優しくて大好きな、奏くんの声。
奏くんの声を聞いたら、止まったはずの涙がどうしようもなく溢れてきて、
「…がなでぐん」
涙と鼻水のいつにも増してブサイクな顔で奏くんと対面することになってしまった。
奏くんが私を見て一瞬固まった。
さすがにブサイク過ぎた―――っ
もうちょっと考えてからドアを開けるべきだったかも、と、密かに後悔していたら、
奏くんがふんわり私を抱きしめて、片手で私の顔を包んだ。
「…どうした?」
奏くんの滑らかで優しい指がそっと涙に触れる。
私をのぞき込んだ奏くんの美しい瞳が揺れている。
宇宙に浮かぶ地球みたいな。
青と淡褐色の美しい瞳。
いつでもどんな時でも、私を明るく照らしてくれる。
「…だいずぎ、…っ」
胸にくすぶった思いを何て言えばいいか、分からなかった。
「のい、…」
甘くかすれた声。
優しく沁みる声。
奏くんはそれ以上何も言わず、優しく私を抱きしめて、あやすように髪を撫でてくれた。
髪を通る奏くんの指。
柔らかく刻む鼓動の音。
ほんの少しだけ、奏くんから知らない匂いがする。
胸の奥がチクチクして、涙が止まらなくて、苦しいくらい奏くんにしがみついた。
しばらくそのまま私を抱きしめていた奏くんが、ふいに片腕で私を抱き上げると、
「…行くぞ」
軽々と私を抱えたまま、部屋に置いてある赤いヘルメットをかぶせて、マンションの外に出た。
「乗れ」
マンションの前に停めてあったバイクの後部座席に、奏くんがそっと私を降ろした。
奏くんのバイクが、
暗い夜道を一筋の光のように走る。
軽やかに。どこまでも。
風になって飛んでいく。
雲を突き抜けて天を目指す。
奏くんが一緒なら。
怖いものは何もない。
バイクを操る奏くんの背中に頰を寄せると、奏くんのぬくもりを感じた。
この場所を誰にも渡したくない。
風の中で自覚した。
誰もバイクの後ろに乗せないで。
あの甘い瞳と甘い声をあげないで。
奏くんを誰にも渡したくない。
奏くんを独り占めしたい。
どうしよう。
いつの間にこんなにわがままで贅沢になったんだろう。
こんなの、知られたら絶対に呆れられる。
って思ってたのに。
「叫べよ」
奏くんにそそのかされて、
誰もいない穏やかに凪いだ夜の海に向かって、洗いざらいぶちまけてしまった。
くすぶっていたものを全部吐き出したら、だいぶ心は軽くなったけど、
「…バカだな」
奏くんの表情を見るのが怖くて固まった。
なんか、面倒くさいこと言った気がする―――っ
後悔に埋もれて動けずにいたら、
奏くんの腕が私の頭を引き寄せて、
ちゅ。
斜めに屈んだ奏くんの柔らかくて甘い唇が、優しく優しく私に触れた。
目を上げると、
長いまつ毛に縁取られた美しい瞳が、愛しさだけを浮かべて、私を映していた。
「来いよ。独り占めさせてやるから」
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