【完結】君への祈りが届くとき

remo

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Ⅰ.あかり

19.

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カフェのざわめきが全く聞こえなくなった。
悲鳴が聞こえる。
届かなかった、彼女の悲鳴が。

「覚悟の上の、自殺だったんじゃないか、というのが、警察の見解だ。
彼女は、風邪薬を大量に飲んでいた。
警察の話では、有輝よりかなり長時間水の中にいたらしい。
どういう経緯で有輝がプールに入ったかは分からないけど、
もしかしたら、助けようとして、一緒に溺れたんじゃないかって」

真輝さんが、怖いほどきれいな笑みを浮かべて私を見た。

「有輝の子じゃなくて、安心した?
有輝のこと教えてあげたから、あかりちゃんの秘密ももらおうかな」

え。

…戸惑って真輝さんを見上げた一瞬のうちに、真輝さんが、私の唇に触れた。

「あかりちゃん、有輝のこと好きなんだっけ。有輝に言えないね。
俺と秘密ができちゃったね」

言葉が出ない私に、手を伸ばして、真輝さんは私の髪を一房なでた。

「予定があるから、もう行くね。またね、あかりちゃん」

真輝さんは席を立って伝票を持つと、そっけなくカフェを出て行った。

1人残されて。
唇に触れる。

聖人とキス、できなくなって。
最近は手をつなぐこともしてなくて。

でも、真輝さんは、…怖くは、なかった。
髪に触れられても、…身体がこわばることはなかった。

「…あかり」

真輝さんがいなくなった後、どのくらいぼんやりしていたのか、隣に人の気配を感じて、

「…聖人?」

見ると、聖人が立っていた。

「あかり。…さっきの人、誰?」

スポーツバックを乱暴に置いて、向かいの席に聖人が座った。

「…鳴瀬の、お兄さん」

言いながら、気まずさが漂うのをどうすることもできなかった。

聖人の練習が忙しいのを言い訳に、登下校は別々で、家や教室に会いに来てくれても、話らしい話をしていなかった。

「聖人は、どうしたの?今日は夜まで練習じゃ…」

その空気を何とかしたくて聞いてみたけど、

「練習中に足捻って、念のため医者に行った方がいいって、診てもらった、帰り」

聖人は、感情をなくしたみたいに、一本調子で話す。

「…そう。なんだって?」

「骨に異常はないから、大したことないだろうって。…それより」

唇を噛みしめると、決意したように顔を上げ、聖人が射るように私を見た。

「あかりは、鳴瀬のこと…」

胸の奥で、動き始めた感情が、大きな声で叫んでいた。
もう止められないよ、と。
だから、正面から、聖人の視線を受け止めた。

「…うん。あのね、聖人…」

「待って!」

急に聖人が大きな声を出して、顔をそむけた。

「待って、あかり。言わないで」

大きく息を吐いて、首を垂れ、

「…俺、まだ、準備できてない」

聖人には似つかわしくない、ひどく弱弱しい声でつぶやいた。

「…あかりに振られる準備」

聖人は、うつむいたまま、前髪を握った。
考え込んだり、困ったりした時の、聖人の癖だ。
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