【完結】君への祈りが届くとき

remo

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Ⅲ.あかり

10.

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真輝さんが、私の隣に座る。

「アイツ、顔だけが取り柄なのに」

軽口をたたいた真輝さんは、小刻みに、震えていた。
祈るように手を組んで、首を垂れる。

夏なのに寒くてたまらなかった。
目を閉じても目を開けても、おびただしい血の跡が見えた。
大声で叫んで、何かが変わるなら、そうしたかった。

眼帯の男たちに良いように使われた自分が許せない。
鳴瀬を傷つけた、自分が許せない。

ただ、静かに鳴瀬のそばにいたかった。
ただ、鳴瀬にそばにいてほしかった。

それだけだったのに。

血だらけの鳴瀬のきれいな顔。
深く大きく切り裂かれた顔。

不相応な望みを抱いてしまったのかな。
鳴瀬が帰ってきてくれたのに、それ以上、何かを願っちゃいけなかったのかな。

だけど鳴瀬に。
どうしても、どうしても。
ここにいてほしかった。

病院の静かな廊下に足音が響いて、顔を上げると鳴瀬のお父さんが近づいてきた。

「有輝は…」

鳴瀬のお父さんの、締め出されたような声が、恐怖と心配を物語っていた。

「手術中。顔を切ったって、命にはかかわらないだろ」

真輝さんが感情を押し殺した声で淡々と答える。

「馬鹿が」

鳴瀬のお父さんがすがるようにこぶしを壁に押し当てた。

「また病院に戻るようなことをして」

押し当てられたこぶしは、血管が浮き出るほど、強く握りしめられていた。

鳴瀬がいなきゃ、始まらないんだよ。
鳴瀬がいなきゃ、生きていけないんだよ。

自分で自分の両腕を抱えた。

寒くて寒くて、抱きしめた時の鳴瀬の温かさをひたすらに思い出していた。

時間の感覚がすっかりなくなった頃、手術室の扉が開いた。
看護師さんに付き添われて、ストレッチャーに横たわった鳴瀬が運ばれてくる。

私たちが駆け寄ると、

「薬で眠っています。とりあえず、病室にいきましょう」

看護師さんの後から、形成外科医師も出てきた。

ストレッチャーに横たわる鳴瀬は、ほんの少しも動かなくて、それが不吉を感じさせて怖かった。

顔じゅうに包帯が巻かれて、閉じた片目と鼻と口が辛うじて見えた。
頭にも巻かれた包帯の中から、オレンジ色のきれいな髪が見えて、鳴瀬らしさはそれだけだった。

「出血が多量だったので、点滴をして、しばらく休ませる必要があります。術後の経過も見ますから、少し入院が必要です」

病室のベットに寝かされた鳴瀬の隣で、医師が、鳴瀬のお父さんに向けて話し始める。

「傷の具合は…」

「そうですね。ずいぶん深い傷で、ほお骨が傷ついていますが、それは治癒するでしょう。ただ、傷自体は治りますが、傷跡が消えるかどうかは、…難しいかもしれません」

神様に愛されたような鳴瀬の整った顔は、もう二度と、見られないのかもしれない。
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