さんかく片想い ―彼に抱かれるために、抱かれた相手が忘れられない。三角形の恋の行方は?【完結】

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1章.告白ミッション

03.

爽やかな秋晴れ。澄み渡る青空。
そよぐ風。降り注ぐ太陽。
あちらこちらから聞こえる小鳥のさえずり。
今日もいい日でありますように。

出がけにポストを見ると、ハガキが一枚挟まっていた。

『雨宮 つぼみ 様
私たち 結婚いたしました
今後ともよろしくお願い申し上げます
北尾 義也 叶音かのん(旧姓  杉)』

叶音ちゃん、結婚したんだ、…
純白のウエディングドレスを着た叶音ちゃんの隣に、グレーのタキシード姿の旦那様が写っている。大人っぽい雰囲気で、落ち着いて、優しそうな男性。

胸の奥がぎゅっと痛くなる。はじめくん、知ってるのかな。
創くんはこの知らせを、どんな気持ちで受け取るんだろう。
叶音ちゃんからの結婚報告ハガキをバッグに入れて家を出た。

「ふむふむ、恋敵が結婚した、と」

食品衛生学の講義開始前、セレナの隣に座って、叶音ちゃんからのハガキを眺める。セレナは同じ大学で学科もサークルも一緒。何でも話せる女友だち。容赦なく本当のことを言ってくれるのがいい。

「別れても、離れても、結婚しても、創くんはずっと叶音ちゃんが好きだと思うけど、…」
「相当な粘着質だな、おい」
「…4度目の告白、してもいいと思う?」
「あんたも相当、粘着力強いよね、…」

セレナは可哀そうなものを見る目を私に向けた。

初恋の相手に10数年来の片想い。分かってる。相当しつこい。
私の卒業は、創くんへの告白と共にある。
最初は小学校の卒業。次は中学の卒業。そして高校卒業、…
過去3回の告白は全て優しくお断りされていて、セレナに言わせれば「あんた、相当マゾだね」ということになり、それでも私は、創くんを好きなことがやめられない。

創くんは私のヒーローなんだ。

幼少期。
母と2人暮らしの家は、帰っても誰もいなくて寂しくて、いつもマンションの隣にある創くんの家で、創くんのピアノを聴いていた。

「創くん―――、間に合わなかった―――」
「大丈夫だよ。こっちおいで」

学校帰り、トイレに間に合わなくてランドセルを背負ったまま玄関口で泣いていたら、創くんが速やかに助けてくれた。

「創くん―――、鍵がない―――」
「俺。こいつと一緒に帰るから」

鍵を忘れて創くんに泣きついたら、私のために創くんは中学を早退してくれた。

「創くん―――、お鍋が焦げた―――」
「大丈夫。美味しいよ、つー」

夕飯作りをするようになった私の様子を見に来てくれて、失敗作は全部食べてくれた。

小学校低学年の私から見たら、中学生の創くんは、大人で頼りになってかっこよくて優しくて、何もかもがパーフェクトで、好きにならないわけがなかった。

毎年、バレンタインにチョコを渡すと優しくもらってくれて、お返しも素敵なものをくれたけど、創くんには好きな人がいた。

「これがその、伝説の駆け落ち相手か」

同じ音楽教室でプロを目指して練習に励んでいる美しくて繊細な叶音ちゃん。

ある冬のよく晴れた日に、創くんと叶音ちゃんは駆け落ちした。

当時、創くんは高校生で叶音ちゃんは大学生。
小学生だった私は衝撃を持って「駆け落ち」という言葉を知ったのだった。

私の中に一大センセーショナルを巻き起こしたこの駆け落ちは、数日後、あっさり幕を閉じた。
逃げようとした創くんと叶音ちゃんが事故に遭い、発見されて連れ戻され、両家総がかりで引き離された。
2人は一切の連絡を禁じられ、それから間もなく、音楽留学という名目で叶音ちゃんは海外に渡ってしまう。

それでも。

創くんはずっと叶音ちゃんが好きで、他の女の子と付き合ってる時もあったけど、叶音ちゃんのことが忘れられなくて、多分もう一生好きで。叶音ちゃんが結婚しても、万が一この世からいなくなっても、それは絶対変わらない。

分かってるけど、それでもいいからそばに居させて欲しい。
創くんには私がいるって言いたい。
どうしても。創くんしか好きになれない。

セレナがため息混じりにハガキを指で弾いた。

「まあ、確かにつけ込みどころではあるけどな。でもさ、つぼみ。告白するならどう転んでも、これを最後にしな」

最後。
セレナの言葉が胸に重く響いた。

「ていうか、これでダメならもう無理だから。これ以上引きずるのは時間の無駄。これを最後の告白にして、ダメならスパッと諦めるんだよ」

確かに。セレナの言う通り。
この期に及んでも幼なじみの関係を変えられないなら、この先もずっと恋人にはなれない。

「まあだからさ、心置きなく、思い切り、ドーンと身体ごとぶつかって来いよ」

男気のあるセレナに頷いた。

「うん。…けじめつけてくる」
「よし。木っ端みじんに砕けても、骨は拾ってやるから」

セレナが私の背中をバシッと叩く。
雨宮つぼみ、20歳。長すぎた片想いを終わらせる時が来た。
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