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1章.告白ミッション
05.
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「結婚しちゃったね」
学校からタクシーで15分。
串焼きが美味しい居酒屋さんのカウンター席に創くんと並んで座る。
創くんと飲むときは大抵ここで、創くんはもつ煮とビール、私は炭火野菜巻きと日本酒、と決まっている。
「そうだな」
「寂しい?」
「うん、まあ、いや。…良かったな、って思ってるよ」
創くんは綺麗に泡の立ったビールを静かに傾けた。
その横顔はやっぱり切なくて何も言えずに見つめていたら、
「ホントだよ」
創くんが笑いながら私を小突いて日本酒を注いでくれた。
まろやかな口当たり。ここの日本酒は創くんみたいに優しい。
「…俺はもう、自分がどうこうなりたいとは思ってないから。ただ、あいつが幸せならいいなって思ってる。結婚相手があいつをあの家から連れ出して、あいつらしく自由に羽ばたかせてくれるんなら、それが一番だと思う」
叶音ちゃんの家はお父さんもお母さんも有名な音楽家で、叶音ちゃんは将来を嘱望されて幼少期から徹底的な英才教育を受け、練習漬けの日々を送っていたらしい。「友だちになってくれる? 私、友だちいないの」近所の公園で初めて会った時、叶音ちゃんは、砂場遊びをしたことがなかった。「籠の中の鳥」なんだって創くんが言っていたことがある。
「…うん、そうだね。じゃあ今日は、結婚祝いに飲もうか? 私がおごってあげるから!」
「お前まだ学生のくせに」
「意外とバイトで稼いでるんですー」
「ははっ」
創くんは優しく笑って私の頭を撫でた。
「…ありがとな、つー」
見上げた創くんは、薄暗い照明に照らされて穏やかに笑っていたけど、泣いているように見えた。
「ち・よ・こ・れ・い・と」
「「ジャンケンポン」」
「ぱ・い・な・つ・ぷ・る」
居酒屋さんを出て、酔い覚ましに夜の街を歩いた。
珍しく酔っぱらっているのか創くんのテンションが高くて、意味もなくじゃんけんグリコが行われた。全然勝てなくて、創くんがどんどん離れて行ってしまう。
「創くん、待って」
「お前、じゃんけん弱いな――」
遠くに離れて、私の知らないどこかに行ってしまう。
手を伸ばしても、もう届かないくらい遠くに。
「…ぐ・り・こ」
グリコじゃ全然追いつけな――いっ
「ぐりこ・ぐりこ・ぐりこーげんっ‼」
創くんが消えてしまいそうで、私の前からいなくなってしまいそうで、あからさまにせこい手を使って一気に創くんまでたどり着き、
「…ははは。何、必死になってんだよ」
笑ってる創くんにしがみ付いた。
「創くんが好き」
口からするりと滑り落ちた言葉は秋風に乗って夜気に溶ける。街灯に照らされた創くんの影に音もなく消えてゆく。
「…うん。ありがとう」
柔らかくて優しい創くんの声。
いつも。過去3回の告白も、創くんは優しく「ありがとう」って言った。
そしてそのまま、何も変わらなかった。
もどかしくていたたまれなくて切なくて、
「…好きだよっ。私はずっと、創くんが好きだから‼」
つかんだ創くんのシャツを引き寄せて、背伸びしてキスした。
創くんの頬に触れた唇が震える。
急にものすごい熱さが身体の内側から湧き上がってきて、アルコール度数の高いお酒を飲んだ時よりも酔いが回って、頭がくらくらして火を噴きそうなくらい顔が熱くなった。
「お、…おやすみなさい、創くんっ」
創くんの顔が見れなくなって、走って逃げた。
創くんが何か言ったような気がしたけど、聞こえなかった。
息が切れて、足がもつれて、転びそうになったけど止まらずに走った。
振り向けない。頬が熱い。創くんが好き。
キス。してしまった。
学校からタクシーで15分。
串焼きが美味しい居酒屋さんのカウンター席に創くんと並んで座る。
創くんと飲むときは大抵ここで、創くんはもつ煮とビール、私は炭火野菜巻きと日本酒、と決まっている。
「そうだな」
「寂しい?」
「うん、まあ、いや。…良かったな、って思ってるよ」
創くんは綺麗に泡の立ったビールを静かに傾けた。
その横顔はやっぱり切なくて何も言えずに見つめていたら、
「ホントだよ」
創くんが笑いながら私を小突いて日本酒を注いでくれた。
まろやかな口当たり。ここの日本酒は創くんみたいに優しい。
「…俺はもう、自分がどうこうなりたいとは思ってないから。ただ、あいつが幸せならいいなって思ってる。結婚相手があいつをあの家から連れ出して、あいつらしく自由に羽ばたかせてくれるんなら、それが一番だと思う」
叶音ちゃんの家はお父さんもお母さんも有名な音楽家で、叶音ちゃんは将来を嘱望されて幼少期から徹底的な英才教育を受け、練習漬けの日々を送っていたらしい。「友だちになってくれる? 私、友だちいないの」近所の公園で初めて会った時、叶音ちゃんは、砂場遊びをしたことがなかった。「籠の中の鳥」なんだって創くんが言っていたことがある。
「…うん、そうだね。じゃあ今日は、結婚祝いに飲もうか? 私がおごってあげるから!」
「お前まだ学生のくせに」
「意外とバイトで稼いでるんですー」
「ははっ」
創くんは優しく笑って私の頭を撫でた。
「…ありがとな、つー」
見上げた創くんは、薄暗い照明に照らされて穏やかに笑っていたけど、泣いているように見えた。
「ち・よ・こ・れ・い・と」
「「ジャンケンポン」」
「ぱ・い・な・つ・ぷ・る」
居酒屋さんを出て、酔い覚ましに夜の街を歩いた。
珍しく酔っぱらっているのか創くんのテンションが高くて、意味もなくじゃんけんグリコが行われた。全然勝てなくて、創くんがどんどん離れて行ってしまう。
「創くん、待って」
「お前、じゃんけん弱いな――」
遠くに離れて、私の知らないどこかに行ってしまう。
手を伸ばしても、もう届かないくらい遠くに。
「…ぐ・り・こ」
グリコじゃ全然追いつけな――いっ
「ぐりこ・ぐりこ・ぐりこーげんっ‼」
創くんが消えてしまいそうで、私の前からいなくなってしまいそうで、あからさまにせこい手を使って一気に創くんまでたどり着き、
「…ははは。何、必死になってんだよ」
笑ってる創くんにしがみ付いた。
「創くんが好き」
口からするりと滑り落ちた言葉は秋風に乗って夜気に溶ける。街灯に照らされた創くんの影に音もなく消えてゆく。
「…うん。ありがとう」
柔らかくて優しい創くんの声。
いつも。過去3回の告白も、創くんは優しく「ありがとう」って言った。
そしてそのまま、何も変わらなかった。
もどかしくていたたまれなくて切なくて、
「…好きだよっ。私はずっと、創くんが好きだから‼」
つかんだ創くんのシャツを引き寄せて、背伸びしてキスした。
創くんの頬に触れた唇が震える。
急にものすごい熱さが身体の内側から湧き上がってきて、アルコール度数の高いお酒を飲んだ時よりも酔いが回って、頭がくらくらして火を噴きそうなくらい顔が熱くなった。
「お、…おやすみなさい、創くんっ」
創くんの顔が見れなくなって、走って逃げた。
創くんが何か言ったような気がしたけど、聞こえなかった。
息が切れて、足がもつれて、転びそうになったけど止まらずに走った。
振り向けない。頬が熱い。創くんが好き。
キス。してしまった。
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