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3章.困惑マインド
06.
「…あのさあ。くどいようだけど、ななせくんが忘れられないなら、なおさら創くんとやるべきだよ。言ったじゃん。経験しないと分からないって」
見かねたようにセレナが繰り返す。
セレナの言いたいことは分かる。分かるんだよ。
「…私、欲求不満なのかなあ。身体めあて。なのかなあ」
ちょっと自分が最低に思えてきて、机に頭を打ち付けたまま、額で支えてグリグリのたうつ。
「だーからっ‼ それを創くんで確かめて来なよ。つーか、もう、とっとと上書きされて来い!」
いい加減、しびれを切らしたらしいセレナに手刀で後頭部をど突かれた。
「上書き、…」
突っ伏したまま後頭部を手でさする。
「だって。ななせくんとはどうにもならないんでしょ? 女の子を渡り歩いてて、星の数ほど経験あって、あんたもその中の一人で。いつも食べてる高級黒毛和牛の中に、今夜はちょっとオージー・ビーフ混ざってたかな、くらいのノリなわけでしょ?」
オージー・ビーフね。上手いこと言ったね。
ななせ、私の気合いの入った半裸を見ても無反応だったもんな。
思い出して、乾いた笑いが込み上げる。
「普通でいられる自信があるから、あんたの頼みを引き受けたんだよ。だったらさ、忘れる努力をした方がいいよ。家族だから毎日会っちゃうじゃん? 忘れなきゃ、あんたがつらくなるだけだよ」
セレナの言う通り。なんだろうな。
家族だから。どうにもならない。近いけど遠い。このまま引きずっていたら気まずいだけ。つらいだけ。
それなのに。
スマートフォンが小さく震えて、メッセージが届いた。
『日曜、どこ行きたい? ①公園 ②遊園地 ③動物園 ④映画館 ⑤タワー』
創くんからだった。
「⑥創くんの部屋」
「ちょっと、セレナっ、何するのっ!」
ナチュラルにスマホを奪って返信しようとするセレナから、慌ててスマホを取り返す。
「いいじゃん。順調じゃん。どうせそうなるんじゃん」
セレナに肘で小突かれながら、
上書き。
心の一番奥深いところで、誰にも聞こえないように、頑なな自分が小さく小さくつぶやいた。
…したくない。
「え? なんか言った? てかさ、切り干しアレンジどうなった? この後コウくんに会うんだけど」
「断然、春巻きです。でも、勿体ないからコロッケ推しです」
「なんじゃそら」
*****
「お前、また切り干し作ってんの?」
きゃ―――っ、ななせっ‼︎
近い。近い。近い。死ぬ。
思考が迷宮入りして、いっそ何も考えられずに、大学から帰って夕ご飯の準備をしていたら、後ろからななせにのぞき込まれた。
ていうか。
「…春巻き。よっぽど気に入ったんだな」
手が勝手に切り干し大根を煮ている―――っ‼
無意識に春巻きの皮まで切り分けてる――っ‼
…恐るべし、ななせ引力。
「まーいいけど、明日はやめろよ」
ななせが私の頭に手をのせてその上に顎をのせた。
きゃあ―――っっ、ななせの息がかかるっ‼
もう、ありとあらゆる神経がななせと触れ合う髪の毛に集中する。
勿論、息も出来ない。
人が窒息死しそうになっているのに、ななせは気にする風もなく、私の頭の上から長い腕を伸ばして彩りのために洗っておいたミニトマトを摘まんだ。
なにその余裕。トマト食べてる場合か!
「…明日はナスだくの麻婆炒めにする」
止めてた息を一気に吐き出し、肩で息をする。
こっちは眠れないし息も出来ないっていうのに。ななせのバカ。
「は? 豆腐にしろよ」
「絶っ対‼ ナス‼」
ありえないほど力を込めたら、
「…出たよ、ナス婆」
ななせに後ろから両頬を摘ままれた。
きゃああ―――っ、伸びる―――っ
ていうか。無邪気に心を撃ち抜くのやめて欲しい。
ななせの滑らかな指は頬っぺだけじゃなく心を掴んじゃうんだよ。
「お前、なんか調子悪いの?」
ななせが頬を摘まんだまま後ろから私をのぞき込む。
「マジで顔色ナスみたいだし、…って、なんか、赤いし」
お前のせいだよっっ
「なんっ、…でもないよ。ファンデーション変えただけだよ。ななせはあっち行っててよ」
これ以上ななせといたらいろいろ崩壊してしまう。
強引にななせをリビングに追いやると、付けっぱなしのテレビにななせが映っていた。
見かねたようにセレナが繰り返す。
セレナの言いたいことは分かる。分かるんだよ。
「…私、欲求不満なのかなあ。身体めあて。なのかなあ」
ちょっと自分が最低に思えてきて、机に頭を打ち付けたまま、額で支えてグリグリのたうつ。
「だーからっ‼ それを創くんで確かめて来なよ。つーか、もう、とっとと上書きされて来い!」
いい加減、しびれを切らしたらしいセレナに手刀で後頭部をど突かれた。
「上書き、…」
突っ伏したまま後頭部を手でさする。
「だって。ななせくんとはどうにもならないんでしょ? 女の子を渡り歩いてて、星の数ほど経験あって、あんたもその中の一人で。いつも食べてる高級黒毛和牛の中に、今夜はちょっとオージー・ビーフ混ざってたかな、くらいのノリなわけでしょ?」
オージー・ビーフね。上手いこと言ったね。
ななせ、私の気合いの入った半裸を見ても無反応だったもんな。
思い出して、乾いた笑いが込み上げる。
「普通でいられる自信があるから、あんたの頼みを引き受けたんだよ。だったらさ、忘れる努力をした方がいいよ。家族だから毎日会っちゃうじゃん? 忘れなきゃ、あんたがつらくなるだけだよ」
セレナの言う通り。なんだろうな。
家族だから。どうにもならない。近いけど遠い。このまま引きずっていたら気まずいだけ。つらいだけ。
それなのに。
スマートフォンが小さく震えて、メッセージが届いた。
『日曜、どこ行きたい? ①公園 ②遊園地 ③動物園 ④映画館 ⑤タワー』
創くんからだった。
「⑥創くんの部屋」
「ちょっと、セレナっ、何するのっ!」
ナチュラルにスマホを奪って返信しようとするセレナから、慌ててスマホを取り返す。
「いいじゃん。順調じゃん。どうせそうなるんじゃん」
セレナに肘で小突かれながら、
上書き。
心の一番奥深いところで、誰にも聞こえないように、頑なな自分が小さく小さくつぶやいた。
…したくない。
「え? なんか言った? てかさ、切り干しアレンジどうなった? この後コウくんに会うんだけど」
「断然、春巻きです。でも、勿体ないからコロッケ推しです」
「なんじゃそら」
*****
「お前、また切り干し作ってんの?」
きゃ―――っ、ななせっ‼︎
近い。近い。近い。死ぬ。
思考が迷宮入りして、いっそ何も考えられずに、大学から帰って夕ご飯の準備をしていたら、後ろからななせにのぞき込まれた。
ていうか。
「…春巻き。よっぽど気に入ったんだな」
手が勝手に切り干し大根を煮ている―――っ‼
無意識に春巻きの皮まで切り分けてる――っ‼
…恐るべし、ななせ引力。
「まーいいけど、明日はやめろよ」
ななせが私の頭に手をのせてその上に顎をのせた。
きゃあ―――っっ、ななせの息がかかるっ‼
もう、ありとあらゆる神経がななせと触れ合う髪の毛に集中する。
勿論、息も出来ない。
人が窒息死しそうになっているのに、ななせは気にする風もなく、私の頭の上から長い腕を伸ばして彩りのために洗っておいたミニトマトを摘まんだ。
なにその余裕。トマト食べてる場合か!
「…明日はナスだくの麻婆炒めにする」
止めてた息を一気に吐き出し、肩で息をする。
こっちは眠れないし息も出来ないっていうのに。ななせのバカ。
「は? 豆腐にしろよ」
「絶っ対‼ ナス‼」
ありえないほど力を込めたら、
「…出たよ、ナス婆」
ななせに後ろから両頬を摘ままれた。
きゃああ―――っ、伸びる―――っ
ていうか。無邪気に心を撃ち抜くのやめて欲しい。
ななせの滑らかな指は頬っぺだけじゃなく心を掴んじゃうんだよ。
「お前、なんか調子悪いの?」
ななせが頬を摘まんだまま後ろから私をのぞき込む。
「マジで顔色ナスみたいだし、…って、なんか、赤いし」
お前のせいだよっっ
「なんっ、…でもないよ。ファンデーション変えただけだよ。ななせはあっち行っててよ」
これ以上ななせといたらいろいろ崩壊してしまう。
強引にななせをリビングに追いやると、付けっぱなしのテレビにななせが映っていた。
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