さんかく片想い ―彼に抱かれるために、抱かれた相手が忘れられない。三角形の恋の行方は?【完結】

remo

文字の大きさ
25 / 41
4章.唯一ロンギング

04.

しおりを挟む
「長年のしつこ過ぎる片想いが実り、みにくいアヒルの子は王子様と身も心も結ばれましたとさ。めでたしめでたし、…の割にはブスじゃない? え、ブス過ぎるでしょ⁉」

翌日。
クッキングサークルの切り干し大根アレンジ実習に参加した途端、ブスが過ぎて、セレナに絞められた。

「どうした白鳥! 醜いままやん! ていうか、ブス‼ これはもう純粋な童話の世界を壊した罪で逮捕っ」

セレナ選手のヘッドロックが鮮やかに決まり、

「ま、参りました、…っ」
「うむ。苦しゅうないぞ、吐け」

目が腫れすぎて2%しか開かないわけを洗いざらい吐かされたのだった。

「出来なかった、ってあんたそりゃあ、…」

話を聞いたセレナが「しっかし、ブスだな」と私の顔を眺めながら言葉を濁す。コウ先輩がせっせと食材を準備してくれながらそんな私たちを見守っている。

コウ先輩、セレナ、私は1チームで、コウ先輩発案の切り干し肉じゃがを作ることになった。本日のサークル実習は、結局、チームごとに一押しの切り干しアレンジ料理を作り、試食してプチ品評会をすることに決定。我がチームは肉じゃがリメイクコロッケをおまけに添えて上位入賞を狙う予定。

なんだけど、如何せん目が開かなくて今のところ私は戦力外。

「アヒルが白鳥になる前に兄弟に横恋慕して海の泡と消えた、…みたいな?」
「セレナ、お前ちゃんとアンデルセン読んでる? 世界観壊してるのお前じゃね?」
「いや、コウくん。だってさ、…」

なんだかんだ言いながら、セレナとコウ先輩は息ぴったりで、切り干し大根を鍋に入れ、火にかけ、調味料を混ぜて、切った野菜と共に煮ていく。こんな風に日ごろから一緒にキッチンに立ってるのかな、と思うとうらやましい気が沸き起こる。

「別にいいじゃん。弟くんに告ったら? 血のつながりないんでしょ。問題ないじゃん」

うじうじ悩んでいる私を横目に、コウ先輩がさっさと豚小間を入れて更に煮込んでいく。

「えええっ、コウくん。ななせくんはその気ないんだよ? 振られたら毎日顔合わせるのに気まずすぎるよ」
「そうかぁ? どうでも良かったら手出さないよ。それこそ気まずくなるだろ」
「でも。来るもの拒まず、ってこともあるじゃん」
「慣れてるなら余計、覚悟決めてなんじゃないの」
「…うーん、なるほど」

コウ先輩とセレナの掛け合いを聞きながら、自分でもつかみきれない気持ちを振り返る。

創くんが好きだった。100%揺るぎなく。
でも振られて。ななせに救ってもらった。
それから、ななせが気になって仕方ない。
そばに居ると嬉しくて、拒絶されたら自分が壊れそうになるくらい。

「…私、ななせのこと好き、なのかな」

出る幕がないので調理器具を洗いながらつぶやくと、コウ先輩とセレナに注目されていた。

「まずはそこからか」
「女心と秋の空、か」

だから泣けてくるのかな。

品評会では切り干しカルボナーラが圧倒的な人気で、ハッシュド切り干しが2位につけた。サラダ人気もまずまずで、我がチームは最下位に終わり、コウ先輩がリベンジを誓っていた。切り干し=煮物の固定概念に囚われていてはダメらしい。

自分の気持ちを持て余したまま家に帰ると、まだ誰もいなかった。

よし。
ここは気持ちを切り替えて洋風切り干し料理を作ってみようと思い立ち、キッチンに立つ。バターでベーコンを炒めて、戻した切り干し大根を炒めて、塩コショウで味付けしてから、…

「つぼみ。今日も切り干し春巻きなの?」

せっせと料理に勤しんでいたら、いつの間にか帰宅したらしい母に言われて我に返る。

手が勝手に切り干しを包んで春巻きを揚げていた。

NO―――――っ‼ Oh, my God―――――っ‼
誰かこの春巻きループを止めて―――――っっ

「よっぽど好きなのね。まあ、いいけどね」

母が揚げたての春巻きを摘まんで頬張る。

「うふふ、パリパリ。やあねえ、またビール飲みたくなっちゃうわ」

とかなんとか言い訳をして、毎日飲んでいるビールをそそくさと取りに行く母の後姿を見ながら心の中で謝った。

ごめんね、私。
よっぽど好き、なのかもしれない。

自分でも春巻きを摘まんで食べてみる。

『チーズ、正解だったね』

また、ななせが満足そうに笑ってくれたらいいのに。

夕ご飯を終えて、お風呂も終えて、母が寝室に引き上げても、まだななせは帰ってこない。今朝、また起こさないで出てきてしまった。これ以上拒絶されたら普通にしていられる自信がない。ななせに嫌われるのが怖い。

「ななせー、洗濯物置いとくよー、…」

いないって分かっているこの隙に、ななせの部屋のドアをそっと開けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

好きな人の好きな人

ぽぽ
恋愛
"私には何年も思い続ける初恋相手がいる。" 初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。 恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。 そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。

隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり

鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。 でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...