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4章.唯一ロンギング
04.
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「長年のしつこ過ぎる片想いが実り、みにくいアヒルの子は王子様と身も心も結ばれましたとさ。めでたしめでたし、…の割にはブスじゃない? え、ブス過ぎるでしょ⁉」
翌日。
クッキングサークルの切り干し大根アレンジ実習に参加した途端、ブスが過ぎて、セレナに絞められた。
「どうした白鳥! 醜いままやん! ていうか、ブス‼ これはもう純粋な童話の世界を壊した罪で逮捕っ」
セレナ選手のヘッドロックが鮮やかに決まり、
「ま、参りました、…っ」
「うむ。苦しゅうないぞ、吐け」
目が腫れすぎて2%しか開かないわけを洗いざらい吐かされたのだった。
「出来なかった、ってあんたそりゃあ、…」
話を聞いたセレナが「しっかし、ブスだな」と私の顔を眺めながら言葉を濁す。コウ先輩がせっせと食材を準備してくれながらそんな私たちを見守っている。
コウ先輩、セレナ、私は1チームで、コウ先輩発案の切り干し肉じゃがを作ることになった。本日のサークル実習は、結局、チームごとに一押しの切り干しアレンジ料理を作り、試食してプチ品評会をすることに決定。我がチームは肉じゃがリメイクコロッケをおまけに添えて上位入賞を狙う予定。
なんだけど、如何せん目が開かなくて今のところ私は戦力外。
「アヒルが白鳥になる前に兄弟に横恋慕して海の泡と消えた、…みたいな?」
「セレナ、お前ちゃんとアンデルセン読んでる? 世界観壊してるのお前じゃね?」
「いや、コウくん。だってさ、…」
なんだかんだ言いながら、セレナとコウ先輩は息ぴったりで、切り干し大根を鍋に入れ、火にかけ、調味料を混ぜて、切った野菜と共に煮ていく。こんな風に日ごろから一緒にキッチンに立ってるのかな、と思うとうらやましい気が沸き起こる。
「別にいいじゃん。弟くんに告ったら? 血のつながりないんでしょ。問題ないじゃん」
うじうじ悩んでいる私を横目に、コウ先輩がさっさと豚小間を入れて更に煮込んでいく。
「えええっ、コウくん。ななせくんはその気ないんだよ? 振られたら毎日顔合わせるのに気まずすぎるよ」
「そうかぁ? どうでも良かったら手出さないよ。それこそ気まずくなるだろ」
「でも。来るもの拒まず、ってこともあるじゃん」
「慣れてるなら余計、覚悟決めてなんじゃないの」
「…うーん、なるほど」
コウ先輩とセレナの掛け合いを聞きながら、自分でもつかみきれない気持ちを振り返る。
創くんが好きだった。100%揺るぎなく。
でも振られて。ななせに救ってもらった。
それから、ななせが気になって仕方ない。
そばに居ると嬉しくて、拒絶されたら自分が壊れそうになるくらい。
「…私、ななせのこと好き、なのかな」
出る幕がないので調理器具を洗いながらつぶやくと、コウ先輩とセレナに注目されていた。
「まずはそこからか」
「女心と秋の空、か」
だから泣けてくるのかな。
品評会では切り干しカルボナーラが圧倒的な人気で、ハッシュド切り干しが2位につけた。サラダ人気もまずまずで、我がチームは最下位に終わり、コウ先輩がリベンジを誓っていた。切り干し=煮物の固定概念に囚われていてはダメらしい。
自分の気持ちを持て余したまま家に帰ると、まだ誰もいなかった。
よし。
ここは気持ちを切り替えて洋風切り干し料理を作ってみようと思い立ち、キッチンに立つ。バターでベーコンを炒めて、戻した切り干し大根を炒めて、塩コショウで味付けしてから、…
「つぼみ。今日も切り干し春巻きなの?」
せっせと料理に勤しんでいたら、いつの間にか帰宅したらしい母に言われて我に返る。
手が勝手に切り干しを包んで春巻きを揚げていた。
NO―――――っ‼ Oh, my God―――――っ‼
誰かこの春巻きループを止めて―――――っっ
「よっぽど好きなのね。まあ、いいけどね」
母が揚げたての春巻きを摘まんで頬張る。
「うふふ、パリパリ。やあねえ、またビール飲みたくなっちゃうわ」
とかなんとか言い訳をして、毎日飲んでいるビールをそそくさと取りに行く母の後姿を見ながら心の中で謝った。
ごめんね、私。
よっぽど好き、なのかもしれない。
自分でも春巻きを摘まんで食べてみる。
『チーズ、正解だったね』
また、ななせが満足そうに笑ってくれたらいいのに。
夕ご飯を終えて、お風呂も終えて、母が寝室に引き上げても、まだななせは帰ってこない。今朝、また起こさないで出てきてしまった。これ以上拒絶されたら普通にしていられる自信がない。ななせに嫌われるのが怖い。
「ななせー、洗濯物置いとくよー、…」
いないって分かっているこの隙に、ななせの部屋のドアをそっと開けた。
翌日。
クッキングサークルの切り干し大根アレンジ実習に参加した途端、ブスが過ぎて、セレナに絞められた。
「どうした白鳥! 醜いままやん! ていうか、ブス‼ これはもう純粋な童話の世界を壊した罪で逮捕っ」
セレナ選手のヘッドロックが鮮やかに決まり、
「ま、参りました、…っ」
「うむ。苦しゅうないぞ、吐け」
目が腫れすぎて2%しか開かないわけを洗いざらい吐かされたのだった。
「出来なかった、ってあんたそりゃあ、…」
話を聞いたセレナが「しっかし、ブスだな」と私の顔を眺めながら言葉を濁す。コウ先輩がせっせと食材を準備してくれながらそんな私たちを見守っている。
コウ先輩、セレナ、私は1チームで、コウ先輩発案の切り干し肉じゃがを作ることになった。本日のサークル実習は、結局、チームごとに一押しの切り干しアレンジ料理を作り、試食してプチ品評会をすることに決定。我がチームは肉じゃがリメイクコロッケをおまけに添えて上位入賞を狙う予定。
なんだけど、如何せん目が開かなくて今のところ私は戦力外。
「アヒルが白鳥になる前に兄弟に横恋慕して海の泡と消えた、…みたいな?」
「セレナ、お前ちゃんとアンデルセン読んでる? 世界観壊してるのお前じゃね?」
「いや、コウくん。だってさ、…」
なんだかんだ言いながら、セレナとコウ先輩は息ぴったりで、切り干し大根を鍋に入れ、火にかけ、調味料を混ぜて、切った野菜と共に煮ていく。こんな風に日ごろから一緒にキッチンに立ってるのかな、と思うとうらやましい気が沸き起こる。
「別にいいじゃん。弟くんに告ったら? 血のつながりないんでしょ。問題ないじゃん」
うじうじ悩んでいる私を横目に、コウ先輩がさっさと豚小間を入れて更に煮込んでいく。
「えええっ、コウくん。ななせくんはその気ないんだよ? 振られたら毎日顔合わせるのに気まずすぎるよ」
「そうかぁ? どうでも良かったら手出さないよ。それこそ気まずくなるだろ」
「でも。来るもの拒まず、ってこともあるじゃん」
「慣れてるなら余計、覚悟決めてなんじゃないの」
「…うーん、なるほど」
コウ先輩とセレナの掛け合いを聞きながら、自分でもつかみきれない気持ちを振り返る。
創くんが好きだった。100%揺るぎなく。
でも振られて。ななせに救ってもらった。
それから、ななせが気になって仕方ない。
そばに居ると嬉しくて、拒絶されたら自分が壊れそうになるくらい。
「…私、ななせのこと好き、なのかな」
出る幕がないので調理器具を洗いながらつぶやくと、コウ先輩とセレナに注目されていた。
「まずはそこからか」
「女心と秋の空、か」
だから泣けてくるのかな。
品評会では切り干しカルボナーラが圧倒的な人気で、ハッシュド切り干しが2位につけた。サラダ人気もまずまずで、我がチームは最下位に終わり、コウ先輩がリベンジを誓っていた。切り干し=煮物の固定概念に囚われていてはダメらしい。
自分の気持ちを持て余したまま家に帰ると、まだ誰もいなかった。
よし。
ここは気持ちを切り替えて洋風切り干し料理を作ってみようと思い立ち、キッチンに立つ。バターでベーコンを炒めて、戻した切り干し大根を炒めて、塩コショウで味付けしてから、…
「つぼみ。今日も切り干し春巻きなの?」
せっせと料理に勤しんでいたら、いつの間にか帰宅したらしい母に言われて我に返る。
手が勝手に切り干しを包んで春巻きを揚げていた。
NO―――――っ‼ Oh, my God―――――っ‼
誰かこの春巻きループを止めて―――――っっ
「よっぽど好きなのね。まあ、いいけどね」
母が揚げたての春巻きを摘まんで頬張る。
「うふふ、パリパリ。やあねえ、またビール飲みたくなっちゃうわ」
とかなんとか言い訳をして、毎日飲んでいるビールをそそくさと取りに行く母の後姿を見ながら心の中で謝った。
ごめんね、私。
よっぽど好き、なのかもしれない。
自分でも春巻きを摘まんで食べてみる。
『チーズ、正解だったね』
また、ななせが満足そうに笑ってくれたらいいのに。
夕ご飯を終えて、お風呂も終えて、母が寝室に引き上げても、まだななせは帰ってこない。今朝、また起こさないで出てきてしまった。これ以上拒絶されたら普通にしていられる自信がない。ななせに嫌われるのが怖い。
「ななせー、洗濯物置いとくよー、…」
いないって分かっているこの隙に、ななせの部屋のドアをそっと開けた。
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