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4章.唯一ロンギング
05.
昨日の夜とほとんど変わらないななせの部屋。ただベッドにななせがいない。
「…お邪魔します」
なぜか改まって、部屋に足を踏み入れる。緊張して、頭の後ろで心臓の音が響いている。
ななせの部屋は、白とグレーが基調で物が少ない。
ベッドとチェストと本棚と。音楽関係の電子機器が幾つか。
忍び足で近寄って、ベッドの上に洗濯物を置いた。
ななせが寝ていた跡がある。ななせのベッド。
近づいたら、ななせの匂いがした。
力が抜けて床に座り込み、ななせのベッドに頭を付けた。
あんなに泣いたのに。また涙が滲む。
これ以上ブスになりたくないのにな。
ななせに包まれて眠ったのが、夢だったような気さえする。
私、ここで。あんなにななせに近かったのに。
あんな風にもう一度。ななせの一番近くに行きたい。
でもそんなの。ななせには迷惑なだけかもしれない。
考えても分からなくて。
どうしたいのか、どうすればいいのか、どんなに考えても分からなくて。
慣れない思考と寝不足が祟って、急激に眠気に襲われた。
ななせ、…
「…マジか」
夢の中で何度起きてもまだ寝ているような状態。
頭と身体が分離していて夢と現実のはざまにいる。
ななせが部屋に帰ってきて、私を見つけて絶句していた。
え、違うから。洗濯物置きに来ただけだから。寝てたんじゃないから。
匂いとか嗅いでないから。すぐ出て行くから。ホントすぐだから。
起きなきゃと思うのに、身体が動かない。
早く。早く出ていけ、私。早く動け、足。
ななせの表情は分からないけど、また嫌がられたら、夢でもちょっと立ち直れない。
ななせの視線を感じる。
わ―――、ごめんなさいっ
ホントはちょっとだけ匂い嗅ぎました! でもよだれは垂らしてないです―――っ
いたたまれなくなって必死で言い訳する。
ごめんなさい、ごめんなさい、すぐ出て行くから―――っ
でも足が動かない。目が開かない。顔を上げられない。
もがいてももがいても身体が動かない。
「…勘弁しろよ」
少しかすれたななせの声。
どうして。言葉とは裏腹に優しく響く。
ななせの声が好き。
怖い時、寂しい時、眠れない時。
いつも歌ってくれた。心地よく溶ける甘い声。
ななせ、…
髪にななせの長い指が優しく触れる。瞼にななせの柔らかい唇が温もりを残す。
どうしよう。ななせの指が唇が好き。
ななせの匂いが。ななせの温もりが。
…好き。
「やば、爆睡、…っっ」
目を覚ましたら、まだななせの部屋にいて、ちゃっかりななせのベッドに潜り込んでいて、しっかり布団にくるまっていた。
慌てて起き上がり、部屋を見回す。
ななせの気配はどこにもない。
夢。…夢、か。
壊れそうな勢いでバグバグしている心臓をなだめてななせのベッドから降りた。
ななせ、まだ帰ってきてないのかな。…って、もうすっかり朝じゃん‼ 寝過ぎた。やばい。ななせのベッドは危険だっ
焦って部屋に戻り、身支度を整えてからリビングに行くと、朝食を終えて、出勤しようとしている母がいた。
「おはよう、つぼみ。あんた最近遅いんじゃない? ななせ、もうとっくに行っちゃったわよ」
「…え」
心臓が二段抜かしで跳ね上がる。
とっくに行ったってことは、帰ってきたってことで、じゃあ昨夜のあれは。
夢じゃ、…ない?
「今週末がドームライブだから忙しいみたい。リハーサルも追い込みだからしばらく帰ってこれないって。事務所がホテル手配してくれてるらしくて、荷物持ってったわ」
「そう、…なんだ」
急激に跳ね上がった心臓が、今度は一気に縮こまる。
しばらくななせに会えないんだ。
心に穴が開いたような寂しさを感じかけて、ふと気づく。
まさか、ななせ、…
『俺、他人がいると寝れねーもん』
私が居たから出て行ったんじゃないよね⁉
今度はズーンとショックで心臓が冷え込む。心臓の乱高下。朝からせわしない。このところちょっと心臓に負荷かけすぎかなと思う。けども。
私がベッド占領したから? こっそり匂い嗅いでたから⁉
落ち込まずにはいられない。
えええ―――、このまま、気まずいまま会えないの、嫌だ―――っ
「そういうわけで、もう行くけど、戸締りしっかりね。あ、そういえば、ななせ、あんたの春巻き食べてたよ」
慌ただしく出かけていく母を見送ってから、シンクに置きっぱなしになっているお皿を見て涙が込み上げてきた。
…ななせ。
春巻き食べてくれたんだ。
『まーいいけど、明日はやめろよ』
もう絶対、飽き飽きしてるのに。
『勘弁しろよ』
絶対絶対、私のこと呆れてるのに。
ななせの優しい指の感触。瞼に触れた柔らかい唇。
ななせが恋しい。ななせが愛しい。
ななせ。会いたいよ。
「…お邪魔します」
なぜか改まって、部屋に足を踏み入れる。緊張して、頭の後ろで心臓の音が響いている。
ななせの部屋は、白とグレーが基調で物が少ない。
ベッドとチェストと本棚と。音楽関係の電子機器が幾つか。
忍び足で近寄って、ベッドの上に洗濯物を置いた。
ななせが寝ていた跡がある。ななせのベッド。
近づいたら、ななせの匂いがした。
力が抜けて床に座り込み、ななせのベッドに頭を付けた。
あんなに泣いたのに。また涙が滲む。
これ以上ブスになりたくないのにな。
ななせに包まれて眠ったのが、夢だったような気さえする。
私、ここで。あんなにななせに近かったのに。
あんな風にもう一度。ななせの一番近くに行きたい。
でもそんなの。ななせには迷惑なだけかもしれない。
考えても分からなくて。
どうしたいのか、どうすればいいのか、どんなに考えても分からなくて。
慣れない思考と寝不足が祟って、急激に眠気に襲われた。
ななせ、…
「…マジか」
夢の中で何度起きてもまだ寝ているような状態。
頭と身体が分離していて夢と現実のはざまにいる。
ななせが部屋に帰ってきて、私を見つけて絶句していた。
え、違うから。洗濯物置きに来ただけだから。寝てたんじゃないから。
匂いとか嗅いでないから。すぐ出て行くから。ホントすぐだから。
起きなきゃと思うのに、身体が動かない。
早く。早く出ていけ、私。早く動け、足。
ななせの表情は分からないけど、また嫌がられたら、夢でもちょっと立ち直れない。
ななせの視線を感じる。
わ―――、ごめんなさいっ
ホントはちょっとだけ匂い嗅ぎました! でもよだれは垂らしてないです―――っ
いたたまれなくなって必死で言い訳する。
ごめんなさい、ごめんなさい、すぐ出て行くから―――っ
でも足が動かない。目が開かない。顔を上げられない。
もがいてももがいても身体が動かない。
「…勘弁しろよ」
少しかすれたななせの声。
どうして。言葉とは裏腹に優しく響く。
ななせの声が好き。
怖い時、寂しい時、眠れない時。
いつも歌ってくれた。心地よく溶ける甘い声。
ななせ、…
髪にななせの長い指が優しく触れる。瞼にななせの柔らかい唇が温もりを残す。
どうしよう。ななせの指が唇が好き。
ななせの匂いが。ななせの温もりが。
…好き。
「やば、爆睡、…っっ」
目を覚ましたら、まだななせの部屋にいて、ちゃっかりななせのベッドに潜り込んでいて、しっかり布団にくるまっていた。
慌てて起き上がり、部屋を見回す。
ななせの気配はどこにもない。
夢。…夢、か。
壊れそうな勢いでバグバグしている心臓をなだめてななせのベッドから降りた。
ななせ、まだ帰ってきてないのかな。…って、もうすっかり朝じゃん‼ 寝過ぎた。やばい。ななせのベッドは危険だっ
焦って部屋に戻り、身支度を整えてからリビングに行くと、朝食を終えて、出勤しようとしている母がいた。
「おはよう、つぼみ。あんた最近遅いんじゃない? ななせ、もうとっくに行っちゃったわよ」
「…え」
心臓が二段抜かしで跳ね上がる。
とっくに行ったってことは、帰ってきたってことで、じゃあ昨夜のあれは。
夢じゃ、…ない?
「今週末がドームライブだから忙しいみたい。リハーサルも追い込みだからしばらく帰ってこれないって。事務所がホテル手配してくれてるらしくて、荷物持ってったわ」
「そう、…なんだ」
急激に跳ね上がった心臓が、今度は一気に縮こまる。
しばらくななせに会えないんだ。
心に穴が開いたような寂しさを感じかけて、ふと気づく。
まさか、ななせ、…
『俺、他人がいると寝れねーもん』
私が居たから出て行ったんじゃないよね⁉
今度はズーンとショックで心臓が冷え込む。心臓の乱高下。朝からせわしない。このところちょっと心臓に負荷かけすぎかなと思う。けども。
私がベッド占領したから? こっそり匂い嗅いでたから⁉
落ち込まずにはいられない。
えええ―――、このまま、気まずいまま会えないの、嫌だ―――っ
「そういうわけで、もう行くけど、戸締りしっかりね。あ、そういえば、ななせ、あんたの春巻き食べてたよ」
慌ただしく出かけていく母を見送ってから、シンクに置きっぱなしになっているお皿を見て涙が込み上げてきた。
…ななせ。
春巻き食べてくれたんだ。
『まーいいけど、明日はやめろよ』
もう絶対、飽き飽きしてるのに。
『勘弁しろよ』
絶対絶対、私のこと呆れてるのに。
ななせの優しい指の感触。瞼に触れた柔らかい唇。
ななせが恋しい。ななせが愛しい。
ななせ。会いたいよ。
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