さんかく片想い ―彼に抱かれるために、抱かれた相手が忘れられない。三角形の恋の行方は?【完結】

remo

文字の大きさ
28 / 41
4章.唯一ロンギング

07.

私。馬鹿じゃないのかな。
何やってるんだろう。恥ずかし過ぎる。

「どうも、お騒がせしてすみませんでした、…」

荷物を拾い集めて顔を上げられないままフロントマンに頭を下げた。

考えてみれば当然だ。このご時世。簡単に個人情報を明かせるわけないし、手作り品の差し入れなんて受け取れないに決まってる。

馬鹿だ。考えなし過ぎる。本当に恥ずかしい。
こんな姉がいると知られたら、ななせに迷惑をかけてしまう。

「…ご身内の方でしたら、直接ご連絡をお取りになられては」

背を向けて歩き始めた私に同情してくれたのか、フロントマンが声をかけてくれた。

「…そう、ですね」

振り返ってもう一度頭を下げると、フロントを離れた。

いぶかしがられているのかもしれない。
綺麗で、居るだけで人が群がってくる、花みたいなななせ。
テレビやCMに出て、ファンもたくさんいて、ドームライブをやって、世間の注目を集めているななせ。
そんな世界の人に、こんなモサい姉がいるなんて。

連絡できるもんならしてみろよ、って。思われたのかも。

差し入れの入った袋を握りしめて奥歯を噛みしめた。

連絡なんてできるわけない。
彼女でもないのに、「会いたい」なんて言えない。

こんなもの持ってきて、ななせの役に立ちたいなんて滑稽だ。
ななせはもう二十歳で大人で仕事もしていて、事務所だってついているんだから。姉の立ち入る隙間なんてどこにもない。

ホテルから出るとすっかり日が落ちて、風も出ていた。来るときは必死で何も感じなかったけれど、やけに寒い。コートも着ないで飛び出してきたことを後悔した。どれだけ周りが見えていないんだろう。

都心の一等地、高級ホテルにイワシと大根と梅干。不似合いすぎて嗤える。
まるで、ななせと私、…

鼻の奥がツンとして、慌てて上を向いた。

都心の空は明るすぎて星が見えない。
都会の夜は人が多すぎて居場所がない。

もう。手が届かない。


どのくらい道端に立ち尽くしていたのか、何かが鳴っていると思ったら、バックの中でスマートフォンが振動を繰り返していた。

「つー? 今、どこにいる?」

タップすると、スマホの向こうから創くんの優しい声が聞こえた。
その声は、都会の雑踏の中行き交う人は皆他人で、行き先も分からずに一人途方に暮れていた私の、最後の一手を押した。

「今日学校来てたんだろ? 一緒に帰れるかと思ったのに、急いで出てったっていうから、何かあったのかと思って」

我慢していたのに。一粒こぼれると後から後から涙が溢れ出てきてしまう。

穏やかなバリトンを響かせていた創くんが、言葉を切って耳を澄ませる。

「…どうした?」

返事が出来ない。唇を噛みしめる。

「つー? …泣いてる?」

何も言わなかったのに、巧みに場所を聞き出した創くんがそれから間もなくタクシーで迎えに来てくれた。

「今日、イワシ餃子作ったんだってな」

創くんのマンションで、創くんがイワシ餃子を食べてくれた。

「美味しいよ、つー。つぼみが作る料理は、なんか懐かしい味がする」

どうして先に帰ったのか、なんであんな場所にいたのか、泣いていたわけも、何も、創くんは聞かなかった。

「渡辺先生が、恋は粘り勝ちだってやたら敵対心向けてくるんだけど」

ただ。温かい部屋で、ミルクティを淹れてくれた。私の頭を優しく撫でて、その広い胸を貸してくれた。

「俺、恋愛スキル低いからな。つけ込みどころが分からないんだけど。粘り強いのは、まあ自信あるから」

ただ。抱きしめて、背中を撫でながら、子守歌のようにとりとめもなく話し続けてくれた。

「ちなみにさぁ。今更どうでもいいかもしれないけど、あの日マリちゃんとは何もないから。だから何だって話なんだけど、一応そうだから」

創くんは優しくて、大人で、大好きな私のヒーローで、

「今更お前にカッコつけても仕方ないけどな。犬が怖くて逆走したら犬の糞踏んだこととか、お前全部知ってるもんな」

その胸の中は温かくて、まんまと泣き止んで笑っちゃうくらい居心地が良かったけれど、

「…つぼみが好きだよ」

胸がいっぱいで胸が痛かった。

たとえもう届かなくても。焦がれているのは。
熱望しているのは。切望しているのは。
唯一。ただ。1人だけだって。

優しい創くんの腕の中で、はっきり分かってしまった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

絶交した幼馴染と大学の合コンで再会した。

孤独な蛇
恋愛
中学生の浅野春樹は上級生と喧嘩騒動を起こしたことがあった。 その上、目つきが悪く地毛は茶髪のため不良少年のような扱いを受けて学校では孤立していた。 そんな中、幼馴染の深瀬志穂だけは春樹のことをいつも気遣ってくれていた。 同じ高校に行こうと声を掛けてくれる志穂の言葉に応えたい一心で受験勉強にも力を入れていた。 春樹にとって、学校で孤立していることは問題ではなかった。 昔から志穂が近くにいてくれるから……。 しかし、3年生なってから志穂の態度がよそよそしくなってきた。 登下校も別々になり、学校で話しかけてくることも無くなった。 志穂の心が自分から離れていってしまっている気がした春樹は焦っていた。 彼女と話がしたい。笑った顔が見たい。 志穂と一緒に帰ろうと、彼女が部活動を行っている体育館へ向かったのだが……。 そこで春樹が耳にしたのは、自分の悪口を言って部活の友達と楽しそうにしている志穂の声だった。 その瞬間、春樹の中で志穂に対する想いや信頼は……消滅した。

半年間、俺の妻になれ〜幼馴染CEOのありえない求婚から始まる仮初の溺愛新婚生活〜 崖っぷち元社畜、会社が倒産したら玉の輿に乗りました!?

とろみ
恋愛
出勤したら会社が無くなっていた。 高瀬由衣(たかせゆい)二十七歳。金ナシ、職ナシ、彼氏ナシ。ついでに結婚願望も丸でナシ。 明日までに家賃を用意できなければ更に家も無くなってしまう。でも絶対田舎の実家には帰りたくない!! そんな崖っぷちの由衣に救いの手を差し伸べたのは、幼なじみで大企業CEOの宮坂直人(みやさかなおと)。 「なぁ、俺と結婚しないか?」 直人は縁談よけのため、由衣に仮初の花嫁役を打診する。その代わりその間の生活費は全て直人が持つという。 便利な仮初の妻が欲しい直人と、金は無いけど東京に居続けたい由衣。 利害の一致から始まった愛のない結婚生活のはずが、気付けばいつの間にか世話焼きで独占欲強めな幼なじみCEOに囲い込まれていて――。

たとえ夜が姿を変えても ―過保護な兄の親友は、私を逃がさない―

佐竹りふれ
恋愛
重なる吐息、耳元を掠める熱、そして——兄の親友の、隠しきれない独占欲。 19歳のジャスミンにとって、過保護な兄の親友・セバスチャンは、自分を子供扱いする「第二の兄」のような存在だった。 しかし、初めてのパーティーの夜、その関係は一変する。 突然降ってきた、深く、すべてを奪うような口づけ。 「焦らず、お前のペースで進もう」 そう余裕たっぷりに微笑んだセバスチャン。 けれど、彼の言う「ゆっくり」は、翌朝には早くも崩れ始めていた。 学内の視線、兄の沈黙、そして二人きりのアパート――。 外堀が埋まっていくスピードに戸惑いながらも、ジャスミンは彼が隠し持つ「男」の顔に、抗えない好奇心を抱き始める。 「……どうする? 俺と一緒に、いけないことするか?」 余裕の仮面を被るセバスチャンに、あどけない顔で、けれど大胆に踏み込んでいくジャスミン。 理性を繋ぎ止めようとする彼を、翻弄し、追い詰めていくのは彼女の方で……。 「ゆっくり」なんて、ただの建前。 一度火がついた熱は、誰にも止められない。 兄の親友という境界線を軽々と飛び越え、加速しすぎる二人の溺愛ラブストーリー。

フッてくれてありがとう

nanahi
恋愛
【25th Anniversary CUP】にて、最終ランキング3位に入りました。投票してくださった皆様、読んでくださった皆様、ありがとうございました! 「子どもができたんだ」 ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。 「誰の」 私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。 でも私は知っている。 大学生時代の元カノだ。 「じゃあ。元気で」 彼からは謝罪の一言さえなかった。 下を向き、私はひたすら涙を流した。 それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。 過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

仮面王の花嫁

松雪
恋愛
婚約者を腹違いの妹に奪われ、新しい相手も見つからず修道院に行く覚悟を決めたルチア。修道女となるため髪を切った日の夜、王城から「国王がルチアを妻に望んでいる」という書簡を持った使者がやって来た。 しかし、従兄弟であり恋仲だったニールが国王のせいで死に至った過去を持つルチアは、国王からの求婚を喜べずーー。

溺愛のフリから2年後は。

橘しづき
恋愛
 岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。    そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。    でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?

【完結】付き合ってもいないのに、幼なじみの佐藤がプロポーズしてきた

ぽぽよ
恋愛
「俺らさ、結婚しない?」 三十二歳、独身同士。 幼なじみの佐藤が、たこ焼きパーティの最中に突然言い出した。 付き合ってもないのに。 夢見てた甘いプロポーズじゃないけれど、佐藤となら居心地いいし、給料もあるし、嫁姑問題もないし、性格も知ってる。 断る理由が、ない。 こうして、交際0日で結婚することが決まった。 「とりあえず同棲すっか」 軽いノリで決まってゆく未来。 ゆるっとだらっと流れていく物語。 ※本編は全7話。 ※スパダリは一人もいません笑