さんかく片想い ―彼に抱かれるために、抱かれた相手が忘れられない。三角形の恋の行方は?【完結】

remo

文字の大きさ
33 / 41
5章.さんかく片想い

05.

しおりを挟む
深い眠りから覚めたら驚くほど頭と身体が軽くなっていた。部屋に夕陽が差し込んでいる。ずいぶん長く熟睡していたらしい。爽快感すら感じながら起き上がろうとして、自分が何かをつかんでいるのに気が付いた。

ていうか。

「…ななせ⁉」

ベッドの淵にななせが座ったままうつ伏せに寝ている。そして、その滑らかな広い手を私ががっちり鷲掴みにしている。

きゃあああ――――っっ、何してるの、何してるの、私っ
体調悪すぎて理性が崩壊したとしか思えないぃぃ―――っ

慌てて手を抜き取ろうとすると、気づいたらしいななせに掴み直されて、

「ん、…」

長いまつ毛が震え、息が止まるほど美しい瞳がゆっくり開いて私を見た。

「…起きた? 熱は?」

寝起きの少し籠ってかすれた甘い声。優しい眼差し。握り直された手。
ななせ。…ななせ、だ。

馬鹿みたいにななせに見とれている間に、上体を起こしたななせが顔を近づけて私のおでこに触れ、額を合わせた。

目の前にななせの整った顔。麗しい肌触り。
優しい吐息。かすめたまつ毛。ななせの匂い。

「ち、…っっ」

…っかいよ‼ 息が出来ない。死ぬわっ。

「下がったみたいだな」

目を最大限に見開いたまま息を止めていた私の髪をさらりとひと撫でして、ななせが安心したみたいに瞳を緩めた。

もう。それだけで。

…好き。

ずるい、モテメン。何気ない仕草一つで人を死にそうな気にさせて。
心を全部持っていっちゃって。

「薬飲んどけ」

別の意味で胸が締め付けられて痛くて苦しくて、だけど嬉しくて。

どうにもできずに、ぼおっとななせに見惚れていたら、ななせが薬と水を口に含んで私の頭の後ろに手を差しいれ、至極自然に顔を傾けて、その柔らかく潤った唇で私の唇に触れ、…

「ちょ――――……っっ」

…かけたから、さすがに覚醒して渾身の力でななせを突き飛ばした。
何するの、何するの、これって、いわゆるキス、…―――っっ

「…おい。何すんだよ。俺が飲んじゃっただろ」
「こっちのセリフだしっ、なんでキス、…っ‼」

後ろによろめいたななせが憮然とした表情で見てくるから、そこは猛然と言い返す。ライブ後に楽屋でオリビアちゃんとキスしてたの、急速に思い出しちゃったじゃん‼

ななせのバカ。軽々しくこんなことして、無自覚に何人女の子泣かせてるんだしっ‼

「…なんで、って。お前が言ったんだろ」

恨みつらみが掛け合わされて憤然とななせを見上げたら、呆れた顔であっさり言い返された。

「キスで飲ませてくれなきゃ飲まない、って」

ぎゃあああ―――っ、誰だよ、私っ‼ ちょっと冥途に落ちてこ―――いっっ

「う。…嘘だよね?」

理性崩壊した自分が心から信じられない。
恥ずかしさに引っ張り上げた布団の隙間から、目だけでこっそり伺い見ると、ななせは何だか面白そうな顔をして近づいてきた。

「嘘じゃないよ? 行かないで、ななせって。ななせがいなきゃ生きていけないって、俺の手つかんで離さなくって…」

「嘘でしょおおお―――――っっ‼」

病み上がりにあるまじきバカでかいドラ声で絶叫した。
恐るべし、理性崩壊。ほぼ全部言っちゃってるじゃんっ

もう冥途から帰って来れないっ、誰か私を埋めて―――っ‼

「まあ、嘘だけど」

ななせがいたずらに成功した少年みたいな煌めいたスマイルを見せたので、ただでさえズタボロな理性がブチ切れて、思わずななせに枕を投げつけた。

「ななせのバカっ‼ 私の理性を返してっ‼」

ななせは難なく枕を受け止めて、

「半分ホントだけどな」

小首を傾げながらベッドに乗り上げて私の頬を長い指先で摘まんだ。

きゃあああ―――っ、ななせが近い―――っ
ていうか、私のバカ―――っ、結局言っちゃってるんか――い‼

「お前さあ、…」

ななせの艶めいた瞳にとらえられて目を逸らせない。
滑らかな長い指が頬を滑る。耳を撫でられて快感に震える。

「俺のこと好きなの?」

ななせの甘い声に息が出来ない。
ななせが近くて、ななせが欲しくて、何も考えられない。

「…そうだよっ‼」

せっかく閉じ込めたのに、ななせがたやすく開けちゃうから、感情がはち切れて溢れ出して止まらなくなる。

「ななせが好きだよっ‼ ななせのせいだよ? ななせが優しいから、誰かれ構わずあんな風に優しくするから、ななせのことしか考えられなくなっちゃったんじゃん‼」

逆切れして我を忘れて叫んだら、喉の奥が締め付けられて涙が込み上げてきた。

「わ、…笑っていいよ。簡単すぎるって。だけど、消したくないんだもん。忘れたくないんだもん」

可愛らしさの欠片もなく、病み上がりのおかしなテンションのまま何もかもやけくそにぶちまけた。

「上書きしたくないんだもんっ、ななせだけがいいんだもんっっ‼」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

好きな人の好きな人

ぽぽ
恋愛
"私には何年も思い続ける初恋相手がいる。" 初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。 恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。 そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。

隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり

鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。 でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...